目次
スズキ アドレスV50 排気量:49cc
車両重量 74kg ÷ 最高出力 3.7ps = パワーウエイトレシオ→ 20kg/馬力
スズキ独自の先進技術であるSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)を採用した、空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブエンジン搭載の原付スクーター。SEPとは燃焼効率を上げ、フリクションロスを低減することにより、パワーを落とすことなく低燃費を実現したエンジンの総称。
CVTの変速特性の最適化により、実用速度域でのエンジン回転数をできるだけ抑えた設定を目指し、燃費性能と併せて走行性能も向上させ、力強い加速を実現。高いフレーム剛性と軽量化を両立した軽量ボディにより、軽快な走行を実現。街中での取り回しやスタンド掛けもラクラク。近場の移動や買い物に最適な一台。
ホンダ NSR80 ボアアップ仕様 排気量:98cc(ノーマルは79cc)
車両重量 79kg ÷ 最高出力 20ps以上 = パワーウエイトレシオ→ 3.95kg/馬力
高性能な2スト用レーシングチャンバーなどをリリースする老舗ショップ「RSリップス」が製作した、ホンダNSR80のフルチューン仕様車(写真は2003年撮影)。RSリップス製98ccボアアップキット(廃版)、RSリップス製レーシングチャンバー、社外レーシングCDIなどを組み込み、ノーマルの12馬力からオーバー20馬力(後輪出力)にパワーアップ。
道幅が狭くてタイトなコーナーが続く峠道や、ストレートが短いカートコースなどでは、同車は2ストエンジン特有の瞬発力と、小回りの利く前後12インチの小径ホイールを活かし、重量級の4ストのリッターバイクをぶち抜く機動性と瞬発力を装備(※注1)。パワーウエイトレシオ「3.95」という“単純な数値”では計り知れない、「知ってる人は知っている驚異的な速さ」を秘めているのがポイントだ。
日産 GT-R NISMO スペシャルエディション(2024年式) 排気量:3,799cc
車両重量 1940kg ÷ 最高出力 600ps = パワーウエイトレシオ→ 3.23kg/馬力
日本が誇るスーパースポーツカー・日産GT-Rを、日産車のスポーツ&カスタマイズパーツを製造販売する「NISMO(ニスモ)」が各種パーツでチューニング。GT-Rは水冷4ストロークV型6気筒DOHC 24バルブ3,799ccエンジン(型式:VR38)を搭載。
最高出力600psを発揮するGT-R NISMOの専用VR38型エンジンは、NISMO専用GT3タービン(IHI製高効率・大容量ターボ)。また各気筒別に最適な点火時期をコントロールする、気筒別点火時期制御や最適な燃料噴射を行うインジェクター駆動回路を採用。チューニング次第で同車は、後輪出力で1,000馬力超え。また最高時速300km/h超えを狙えるのがポイント。
大柄なボディのGT-R NISMOは、車体重量1,940kgと乗用車の中でもかなりヘビー。これがネックとなり、パワーウエイトレシオは400ccスポーツバイク並の3.23。剛性を確保しつつ車体重量を1,000kg程度まで軽量化し、1,000馬力のVR38チューニングエンジンを搭載すれば、パワーウエイトレシオ「1」への突入も夢ではない(←言うのは簡単で多分無理)。
ヤマハ MT-09 ABS 排気量:688cc
車両重量 184kg ÷ 最高出力 73ps = パワーウエイトレシオ→ 2.52kg/馬力
水冷4ストローク並列2気筒DOHC 4バルブ688ccエンジンを搭載した、ネイキッドタイプのミドルスポーツモデル。力強さと扱いやすさを追求したパワーやトルク値はもちろん、低速域でのリニアなレスポンス、粘り強いトルク特性を獲得することで、卓越した扱いやすさやコントロール性を実現。頻繁なギアチェンジを繰り返すことなく、アクセルのオン・オフで爽快な走りを実現している。
