ソレノイドバルブ式電子制御サスペンション「ActRide」

カヤバがリリースした電子制御サスペンション「ActRide」は、これまでアフターマーケットで主流だったステッピングモーター式ではなくソレノイドバルブ式を採用しているのがポイント。このタイプのサスペンションは欧州車を中心にプレミアム系の車種で採用例が多く、カヤバのシステムはVWなどで採用されている。

カヤバ「ActRide」(ハイエース用)

そんなカヤバのOEMサスペンションをアフターマーケット用にリリースしたのが「ActRide」だ。ソレノイドバルブは欧州のプレミアムラインに採用例の多い伸び側・縮み側の2系統ではなく、両者を兼ねる1系統。また、アフターマーケット用という点、クルマのセキュリティという点で、車両本体の電子系とは独立したシステムとなっている。

「ActRide」カットモデル
「ActRide」カットモデル(ソレノイドバルブ部拡大)

そして何より、スマートフォンアプリで手軽にセッティングを変更できるのがポイント。セッティング状態や動作状況を表示する専用のディスプレイも必要なく、実にシンプルなシステムになっている。

「ActRide」アプリ
カヤバが電子制御サスペンションの新製品『ActRide』を発売!スマホで簡単セッティング!まずはハイエース用から | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

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カヤバ「ActRide」発表会

試乗車はトヨタ・ハイエース

こちらは撮影用の展示車両で、キャンピングカー仕様。

製品ラインナップ第1弾はトヨタ・ハイエースの現行モデル用(対象車種や選定理由については前回の発表会記事を参照してほしい)。
そして今回、「ActRide」装着車での試乗会が開催された。試乗車は「ActRide」未装着の標準車と装着車。それぞれ同じコースを走り、違いを体感するというものだ。

「ActRide」を装着したフロントサスペンション。
「ActRide」を装着したリヤサスペンション。
センサー/コントロールユニットはセンタコンソール直下の床に設置。車体中央のの低い位置に水平に設置するのが望ましいが、ある程度はキャリブレーションで補正が可能。

試乗車のハイエースはいずれもバン最上級グレードの「スーパーGL」。ビジネスユースにプレイベートにと、大人気のモデルだ。ボディやルーフは標準で、パワートレインはディーゼルの4WDとなっていた。

比較試乗:一般道編

試乗コースは千葉県の郊外路。基本的には片側1車線の道路で、ところどころセンターラインが無くなる狭い道も走行。舗装状態もスムーズな場所が多かったが、ところどころ荒れているところもあった。急傾斜や山道とまではいかないが、坂道やワインディングも含まれていた。

「ActRide」装着試乗車。

標準車で走ってみると、思った以上に乗り心地が良い印象だった。ワインディングではややロールが大きくS字の切り返しなどでは狙ったラインから外れそうになることもあったが、一般道の速度レベルでは不安は無い。さすが、ビジネスエクスプレスとして活躍するハイエースだ、と感じた。

一方、「ActRide」装着車に乗り換えてみると、走り出しからクルマの動きがスムーズになったように感じた。特に小さな段差や路面のいなし方がスムーズになっていた。基本的に状況に応じて自動的に調整される「オート」モードでの走行だが、セッティングの変化やクルマの動きに不自然なところは無く、ひとクラスもふたクラスも上のクルマになったようだ。

「ActRide」装着試乗車。

そこから、「ライドコントロール」(乗り心地制御)と「ハンドリング」(操縦製制御)のセッティングを変更。短い試乗時間での体感のため、カヤバスタッフによるそれぞれ極端な方向でのセッティングで違いを体感した。

その効果は(極端なセッティングだけに)カヤバが標榜する通り、その違いはハッキリと感じられた。乗り心地重視では乗り心地が良い反面、クルマの動きはやや緩慢。ハンドリング重視はボディを感じさせないくらいキビキビとした動きで狙ったラインをトレースしやすい。その代わり、突き上げがやや大きく小さな凹凸も細かく拾ってしまう。

「ActRide」装着試乗車。

特にハンドリングでは「これがハイエースの動きか」と思えるほどで、個人的には非常に好感触を得た。前席と後席の違いはより如実で、同乗者的にはやはりコンフォート寄りのセッティングが好ましかったようだ。

つい、ハンドリングや乗り心地に意識が行ってしまうが、ブレーキ時の動きも好ましい。フロントの沈み込みが抑えられ、安定した減速が可能になっている点はある意味ハンドリング以上に効果を感じるところで、これはオートはもちろんハンドリング重視でも乗り心地重重視でも良い方向に働いていた。

「ActRide」装着試乗車。

クローズドコースでスラロームと段差を試乗

一般道に続いて場内でスラロームと段差乗り越えの試乗もなわれた。スラロームはクルマの性格を考慮して感覚はやや広めに取られていたようだ。スラロームは30km/h、段差乗り越えは20km/hでの走行となった。

「ActRide」装着試乗車のスラローム。
場内試乗の段差コース。

標準車では30km/hでもスラロームとなるとロールの大きさと切り返しの際の遅れが出てしまう。公道のカー日和も狭くステアリングの操作量も多いので、ステアリングのギア比が大きい影響もある。
段差の乗り越えは連続した小さな突起と、大きめの段差を一回乗り越える。小さな段差の連続では車体が左右にゆすられ、大きな段差では衝撃の強い突き上げがある。

