
ホンダが2026年3月期決算説明会とビジネスアップデートで示したのは、単なる「EV戦略修正」ではなかった。
北米向けEV3モデルの投入中止。カナダで計画していた包括的EVバリューチェーン構築プロジェクトの無期限凍結。そして、次世代ハイブリッド車への大規模な経営資源再配分。
一見すると「EV失速を受けたハイブリッド回帰」に見える。しかし今回の説明を詳しく聞いていくと、ホンダが本当に向き合っているのは、もっと根深い問題だということがわかる。
それは、中国勢を中心とした“新興OEMのスピード”である。
「EVが間違っていた」のではない

今回、Hondaは従来掲げていた「2040年にEV・FCV販売比率100%」という目標を事実上修正した。
ただし、三部敏宏社長は「ホンダはEVから撤退するのかというと、決してそうではない」と明確に否定している。
実際、日本では軽EVを中心とした展開を継続し、北米でも市場環境を見極めながら「時期が来た時に魅力的な製品を届けるための仕込み」は続けるという。
つまりホンダが修正したのは、EVそのものではない。「未来を読み切れる」という前提だった。
ビジネスアップデートの資料では、2021年時点で想定していた北米EV市場の拡大予測と、2026年時点の実績とのギャップが明示された。さらに、IRA補助金終了やACC II規制の事実上無効化、米国関税導入など、事業環境の急変も並べられている。
三部社長は質疑応答で、「政策前提が大きく変わった」ことを率直に認めた。
その結果としてホンダが選んだのが、「どちらに振れても対応できる柔軟な戦略」だった。
Hondaを変えた「中国スピード」
三部社長が今回、繰り返し語っていたのが「スピード」だった。背景にあるのは、中国勢を中心とした新興OEMの急速な台頭である。
ホンダは従来、徹底的に作り込みを行なう開発文化を強みとしてきた。細部まで煮詰め、何度も図面を引き直しながら完成度を高めていく。それが“ホンダらしさ”を生んできた。
しかし現在、中国メーカーはまったく異なるアプローチで市場を席巻し始めている。
標準化された部品を活用し、AIやデジタル開発を駆使しながら、圧倒的なスピードで商品を投入する。
会見では、三部社長から「ホンダは5回図面を引いていたが、中国勢は1回で市場投入する」といった趣旨の発言もあった。もちろん単純な優劣の話ではない。
しかし、従来型の“磨き込み型開発”だけでは、市場変化のスピードについていけなくなりつつある――。今回のホンダの危機感は、その一点に集約されていた。
ソフトウェア更新の速さ、部品の標準化、開発効率、意思決定速度。従来型の自動車メーカーとはまったく異なる競争が始まっている。
そこでホンダが打ち出したのが、「トリプルハーフ」だ。これは、
- 開発費半減
- 開発期間半減
- 開発工数半減
を目指す取り組みである。
デジタル開発環境やAI活用に加え、企画や開発マネジメントそのものを見直すことで、中国勢に対抗できるスピードを手に入れようとしている。
従来のホンダからすると、かなり大きな変化だ。開発期間の半減については、「世界最短になるのか?」という問いに対して「競合も進化するけれど、少なくともトップレベル」だという。
なぜハイブリッドへ回帰するのか


こうした状況のなかで、ホンダはハイブリッドを2030年までの主力パワートレーンとして再強化する。
2027年から次世代ハイブリッド車の投入を開始し、2029年度までにグローバル15車種を投入する計画だ。 しかも単なる“つなぎ”ではない。
次世代ハイブリッドでは、
- 世界最高効率のパワートレーン
- 10%以上の燃費向上
- 30%以上のコスト低減
を目指すという。
さらに北米向けには、新開発V6エンジンと新型ドライブユニットを組み合わせた大型ハイブリッドモデルまで投入する。
ここから見えてくるのは、ホンダが「EVまでの時間稼ぎ」としてHEVを使おうとしているわけではない、ということだ。むしろ、需要変動の激しい時代において、もっとも現実的に利益を出せる技術としてHEVを再評価している。
「全部自前」をやめるホンダ

今回、もうひとつ大きかったのが、「外部リソース活用」を明確に打ち出したことだ。
中国やインドのコスト競争力やスピードを活用し、標準品を積極的に採用する。現地パートナーのプラットフォームも使う。
従来のホンダは、自前主義が強い会社だった。しかし今回は、
「競争力のコアは自前で磨きながら、スピード・柔軟性・コスト競争力に適した領域では外部リソースを活用する」という考え方へ変わっている。
つまりHondaはいま、「全部自分で作る」会社から、「必要なものを組み合わせる」会社へ変わろうとしている。





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https://motor-fan.jp/article/1485995/今回のビジネスアップデートのサプライズとして、会場でアンベールされたクルマが2台あった。新しい「H」マークを付けた4ドアセダン「Honda Hybrid Sedan Prototype」とアキュラブランドの「Acura Hybrid SUV Prototype」だ。2年以内に発売する次世代ハイブリッドモデルで、次世代ハイブリッドシステムは2023年モデルに対して30%以上のコスト削減を目指すという。また次世代プラットフォームと新開発の電動AWDユニットの組み合わせによる10%の燃費向上を見込むという。
ホンダがハイブリッドに注力していくことを示すためのプロトタイプのお披露目だったが、筆者には2026年3月期決算、つまり上場以来初の最終赤字の衝撃から目をそらすために置かれたように思えた。2年後に発売するモデルを、ここで見せたのはホンダの焦り、不安の表れなのでは、とも感じた。

それでも“ホンダらしさ”は残せるのか

ただ、ここで難しいのは、ホンダが単なる効率企業になりたいわけではない、という点だ。
プレゼンテーションでは、「Enjoy the Drive」という言葉が掲げられ、「操る喜び」「爽快な走り」を繰り返し強調していた。
つまりホンダは、中国勢のスピードや効率を取り込みながらも、“ホンダらしさ”は残したいと考えている。
しかし、それは簡単な話ではない。
ビジネスアップデート終了後のメディア向けQ&Aセッションでは、「ホンダらしさ」とはなにかを何度も問われていた。
開発を速くし、コストを下げ、標準化を進めるほど、クルマづくりは均質化へ向かう。そのなかでなお、“ホンダらしい走り”を残せるのか。中国勢のスピードを取り込みながらも、“操る喜び”は捨てない。ホンダはいま、その難しい両立に挑もうとしている。
そしてそれは、単なるEV戦略の修正ではなく、「ホンダとは何か」を問い直す戦いなのかもしれない。
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