排気量700cc前後で70馬力前後のモデルは、パワーもトルクも、もっとも国内の道路事情に適しているであろうクラス。街乗り、ロングツーリング、幹線道路走行、高速道路走行など、多くの走行シーンでストレスなく、パワーを持て余すことなく、それでいて一般公道では他を寄せ付けない速さ=余裕の走り(大人の走りともいえる)が楽しめるはず。
下記モデルが「本当に市販してもいいの?」と思えるほど超々高性能なために目立たないが、ヤマハ MT-09 ABSは88万円(税込)という価格で、3,000万円強の日産 GT-R NISMO スペシャルエディションを凌ぐパワーウエイトレシオを発揮。パワーウエイトレシオ的には、1/32の価格でGT-R以上の加速感が堪能できる。パワーウエイトレシオ値の通り、同車は一般道において十分過ぎるほどのポテンシャルを秘めているのがポイントだ。
スーパーGTレース GT500クラス トヨタ GRスープラ GT500(2024年) 排気量:2,000cc
車両重量 1,020kg以上 ÷ 最高出力 550ps以上 = パワーウエイトレシオ→ 1.85kg/馬力
国内で大人気の四輪レース・スーパーGTは、富士スピードウェイや鈴鹿サーキットなど、全国の国際コースで開催中。このレースは約500馬力のGT500、約300馬力のGT300の2クラス混走で展開される。GT500はメーカー系チーム、GT300はプライベートチームがメイン。2024年シーズンのGT500はトヨタ(スープラ)、日産(フェアレディZ)、ホンダ(シビックタイプR)の3メーカーや、関連企業が開発・製作した車両を中心に争われている。
GT500に出場中のトヨタ GRスープラ GT500は、水冷4ストローク並列4気筒DOHC 16バルブ2000ccのシングルターボエンジン(型式:RI4BG)を搭載。最高出力は550馬力以上、車体重量が1020kg以上。駆動方式はFR。
カワサキ Ninja H2 CARBON(2019年~2020年) 排気量:998cc
車両重量 238kg ÷ 最高出力 242ps = パワーウエイトレシオ→ 0.98kg/馬力
2019年モデル~2020年モデルまで生産発売された、スーパーチャージドエンジンを搭載したカワサキのスーパースポーツモデル。水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブ998ccエンジンを搭載。最高出力は231ps/11,500rpmで、ラムエア加圧時は242ps/11,500rpmを発生。
カワサキオリジナルのスーパーチャージャーはエンジンとともに開発されたもので、どの回転域からでも強烈に加速する圧倒的なパワーを発揮。燃料効率が徹底的に追及されたことで、インタークーラーは不要としている。
ホンダ CBR1000RR-R ファイアーブレード 排気量:999cc
車両重量 200kg ÷ 最高出力 218ps = パワーウエイトレシオ→ 0.91kg/馬力
2020年に登場したホンダのスーパースポーツモデルであり、フラッグシップモデル「CBR1000RR-R ファイアーブレード」。MotoGPマシン・RC213Vにもっとも近い市販車として、欧州でも高い人気を獲得中。
2024年モデルはミッドカウルにセットされたウイングレット形状を、MotoGPマシン・RC213Vを彷彿させるデザインに変更。またミッドカウル、アンダーカウル、燃料タンク(容量は0.4L増の16.5L)、タンクカバー等の形状を見直し、空力特性やトラクション性能をアップ。ハンドルバーは19mm高く・23mm近く、フットペグは16mm低くして、余裕のあるライディングポジションに設定。
水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブ999ccエンジンは、驚異的ともいえる最高出力160kW(218ps)、最大トルク113N・mを発揮。2024年モデルは圧縮比を13.4から13.6にアップ。シリンダーヘッド内部にあるバルブスプリングなどに加え、バルブタイミングも変更。2モーター式のスロットルバイワイヤーも新たに導入された。
