目指したのはクロスカブのタイプR

MACHINE:CROSS CUB 110(JA45) OWNER:masaさん

このマシンのコンセプトは「温泉旅バイク」。原付二種で日帰り400〜500kmを走り、林道や峠道も気持ちよく楽しめる相棒を目指して作り込まれている。しかし、その裏にはもうひとつのテーマがあった。それが「クロスカブのタイプR」化だ。

派手な装飾やマフラーで速さを主張するのではなく、ECUを軸に吸排気やエンジン内部をコツコツと煮詰め、本来持っている性能を引き出していく。マフラーもあえて純正をベースに内部だけを加工。排気量アップもしていない。「マフラーを替えてるから速いと思われたくない」というオーナーの考えもあり、音量はほぼノーマルのまま。見た目も至って普通だ。

ところがアクセルを開けると、その印象は一変する。エンジン内部は、ワイセコ製CRF110用ハイコンプピストンで圧縮比を10%アップ。バルブにウエスト加工を施しチタンバルブリテーナーを入れてフリクションを軽減。スムーズに流れるようポートの段差も修正。カムチェーンテンショナーもマニュアル式にして高回転回した時のストレスを減らしている。さらに、SP武川製ハイカム、φ24mmスロットルボディなど、オーナーがミニバイクレースで培ったノウハウを惜しみなく投入。使用するオイルはロイヤルパープル製10-40wで、2000km毎に交換している。そして「これがないと話にならない」と断言するのがアレーサー製フルコンだ。クロスカブ用設定のない他車種向けのフルコンECU(アレーサー製)を流用し、配線から製作。スマホでデータを確認しながら季節や気圧の変化に合わせて細かくセッティングを重ねた結果、シャシダイ計測では後輪出力10.6psを記録し、ノーマルの8.0psを大きく上回る実力を手に入れた。パワーバンドは7000-9000rpmだが、そこから上の回転域も十分使える。6000rpmから力が出てきて10800rpmで燃料カットが入るように設定。驚くべきことに、2速のまま70km/hオーバーまで気持ちよく吹け上がっていくのだ。

GIVI製トップケースやロングスクリーンなど、装備を見る限りは完全に旅仕様。しかし、その中身にはECUを軸に積み重ねたファインチューンが詰め込まれている。

見た目はあくまでノーマル路線。純正マフラーをベースにした外観やツーリング装備も相まって、まさか後輪10.6psを発揮する”カブ版タイプR”だとは誰も思わない。

コツコツ積み重ねたのはパワーだけじゃない

実際に試乗して最初に感じたのは、エンジンよりも車体の軽快さだった。左右に振った時の素直さやコーナーへ倒し込む時のシャキッとした動き、そして路面をしっかり掴んでいるような接地感。クロスカブのイメージをいい意味で裏切る走りを見せてくれる。パワーに頼らずともおのずとアベレージ高く走れてしまう車体の良さを感じた。その秘密は、ゼロポイント製クロモリアクスルシャフトや各部の精度出しにある。フロント、リヤ、スイングアームピボットと一本ずつシャフトを交換しながら効果を確認。、エンジンが正しい位置に収まるようシム(薄いワッシャー)を挟んで搭載位置を調整(チェーンラインも同様だ)。フロントフォークはアクスルシャフトが抵抗なく真っ直ぐささるようフォーク側で左右差を調整するという徹底ぶり。さらにSP武川製アルミリムやチューブレス加工など、細かな積み重ねによってクロスカブ本来のポテンシャルを引き出している印象。オーナーによれば、Uターンのしやすさまで変わったというから驚きだ。

「速くしたいというより、効率よく走らせたいだけ」。そんな考えでコツコツと仕上げられたこのクロスカブは、パワーアップだけでなく扱いやすさや快適性まで手に入れている。普段の街乗りからロングツーリング、そして峠道まで気持ちよく走れる一台。その姿はまさに、オーナーが目指した”クロスカブのタイプR”そのものだった。

試乗して驚いたのが、この自然な旋回フィール。2速のまま70km/hオーバーまで吹け上がるエンジンと、コツコツ煮詰めた車体が生み出す走りは、まさに”静かで速い”のひと言だった。振動も少ない!

パワーに直結するキモパーツ

アレーサー製フルコンはサイドカバーの中にセット。社外製パーツは極力見せないのがオーナー流だ。

マフラーは内部のパイプや隔壁を加工し、計測DATAを元にマフラー全長を50mmカット。空燃比を計測するためノーマルマフラーにO2センサーを装着している。

エンジンの状態はスマホでモニタリング。ツーリング先での気圧の変化や季節の変わり目など、セッティングは小まめに変更している。

パワー測定は、和光2りんかんで計測。

走りに直結するキモパーツ

フロントから1本ずつ装着し効果を確かめていったというクロモリ製アクスルシャフト。アクスルナットはチタン製に変更している。

チェーンアジャスターは精度の高い(より、面で接触する)カブドック製をチョイス。一見走りに影響がなさそうに思えるが、こうした積み重ねが極上の走りを生むという。

SP武川製アルミリムで軽量化と運動性能をアップ。具体的にはフロント1.6幅でリヤが1.85幅で太い(ノーマルは前後1.6幅)。さらに、チューブレス加工を施している。装着するタイヤは、ピレリ製ディアブロロッソコルサⅡ
(90/80-17)。

アクスルシャフトがストレスなくまっすぐ入るよう、フロントフォークの取り付け位置を絶妙に調整。こうしたバランスを整えることが重要なのだ。

※この記事は月刊モトチャンプ2023年5月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】