準優勝の実績を手に、次なる目標はシリーズ制覇
シミュレーターで磨いた才能が、今度は頂点を狙う!
2025シーズン開幕前、「現役スーパーフォーミュラ/SUPER GTドライバーの大湯都史樹選手が、東京オートサロングランプリ受賞車両のGR86でフォーミュラドリフトジャパンへ参戦する」というニュースは、ドリフト界に大きな衝撃を与えた。

もっとも当時は、期待と同時に懐疑的な声も少なくなかった。ドリフトからレースへの転向成功例は数多く存在するものの、その逆は極めて稀。さらに大湯選手自身、競技ドリフトの経験はなく、プライベートで楽しむ程度だったからだ。
しかし開幕戦・富士で、その評価は一変する。単走予選を突破すると、追走では実力者・草場選手を相手に互角以上の戦いを展開。ワンモアタイムにもつれ込んだ勝負では、相手に先にミスを誘発させるほどの集中力を見せ、競技ドリフト初勝利を手にした。

その急成長を支えたのが、シミュレーターによる徹底的なトレーニングだ。チームカザマと縁の深い山中選手を講師に迎え、開幕までの約2か月間は週3日ペースで夜通し走り込みを継続。ドリフト未経験者が短期間で戦えるレベルへ到達した背景には、こうした地道な積み重ねがあった。



そして、その挑戦を支えるマシンもまた特別な存在である。ベースとなるGR86は、東京オートサロン2024でグランプリを獲得したカザマインダストリーズとCFラボの共同製作車両。VaRTM製法によるフルインフュージョンカーボンボディを採用し、ボンネットやフェンダーはもちろん、ルーフやドア、ダッシュボードに至るまでカーボン化された徹底ぶりだ。
2026シーズンは、それまでのカーボン地仕様からチームカラーのラッピングへ変更。外観を一新しながらも、中身はトップカテゴリーで戦うために磨き上げられた高い完成度を維持している。


エンジンは、東名パワード製3.6Lストローカーキットを組み込んだ2JZ-GTEへ換装。GCG製G40タービンとLINK ECUを組み合わせ、さらにNOSドライショットによってパワーを上乗せすることで、1000psオーバーを発生する。2026シーズンからはモティーズのRRBOレースオイルを採用。使用済みオイルを高性能ベースオイルとして再生利用する環境配慮型オイルの投入も注目ポイントだ。

冷却系も抜かりない。トラスト製インタークーラーとオイルクーラーに加え、PWR製ラジエターは電動ウォーターポンプ化したうえでトランク内へ配置。効率的なレイアウトにより、ウォータースプレーを使用せずとも真夏の競技を戦い抜ける冷却性能を確保している。

シャシー面では、ワイズファブ製アームキットが重要な役割を担う。大湯選手の武器である深いアングルからのハイスピード進入を支える切れ角アップを実現するとともに、フルカウンター時の安定性向上を狙ってステアリングラック位置も最適化。DG-5車高調との組み合わせにより、ドリフト中もリヤへ荷重を乗せ続ける独自のセットアップが構築されている。

フロントアームはスタビレス仕様。セッティングは大湯選手の理想を聞きながら、実際の走行データや外から見た車両挙動も判断材料にしてチームメカニックが煮詰めていくスタイルだ。

進入時の素早い荷重移動と、アングルがついて姿勢が決まった後のリヤトラクションを左右するDG-5車高調は、このマシンの走りの要。前後車高を含め、リヤが沈み込んだ状態をできる限り維持できるセッティングが現在の仕様となっている。

リヤタイヤは19インチながら、タイヤ幅制限いっぱいの295サイズではなく275/40を選択。高扁平化によってサイドウォールを積極的に使えるため、より高いトラクション性能を引き出せるという。



ルーフやドア、ダッシュボードに至るまでインフュージョンカーボン製とした仕上がりは、東京オートサロングランプリ受賞車両にふさわしい完成度を誇る。Bピラー以降は隔壁によって区切られ、ラジウム製安全タンクとラジエターを配置するスペースとなっている。


また、用意された車両に対して大湯選手がほとんど要望を出さなかった中、唯一細部まで拘ったのがシートポジションだった。レバー類やステアリング、ペダル配置に至るまで徹底的に追求し、とくにペダル位置についてはブレーキとアクセルの位置関係をミリ単位で見直しながら何度も作り直したそう。

シフトレバーの位置にも同様の拘りが見られる。ステアリング位置については、FDJ大会期間中も練習走行時間を削ってまで理想のポジションを追求し、最終的にはワンオフ加工によって現在のレイアウトへと辿り着いた。

実際、第2戦・第3戦ではウェットコンディションへの対応に苦しみ予選敗退を喫した。しかし、その経験を糧にさらにシミュレーターでの練習を重ね、第4戦SUGOでは雨を克服してベスト16へ進出。そして第5戦・奥伊吹で、その才能はついに大きく花開く。
予選4位通過から勝ち上がり、決勝戦へ進出。最後はNOSスイッチ操作時のミスによるパワーロスが響いて惜しくも準優勝となったものの、それはシーズン前には誰も予想できなかった結果だった。
レースで培った感覚をドリフトへ落とし込み、ひとつひとつ経験を積み重ねる。その努力が、2025シーズンの準優勝という大きな成果へと結びついたのである。

そして迎えた2026年。スーパーフォーミュラとの日程重複により開幕戦は欠場となったものの、第2戦鈴鹿ツインから再び参戦を開始した大湯選手は、予選を突破して決勝トーナメントへ進出。最終的には13位まで勝ち上がり、昨シーズンの活躍が決してフロックではなかったことを証明してみせた。
シミュレーターで磨いた才能は、今や確かな実戦力へと変わりつつある。次なる目標はFDJの頂点。その挑戦は、まだ始まったばかりだ。
TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

