背景(ストーリー)のあるPCXスワップ
ベースマシンはホンダ・ズーマー(北米モデル名:RUCKUSラックアス)。そこにPCX125エンジンをスワップするという組み合わせは、USDMカスタムの定番手法の一つだし現在は便利なスワップキットも発売されている。ただしこの“Barely Legal 2.0”と名付けられたマシンの製作が始まった2017年当時はそうしたキットも発想もなかったタイミング。北米ではノーマルの50ccエンジンに対して、パワフルな中華製125cc「GY6エンジン」をスワップするのが一般的だったし、日本では入手しやすいヤマハ・グランドアクシス100やヤマハ・シグナスXのエンジンをスワップするユーザーが多かったからだ。
そう、このマシンの核にあるのはカリフォルニアのOGショップ「RUCKSTERSラックスターズ」が手掛けたということ。2008年に今回来日したHAIを含む三兄弟でスタートした伝説的なカスタムショップ(今でもあり、正式名称はRucksters Customs)で、当時の車両オーナーHAIのために、メインフレームをはじめ、シートフレーム、センターフレーム、エンジンマウント、ホイール周りといった主要部分をワンオフで製作している。しかし、そのまま進むかと思われたが“Barely Legal 2.0”製作プロジェクトが、事業拡大に従うショップの一時閉店により中断してしまう。その後、ショップは活動を再開することになるのだけれど、日々の業務に追われ“Barely Legal 2.0”はメンテナンス台に置かれたままだったのである。
その後、ラックスターズと公私ともに関係の深い日本のSCR WORKSに声が掛かり、プロジェクトを引き継ぐ形(コラボレーション)で再開。製作途中だった車体が日本に持ち込まれると、キモとなるPCXエンジンのスワップ作業、ハーネスほか制御系、ハンドル周り、コントロール系製作、カラーリングを行い完成させたのである。
ちなみにコンセプトは“OLD AND NEW”。2010年に製作されたオリジナル“Barely Legal”の初期RUCKSTERSテイストをリスペクトしながら、現代的な構成へとアップデートした“続編”だ。ハーフマットシルバーとブラックのモノトーンカラー、Trailtech製ヘッドライトといった当時の空気感に対し、ブレンボ製ラジアルマスターによる前後ディスクブレーキやステアリングダンパーといった現代的なパーツを違和感なく融合している。
ちなみに“Barely Legal”とは、直訳すれば「ギリ合法」。アメリカでは“アウト一歩手前”のニュアンスで使われるスラングで、この車両の攻めたスタイルを象徴している。フレーム構成やデザイン、そして走りのためのパーツ選び。そのすべてが“ラインぎりぎりを攻める”という思想で統一されている。
また、PCXエンジン(水冷4ストFI)をスワップする上で課題となる配線処理も見どころのひとつだ。超定番のGY6系(空冷4ストキャブレター)と比較して圧倒的に増えるハーネスを、ダイエット化と取り回しの工夫によってクリーンにまとめているのはあっぱれ!というしかない。外装を削ぎ落とした究極のスタイルだからこそ、この仕上げがそのまま完成度に直結するのだから。
足周りは、ワイドホイールに引っ張りタイヤを組み合わせ、存在感のあるリヤショックをセンターレイアウトでマウント。ブレーキは前後ディスク化され、ブレンボ製キャリパーとラジアルマスターによって制動力もしっかり確保されている。見た目重視ではなく、きちんと“走る前提”でメイクされているのもこのマシンらしい。
そして、この車両の面白さはスペックだけでは語りきれないところにある。USと日本、過去と現在、そのすべてが重なって成立している1台。スペックを語るより、背景を語りたくなる。それがこの“Barely Legal 2.0”の一番の魅力なのだ。

車体の核となるフレームは、ラックアス(日本名:ズーマー)をベースにRUCKSTERSによるワンオフ製作。リヤセクションやセンターフレーム、エンジンマウントまでを作り直すことで、PCXエンジンを前提としたパッケージとして成立させている。見た目の低さやバランスの良さは、このフレーム設計あってこそだ。

■MACHINE:ラックアス(日本名ズーマー) ■OWNER:SCR-WORKS
足周りにはrPRO製パーツを中心に構成。ハンドルのMONSTER DRAG BARSやステップのMONSTER KICKERSなど、USカスタムの定番をしっかり押さえている。ただパーツを並べるのではなく、“当時の空気感”を崩さないための選択になっているのがポイントだ。

外装はハーフマットシルバー×ブラックのモノトーン。2010年のオリジナル“Barely Legal”を踏襲しつつ、現代的なパーツ構成と融合させた“Old and New”のスタイルだ。派手さではなく空気感で見せるUSDMらしい仕上がりで、見れば見るほど理解が深まるタイプの1台。

カラーリングもポイント。ハーフマットシルバーをベースにしながら、光の当たり方で印象が変わる仕上げは、シンプルな構成の中でしっかり存在感を主張してくる。

メインフレームを補強するようレイアウトされている丸穴デザインが特徴的なチンボーンは、rPRO製のワンオフ品。シートもrPRO製となっている。

今回の“Barely Legal 2.0”を手がけたSCR WORKSのHAI氏(左)と、オーナーの菊池さん(右)。USDMカルチャーへの共通理解があるからこそ成立した一台で、渡米時、来日時はファミリーのように過ごす関係性。この距離感の近さも完成度を支える大きな要素だろう。
ヘッドライト周り

RUCKSTERS初期からのアイコンとも言えるTrail Tech製ヘッドライトを採用。コンパクトながら高輝度で、今回の“Old and New”コンセプトを象徴するポイントのひとつ。
ハンドル周り