パワーウエイトレシオのみを見る限り、同車は“わずか248万6000円(税込)の破格値”で、1台数億円(ひょっとしたら数十億円)のホンダMotoGPワークス・RC213Vに迫る走りを堪能できると言えるかもしれない。なおヤマハ、スズキ、カワサキからも、CBR1000RR-R ファイアーブレードのライバル車が発売中。購入予定者はくれぐれも心のブレーキを忘れずに。
MotoGPレース ホンダ RC213V(2024年) 排気量:1,000cc
車両重量 157kg ÷ 最高出力 300ps(推定)= パワーウエイトレシオ→ 0.52kg/馬力
二輪ロードレースの最高峰・MotoGPは、「世界中でもっとも速いバイクたち」により、毎回激しいバトルを展開。ホンダのMotoGPワークスマシン・RC213Vは、水冷4ストロークV型4気筒DOHC 4バルブ1,000ccエンジンを搭載。重量はレギュレーションに準じ、オーバー157kgに設定。最高出力はメーカー発表値180kW(245ps)以上で、推定300psを発生。
MotoGPの最高速度(2024年4月現在の公式記録)は、KTMのブラッド・ビンダー選手がイタリアのムジェ・サーキットにて、1km以上のメインストレートで記録した366.1km/h。
なおストレートの長いコースの場合、F1のレース中の最高速度は360~370km/h前後。オーバルコースを周回するインディーカーのレース中の最高速度は380km/h前後。
F1レース ウィリアムズ・ホンダ FW11(1986年) 排気量:1,494cc
車両重量 540kg ÷ 最高出力 1500ps(推定)= パワーウエイトレシオ→ 0.36kg/馬力
四輪ロードレース最高峰のF1(フォーミュラー・ワン)。屋根を設け、2人もしくは4~5人乗車できる“箱車(ハコシャ)”とは異なり、狭い1人乗りで屋根がなく、四本のタイヤをむき出しにしたカーボンファイバーモノコック採用の車体重量は、約500kgという軽自動車の半分程度。これに最高出力数百馬力というレーシングエンジンを搭載。「走るために生まれた」という言葉が見事に当てはまるのが、このF1マシンだ。
F1史上もっとも最高出力の高かった一台が、1986年に登場したウィリアムズ・ホンダ FW11。同車はウイリアムズのシャシーにホンダが開発したエンジン(型式:RA166E)を搭載。
エンジンは水冷4ストロークV型(80度)6気筒DOHC 24バルブ+ツインターボ。排気量は1500cc(過給機付きの場合/過給機なしの自然吸気は3,000cc))というレギュレーションに合わせ、1,494ccに設定。ボア径×ストローク長は高回転域でパワーを稼ぐ、レーシングカーならではのΦ79.0mm×50.8mm超ショートストローク型。
1986年シーズンのF1では、ターボチャージャーのブースト圧(過給圧)の制限なし。1986年のウィリアムズ・ホンダ FW11のエンジンは、公式で1,050ps以上/11,600rpmを発生。
当時のターボエンジンの技術向上は目覚ましく、ホンダのRA166Eエンジンは、実際にはリッターあたり1,000馬力。つまり1.5リットル(実際は1,494cc)の排気量で1,500馬力という、途方もない性能レベルに達していた。
「ターボエンジンは2,000馬力までアップする」と言われた天井知らずの性能向上に歯止めをかけるため、1987年シーズンには最大過給圧が4バール、1988年には2.5バールまで段階的に制限。1989年シーズンにはついに過給機の装着が全面的に禁止され、自然吸気のみの3,500ccとなった。
※注:上記の車両はすべて筆者が任意(思いつくまま)に選んだもの。他に取り上げたかった車両(絶版の2スト車、インディーカー、モトクロスレーサー、ゼロヨン仕様車、最高速仕様車等々)は機会があればレポートします!