「ActRide」装着車は、一般道と同じく「オート」モードに加え、乗り心地重視とハンドリング重視を極端に振ったセッティングで体感。

「ActRide」装着試乗車のスラローム。

やはり、ハンドリング重視のセッティングではリニアリティが向上し、ハンドル操作量は変わらなくとも安定したスラロームが可能だった。
もちろん、段差の突き上げは増えるものの、小さな段差では車体の揺れは少なくなった。意外だったのは大きな段差でも突き上げ感はあまり変わらず、却って収まりの良さを感じたほどだった。

小さな段差の乗り越え(「ActRide」装着車)。

乗り心地重視のセッティングでは、ハンドリング重視のようにはスラロームできずロールは大きくなるが、それでも実装着車よりは扱いやすい。

段差の乗り越えでは小さな段差の連続はスムーズにクリアしてくれる一方、突き上げの大きさはあまり変わらない印象だったのが逆に意外だった。こればかりはショックアブソーバーだけでなく、バネやサスペンション構造、車体やシートの影響もあるかもしれない。

大きな段差の乗り越え(「ActRide」装着車)。
大きな段差の乗り越え(「ActRide」装着車)。

なお、オートではこれら両極端なセッティングの中間、未装着車の上位互換といった印象だった。

スマートフォンアプリでのセッティング変更

これらのセッティング変更は全てスマートフォンアプリで車内から行なわれた。サスペンションセッティングをクルマから出ず、スマホだけで完結できるのはとても便利だ。セッティングの変更は直ちに反映されるし、好みのセッティングを見つけるまでのトライ&エラーも楽だ。

「ActRide」アプリを動画で見る。

何せセッティング幅がシステム上の表記で0〜100まであるのだ。きっと好みの、あるいは最適なセッティングが見つかるだろう。

「ActRide」アプリ(カスタム設定)

また、クルマの状況に応じて変えられるのもポイント。「パッセンジャーがいるから乗り心地重視」「ひとりでキビキビ走りたい」「舗装が良くないからソフトに」「スムーズなワインディングはリニアなハンドリングで」といったシチュエーションに合わせてすぐにセッティングできる。

セッティングは保存しておけるので、変更時は選ぶだけ。いちからセッティングを探すのは楽しくもあり面倒でもある。そのため、カヤバが設定した「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」というデフォルトセッティングを選ぶというも手だし、それをカスタムベースにするのが良いかもしれない。

「ActRide」アプリ(「コンフォート」モード)

スマホ画面では減衰指令値(どの程度の減衰力設定にするか)とIMUセンサーからもたらされるクルマの動きが6軸(3軸の加速度+3軸の角速度)がリアルタイムで表示されるのが面白い。表示されるのは「Gボール」「ピッチ」「ヨー」「ロール」「速度」。速度のみスマホのGPSデータとなっている。

「ActRide」アプリを動画で見る。

気になる積載時の動作

ハイエースとなるとやはり空荷と積載時の違い。ハイエースはグレードのより最大1000kgまでの荷物を積載することができ、そうなるとクルマの動きの違いは歴然だ。

今回の試乗では空荷で5人車での試乗だったが、積載状態での動作も気になるところではあった。カヤバによると開発中では空荷状態や最大積載はもちろん、積載重量も何段階かに分けてテストしているという。おそらく、積載状態でも最適な減衰を選んでくれるだろうし、好みのセッティングも可能だと思われる。

ハイエースだけに積載時の荷室への効果も気になるところ。

空荷と積載状態の違いが大きなハイエースだからこそ、それぞれに合わせたセッティングが可能な「ActRide」は最適だと言えるだろう。

新車でも既存車でもおすすめ!他グレードでの効果?

ハイエース用「ActRide」は2WD/4WDの違いはあれど、全グレード対応となっている。価格は26万500円。車高調機能は無いが電子制御サスペンションとしては比較的お求めやすい設定。オーバーホールは出来ないが、カヤバのOEMクオリティと考えればライフは長いだろう。年式や走行距離的にサスペンション交換が必要になっているなら「ActRide」は良い選択肢だ。

現行型ハイエース。日本女らず世界で愛される商用バンだ。

筆者のハイエースの経験は主にロングのワイドボディ+ミドルルーフの2WD車だった。積載時は安定するのだが、空荷/軽貨状態だとリヤまわりの安定感に不安を感じることが多かったが、今回の試乗車は標準ボディの4WD車で、明らかに安定感は上だと感じた。

キャンピングカーにも良いかもしれない。

そんな2WDモデルやロング、ワイドでも最適なセッティングができるなら「ActRide」の価値はさらに高い。他にもワゴンモデルが送迎車に利用されるケースも多いだけに、空車時はドライバー好みに、乗車時は乗客に合わせて乗り心地重視といった使い方も想定できる。

そんな他ボディ、グレードでの装着効果も大いに気になるところだ。

今後のラインナップ展開は……

第1弾となった現行ハイエースは言わずと知れた商用バンのベストセラー。しかも2008年以来のロングセラーでもある。それだけに金損車も多く、車齢の長い車種はサスペンション交換が必要なクルマも少なくない。加えて、個人オーナーのカスタム意欲が高い車種でもあるため、アフターマーケットとしては非常に有望だった。

ハイエース「スーパーGL」(「ActRide」装着車)

では、今後の車種展開はどうなるのだろうか?ある意味、アフターマーケットとしてはハイエース以上の状況が見込める車種は想像しづらい。カヤバ的に公言する段階ではないが、世界的に人気のSUVのグローバルモデルであれば、ハイエース同様に試乗ボリュームが期待できるかもしれない。あるいは、テインのようにスポーツ走行ユーザーが多い車種へのラインナップも期待したくなる。

いずれにせよ、まだ第1弾。今後「ActRide」のラインナップ追加には期待だ。