
世界各国から集まったメディアや関係者は約800人。発表後は厚木の日産テクニカルセンター(NTC)や先進自動運転体験、座間の記念車庫見学などに分かれるプログラムが用意されていた。現在の技術、未来の方向性、そしてブランドの歴史を一体で提示する構成は、今回の発信が単なる説明会ではなく、明確な意思表示であったことを物語っている。
その意図を最も端的に示したのが、エスピノーサCEOの言葉だった。
「これはターンアラウンドの話ではない。成長のストーリーだ」
午前中のプレゼンテーションでも繰り返されたこのフレーズを、あえてここでも強調した意味は大きい。日産が進めてきた再建計画「RE:NISSAN」は一定の成果を上げ、同社は次の段階へ移行した──その認識を内外に示す場が、今回の一連のイベントだった。

実際、日産は2025年2月12日に発表した第3四半期決算で営業利益の黒字化を達成しており、RE:NISSANの取り組みが着実に進展していることが確認されている。こうした業績面での回復も、今回のタイミングでグローバル規模の発信に踏み切った背景にあると考えられる。
では、その「成長」とは具体的に何を意味するのか。
エグゼクティブラウンドテーブルでは、その中身がより踏み込んで語られた。





「人中心」を軸に、次のフェーズへ

商品は減らす、しかし販売は伸ばす

まず示されたのが商品戦略の転換である。
「車種数は減らすが、販売台数は増やす」
一見すると矛盾するように見えるこの方針の狙いは、効率化と収益性の向上にある。これまで日産は幅広いラインアップを展開してきたが、そのなかには販売規模や収益性の面で課題を抱えるモデルも存在していた。
今後はモデル数を絞り込みつつ、1車種あたりのパワートレーンや仕様の選択肢を増やすことで、顧客ニーズへの対応力を高める。結果として、モデル単位の販売台数を約30%引き上げるという構想だ。
ここで重要なのは、単なる縮小ではないという点である。
エスピノーサCEOは「すべてのクルマには存在する理由が必要だ」と語り、ポートフォリオ全体を再設計する考えを示した。
販売台数を担う“コアモデル”と、ブランド価値を体現する“ハートビートモデル”。それぞれに明確な役割を与えることで、商品ラインアップをより戦略的なものへと変えていく。
「ファミリー戦略」で構造を変える

もこの商品戦略を支えるのが「ファミリー」という新たな考え方だ。
従来のプラットフォーム共用をさらに進化させ、車体構造だけでなく、
- パワートレーン
- 電子アーキテクチャ
- ソフトウェア
- 内外装部品
に至るまで共通化を進める。
「プラットフォームの2~3段階先まで共通化する」
このアプローチの特徴は、開発だけにとどまらない点にある。調達や生産拠点、サプライヤー構成まで含めて最初から設計することで、サプライチェーン全体の効率を高める。
つまりこれは単なる部品共通化ではなく、ビジネス構造そのものの再設計である。
組織も変えた。「実行力」を高める改革
戦略の実行に向け、組織体制も見直された。
「戦略は企画、実行はエンジニア。シンプルな構造にした」
従来は意思決定プロセスに多くの関係者が関与し、責任の所在が曖昧になりがちだった。これを整理し、企画と開発の役割を明確に分けることで、スピードと実行力を高める。
成長フェーズにおいては、戦略の正しさだけでなく、実行の速さが競争力を左右する。今回の組織改革は、その前提条件を整えるものといえる。
市場戦略は「ローカル最適」へ
市場戦略についても大きな転換が見られる。
中国、日本、米国を「リード市場」と位置づけ、それぞれがグローバル競争力の源泉となる役割を担う。特に中国については、従来のやり方を見直したことが明確に語られた。
これまでのようにグローバルモデルをローカライズするのではなく、現地ニーズに合わせた専用開発へとシフトする。
「顧客を中心にすれば、クルマは売れる」 とエスピノーサCEOはいう。
さらに販売面でも、中国をひとつの市場としてではなく、地域ごとに戦略を最適化する考えが示された。ショッピングモールでの販売など、新しい流通モデルへの対応も進めていく。
パートナー戦略は「選択的に」
アライアンスについては、従来の枠組みを維持しつつも、より柔軟な姿勢が示された。
ルノーや三菱自動車との協業は引き続き進める一方で、「誰と組むかに関係なく、目標は自ら達成する」とし、自立性を強調する。
ホンダとの協業も検討は続くが、あくまで選択肢のひとつに過ぎない。
依存ではなく、 目的に応じた“使い分け”
これが現在の日産のスタンスだ。
収益の源泉は「クルマの外」へ
今回の説明で特に未来志向だったのが、エネルギー領域への展開だ。
EVのバッテリーを活用し、家庭や電力網と連携する構想について、開発側はこう語る。
「EVの電池をうまく使うことで、エネルギーの課題にも貢献できる」
2027年にパイロット、20今回の説明で特に印象的だったのが、収益モデルの変化である。
従来のようにクルマを売るだけでなく、
- AIドライブ(運転支援の高度化)
- AIパートナー(ユーザー体験の拡張)
- エネルギーサービス
といった領域での収益化を目指す。
なかでも象徴的なのが、この発言だ。
「一日のうちの運転に費やす90分の時間をユーザーに返す。その時間で何ができるか」
自動運転によって生まれる時間を価値に変えるという発想は、クルマを単なる移動手段から「時間を生み出すプラットフォーム」へと進化させるものだ。
さらにEVをエネルギー資産として活用することで、新たな収益機会も生まれる。
今回の一連の発表は、明確な構造を持っていた。
- 長期ビジョン発表会:戦略の提示
- グローバルイベント:意思の発信
- NTCラウンドテーブル:中身の説明
そして、そのすべてを貫くのがこの言葉である。
「これはターンアラウンドではない。成長のストーリーだ」
日産は今、再建を終えた企業としてではなく、構造を作り直しながら成長に向かう企業として、新たな段階に入ろうとしている。
今回の発表は、その“宣言”であると同時に、“実行の始まり”でもあった。自動車産業を取り巻く環境はめまぐるしく変動し、その不確実性も大きい。エスピノーサCEOが描く戦略がその通りに進むかどうかは、現時点では見通せない。
しかし、危機に際して登板したリーダーとして、エスピノーサCEOが明確な言葉で日産の進むべき方向を示したことは確かだ。
日産は今、その言葉を現実のものとするフェーズに入った。

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