MNNTHBX製ステムにハンドルはrPRO製MONSTER DRAG BARS、ステップは同じくrPROのMONSTER KICKERSを装着。どちらもUSカスタムシーンを象徴するパーツで、ポジションと見た目の両方に大きく影響する部分だ。細部まで“あの雰囲気”を崩さないセレクトが効いている。
操作系は極力コンパクトにメイク

ハンドルレバーはブレンボ製ラジアルを採用。ミラーはCRG製バーエンドタイプをチョイスして、シンプルな構成ながら、ハンドル周りの密度を引き締めている。さらに“抜き”の演出としてスポンジフォームグリップと言うのもユニーク。こうした小物のセレクトまで抜かりがないのが、このビルドの完成度の高さを物語っている。
ローダウンなのに安定感もある足周り

フロント周りはrPRO製ローダウンフォークをベースにCHIMERA製スプリングを組み合わせた構成として、低さとストロークを両立したセッティング。ローダウンスタイルながら、実際に走らせることを前提にした構成だ。さらに注目はステアリングダンパーの装着。ショートホイールベースかつハイパワーなPCXエンジンとの組み合わせで起こりやすいフロントのバタつきを抑え、直進安定性と安心感を底上げしている。見た目だけで終わらせない、“ちゃんと走るためのローダウン”を支える重要なポイントだ。
しっかり止まる・しっかり魅せるを実現したブレーキ周り

ブレーキはブレンボ製ラジアルマスターに加え、キャリパーはRRGS製を採用。ディスクローターはBRAKING製で、PCXエンジンによってパワーアップしたパフォーマンスに対して十分な制動力を確保している。rPRO製フロントホイールは現在入手困難な絶版モデル(12×4J)。フロントタイヤはMAXXIS製100/65-12サイズを装着。見た目だけでなく“ちゃんと止まる”ことを前提にしたセットアップで、ロースタイルでも安心して扱える。
高級感のあるタンクカバー&フロア周り

中央に配置されたカーボン製タンクカバーにrPRO製フィラーキャップを組み合わせる。ステップは当時の雰囲気を残すrPRO製のMONSTER KICKERSフォワードフットレストタイプに。外装を足さずに“密度”を上げる、このビルドの考え方がよく分かるディテールだ。油温系などもフロアに集約。
苦労したワイヤータック

この配線量、正直かなりのもの。GY6系キャブレターエンジンに対して、PCXのFI化で配線はざっくり約4倍。ECUやセンサー類も増えて難易度は一気に上がる(水冷の為ラジエターも!)。それでもSCR WORKSは“隠す”ではなく“整えて見せる”方向へ。“配線ダイエット”と、最短ルートでの引き直しによって、この密度でも破綻しないレイアウトにまとめている。エキゾーストまわりの熱対策、振動を考慮した固定方法、さらにステア時の可動域まで計算された取り回しは、ストリートで安心して乗れる前提があってこそ。本来ならネックカバーで隠す部分も、スタイル優先であえて未装着。この潔さが、この車両らしさだ。
PCXエンジンをスワップ(換装)

エンジンはPCX125ユニットをベースに、SCRWORKSによるポート加工ヘッドとキタコ製i-MAPで制御。125cc化によるトルクアップに加え、スムーズなレスポンスを実現しており、余裕ある走りが魅力だ。駆動系はKN企画で統一。プーリー、ドライブフェイス、トルクカム、センタースプリング、Vベルトまで一式を揃えることで、スムーズな加速特性を実現している。PCXスワップの性能をしっかり引き出す構成だ。
マフラー

マフラーはUSヨシムラ製ワンオフ。PCXエンジンとの相性もよく、スムーズな吹け上がりと太いサウンドを両立している。視覚的にも音でもキャラクターを決定づける重要パーツで、この車両の“らしさ”を強く印象付けるポイントだ。
吸気系はコンパクトに

PCXエンジンをベースに、吸気系はパワーフィルター化しコンパクトに。スロットルボディ周辺の取り回しやハーネス処理は、スクーターとは思えないほどタイトかつクリーンにまとめられている。まさにSCRらしい“見せる配線”だ。
リヤショックはモノショックセンターマウント

リヤショックはYSS製を採用。ワイドタイヤとの組み合わせでも破綻しないよう、ストロークと減衰をしっかり確保している。見た目は攻めているけど、走らせるとちゃんと動く。この“ギャップ”がこの車両の面白さでもある。
リヤホイール


特徴的なリヤホイールはrPRO製12インチ×7J幅。そこにMICHELIN製140/60-13サイズを引っ張りで装着。独特のスタンスを実現している。リヤブレーキはブレンボ製でディスク化済み。このアンバランス感こそUSDMらしさだ。
テールランプ

ハーフマットシルバーのフレームに対し、極限までシンプル化されたテール構成。薄型LEDテールランプをフレーム下に収めることで、視覚的な軽さと近代的な印象を両立している。
ナンバープレート周り

リヤ周りはPCXスワップに合わせてフルワンオフ。サイドマウント化されたナンバーステーはシンプルな構成ながら、配線の取り回しまで含めてスッキリと収まる。ナンバープレートはBOWLS製。外装を削ぎ落としたスタイルだからこそ、こうしたディテールの整い方がそのまま完成度に直結。USDMらしい“抜き”の美学が分かりやすく出ているポイントだ。

ベースマシンはこちら
2001年に登場したホンダ・ズーマー。外装を極力排したフレーム構造と極太タイヤで人気を博し、カスタムベースとして独自のカルチャーを築いた。2007年にFI化され最終モデルは2012年式。