「パワーウエイトレシオ=数値が低いほど俊敏でスポーティ」はほぼ正解。しかし……
上記の通り、パワーウエイトレシオの数値は低いほど俊敏でスポーティー。特にF1マシンやMotoGPマシンを見れば一目瞭然。パワーウエイトレシオの数値は低いほど、スタート時~近距離の到達時間が早く(たとえば時速100km/hまでの到達時間が短い)、追い越し加速も鋭いといえる。
メーカーの最先端技術と膨大な開発費用をフル投入した、一台数億円(もしくは数十億円)するF1マシンやMotoGPマシンは別格として、上記の結果から筆者が注目したいのは2点。ひとつめは、
1:ヤマハ MT-09 ABSは日産GT-R NISMO(ニスモ)スペシャルエディションよりも、パワーウエイトレシオに優れていること(下記に続く)
軽量でパワフルなスポーツバイクは、ハイパワーだがヘビーな鉄の箱を背負ったスポーツカーよりも確実に出足や加速力に勝る。これはバイクvsクルマで長らく語られてきた、昔ながらの常識だ。ちなみにバイクの名チューナーでありヨシムラジャパンの創始者・ポップ吉村氏は、「軽さはスポーツに直結」と明言していた。
クルマでスポーツバイク並の出足の鋭さや加速力を実現するためには、レーシングカー級のハイパワーが必要。言い換えれば、バイクは驚異的な低価格で、レーシングカー並の加速を味わえるのが大きなメリット(ヤマハ MT-09 ABSは88万円(税込)/日産GT-R NISMO スペシャルエディションは3,061万3000円(税込)~)。
もうひとつ注目したいのは、
2:ホンダNSR80 フルチューン仕様は、タイトなコーナーが続く峠道や、ストレートの短いサーキットにおいて、テクニック次第ではカワサキ Ninja H2 CARBONやホンダ CBR1000RR-R ファイアーブレードをブチ抜ける可能性があるということ(下記に続く)
79kgという超軽量な車体に、瞬発力のある軽量コンパクトな2ストエンジンを搭載。しかも小回りの利く小径の12インチホイールを装備したホンダNSR80 フルチューン仕様は、パワーウエイトレシオこそリッターバイクを大きく下回るものの、仮に同じ技量のライダーが乗車した場合、峠やカートコースでは大型スポーツ群を凌ぐ可能性が高い(月刊モト・チャンプ誌の企画による過去の市販DVDでも、ビッグバイクと2ストミニの対決をたびたび展開)。
大型スポーツ群よりもホンダNSR80 フルチューン仕様が速いと思われる理由。それは、
1:車体重量が軽く、タイトなコーナーでの切り返しが素早く行える
2:12インチの小径ホイールはタイトなコーナーで有利
3:2ストエンジンならではの、コーナーでの立ち上がりの瞬発力
ここでのポイントは、1の“車体重量が軽く”を除き、2と3はパワーウエイトレシオとはほぼ無関係なこと。
“真に速いマシン”とは?
バイクやクルマは、パワーウエイトレシオばかり追求しても、コーナリング性能が悪ければ、単なる“直線番長”に終わる。ジェットエンジンを搭載し、0-400mを6秒台で駆け抜けるゼロヨンマシン。大排気量エンジン+ニトロ噴射搭載の時速500km/hオーバーを達成する最高速仕様車。両車は確かに直線は速いけれど、果たして速く・スムーズに曲がってくれるだろうか。
「本当に速いマシン」は、エンジンの特性やパワーに合わせ、フレームや足周りの剛性、ホイールのサイズ、タイヤの種類等々をバランス良く吟味。多くの市販車は“乗りやすさ”を前提に、それぞれの車両の性格や方向性に合わせ、トータルで「速いマシン」に仕上げているのがポイントだ。
パワーウエイトレシオの数値は低いほど、確かに俊敏でスポーティ。しかしパワーウエイトレシオの数値が高いからといって、決して鈍足なモデルとは限らない。上記のホンダNSR80 フルチューン仕様のように、これはすべての市販車やカスタム車に当てはまること。たとえパワーウエイトレシオが高くても、“真に速いマシン”はたくさんある。パワーウエイトレシオは各車の性能を捉えるための、あくまでも一つの目安程度に留めておくほうがいいかも。