ピーキーなスープラを乗りこなす、シムドライバーの正体

ドリフトにGT3の精度を持ち込んだ異端マシンの全貌

2019年、GRスープラのデビューイヤーからD1車両の製作およびメンテナンスを担ってきた『ウエインズトヨタ神奈川×俺だっ!レーシング』。

表向きは『TEAM TOYO TIRES DRIFT』に所属していたが、新型車として話題性の高いGRスープラをベースに、前年ランキング2位の川畑選手が駆るマシンということもあり、その製作にはD1GPとしては異例とも言えるFIA-GT3車両のノウハウが投入された。

チーフメカニックの小林氏はレース畑出身。GRスープラの製作にあたりD1GPのレギュレーションを読み込む中で、両カテゴリーの違いに驚いたという。

「レースはレギュレーションが厳しく、ほとんど手を加えられない。一方でドリフトは真逆でした。FIAの規定に準じたJAF公認競技でありながら、改造の自由度が非常に高い。世界的に見ても珍しいカテゴリーで、面白さとやりがいを感じました」

レース由来の手法が最も活かされたのはボディメイクだ。車両が届くと、まずホワイトボディ状態にしてフレーム寸法を細部まで測定。その数値を3D CADに入力し、パワートレインやサスペンションなど主要パーツを図面上で正確にレイアウト。設計値と寸分違わぬ位置に組み付けていく。さらに、市販車に必ず存在する左右数ミリの歪みも、ロールケージ溶接後に修正しゼロへと追い込む。

この徹底した精度へのこだわりは振動の大幅な低減につながり、駆動系トラブルは素材強度に起因するドライブシャフトの破損のみという高い信頼性を実現した。

川畑選手とのコンビでは、2020年のD1GP開幕戦・奥伊吹でGRスープラ初優勝を達成。その後、現体制となり、2024年に山中選手をドライバーに迎えると、マシンとドライバーの歯車が噛み合い始めた。

GRスープラは、S15シルビアと比較してホイールベースが短く、角度変化時の挙動が非常にピーキー。クルマの動きが人間の操作を上回り、コントロールが難しい特性を持つ。だが、実車経験がほとんどなく、シミュレーター中心で練習を積んできた山中選手のスタイルは、この特性と相性が良かった。

「シムは基本的に映像と音だけで操作します。実車より得られる情報は圧倒的に少ない。でも操作のタイミングは変わらない。だから自分にとっては実車の方が簡単なんです」。

その特性は、角度変化の鋭さが評価されるD1GPのDOSS審査において強力な武器となった。さらに、事前にシミュレーターで理想の走りを構築し、実車をそこに合わせ込むスタイルはリスクが少なく、安定した成績にもつながっている。

大会期間中、チームを支えるのはウエインズトヨタ神奈川の現役ディーラーメカによるサポート体制。各大会に3名、年間で延べ15名が帯同し、ドライバーが走りに集中できる環境を構築している。

エンジンは東名エンジンが手がけた2JZ。HKSの3.4Lキットをベースに、ベンチセッティングまで徹底的に仕上げられている。通常は2シーズンで載せ替えを行うが、これまでノンオーバーホールでトラブルは皆無という。

2025年シーズンに山中選手が乗り始めてから、唯一と言える変更点がタービンのサイズアップ。高回転域でのパワーを求めてG35サイズからHKSのGT7095_BBタービンに変更し、LINKフューリーXによる制御でブースト圧2.3キロまでを常用。最高出力はおよそ900psに達している。

整備性を重視してヘッドカバーレスとするチームが多い中、敢えて純正ヘッドカバーを残したレイアウト。ただし、吸排気の両側に独立したブローバイ取り出し口を設定しつつ干渉を防ぐ加工を施すなど、独自の考え方が盛り込まれている。

サスペンションには、追走において接触の可能性のあるドリフトならではの事情を加味し、代替品を用意しやすいよう市販のワイズファブ製品を採用。

タイロッド及びAアームの取り付け位置は、溶接加工によって理想的な動きになるようにアップデートを繰り返してきた。操作感の良さをキープするため他車種用スタビを取り付けできるよう、リンクのマウントを新設している。

ステアリングラックはセルシオ用を流用し、前出し量はカラーで調整可能とした専用サスメンバーを設計。パワステはボッシュ製電動ポンプを2基掛けとし、シムに近い軽い操作感を実現している。

リヤもワイズファブ製アームをベースに、CAD設計の専用メンバーで最適化。車高調はHKS特注で、スプリングレートはフロント16kg/mm、リヤ6kg/mmだ。

ブレーキはエンドレス製で、フロント4ポットに加え、リヤはフット用4ポットとサイド用2ポットを独立制御。山中選手の操作に合わせ、あえて効きを抑えたコントローラブルなセッティングが施されている。

ミッションはサムソナス製5速。パワートレインのセンター出しを徹底したことで振動と駆動系トラブルを抑制し、カーボンプロペラシャフトもトラブルなく使用し続けている。

ボディ補強は最小限に留め、クロモリ製ロールケージでFIA規定をクリア。車重はドライバーなしで1270kg弱だ。

ペダル周りも独自仕様。バンピーな路面でも操作が狂わないようアクセルペダルを延長し、スプリングで踏力を調整。シム慣れした山中選手の好みに合わせ、オルガン式を採用しているのもポイントだ。

外装は、クールレーシングがドリフト競技における機能美を追求し、D1GPで勝つためにデザインした『90R-GTWR SPEC-D』で武装する。リヤは横を向いた際にも機能するドリフト中の空力性能、排煙能力を考慮したトランクウイング及びフェンダーダクト形状を採用。さらに、翼面の下を風が抜けるように設計した、俺だっ!レーシングのオリジナルGTウイングによって、ダウンフォースを獲得しトラクション性能をアップする。

ギャラリーに存在感を大きくアピールするアグレッシブなデザインであることに加えて、ドライバーが車両感覚を把握しやすいようアンダーパネルとバンパー上部がほぼ同じ出幅となる機能を追求した形状でもある。

タイヤはヴァリノ・ペルギア08R(F245/40R18・R285/35R19)、ホイールはグラムライツ57DRスペックD(前後9.5J)。リヤに対してやや細いリムを組み、サイドウォールを積極的に使うセッティングだ。

オフシーズンには1日4時間以上のシミュレータートレーニングを欠かさない山中選手。ルーキーイヤーから2シーズンで追走進出率90%という安定感を武器に、シリーズチャンピオン獲得へ向けた準備は整っている。

TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

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