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カワサキ ニンジャ 7 ハイブリッド……184万8000円(2025年2月15日発売)


システムスペックは650ccクラス並み、eブーストの加速は強烈!

筆者が実車を初めて目にしたのは、2023年10月に開催されたジャパンモビリティショー2023でのこと。あれから1年半が経ち、ついにニンジャ 7 ハイブリッドに試乗する機会がやってきた。この新型車は世界初の量産型ストロングハイブリッドモーターサイクルであり、搭載されているパワーユニットおよびトランスミッションについては少々複雑なので、先に画像とキャプションをご覧いただきたい。



近年、ヤマハがY-AMT、BMWがASAという自動変速機構を大々的に発表したが、実はカワサキも同様のシステムをニンジャ 7/Z7 ハイブリッドに採用してきたのだ。ライディングモードは、駆動モーターがエンジンをアシストするスポーツHVモード、駆動モーターのみで発進したあと、走行時はエンジンとモーターが助け合うエコHVモード、駆動モーターのみで発進と走行を行うEVモードの3種類。スポーツHVモードはMTのみ、エコHVモードはMTとATが選択可、そしてEVモードはATのみ(最高速60km/h、4速まで)となっている。なお、MTの変速は左スイッチボックスの前後にあるシフトセレクターで行い、シフトアップはスロットルが開いているときのみ、シフトダウンは閉じているときのみ可能となっている。つまり、ホンダのEクラッチのように、スロットルの開閉方向に関係なくシフトできるわけではないのだ。
フル電動のニンジャ/Z e-1にも採用されている「eブースト」は、スポーツHVモード時のみ使用可能。駆動モーターによって約5秒間だけ650cc並みに出力を全域で増大させるシステムで、これは車速が10km/h以上、かつスロットル開度が20%以上という条件下において作動させられる。また、スタート時に使用できる「発進eブースト」という機能もあり、これは停止状態でのみ設定でき、車速が100km/hを超えたり、ギヤが3速以上に入ったりすると、その時点で機能は強制停止となる。

ここまで根気良く読んでくださった方は薄々気付いていると思うが、オペレーションおよび前提条件が複雑なため、その説明だけで1500Wも費やしてしまった。しかもこれらがすべてではなく、丸一日の試乗を終えてなお「え~っと、なんでウォークモードに切り替わらないんだっけ?」となってしまうほど、身体で覚えるまでに相当な時間を要することを覚悟していただきたい。
それでは各ライディングモードの印象について説明しよう。まずは最も元気の良いスポーツHVモードから。このモードでは常にエンジンが始動している。180度位相クランクによる鼓動感のボリュームは451ccという排気量相当だが、加速感は明らかにそれを上回っており、何とも不思議な感覚だ。しかも、駆動モーターによるアシストおよび回生システムが絶妙で、スロットルレスポンスに何ら違和感がない。シフトセレクターによる変速は非常にスムーズかつ素早く、どの回転域でシフトアップ/ダウンしても変速ショックは極めて少ない。停止前、自動的に1速へ戻してくれるALPFの作動も適切で、街中でのストップ&ゴーならシフトアップ操作だけで済んでしまいそうだ。
eブーストによる加速力は、強烈とか直線番長などと表現できるほどに豹変する。感覚的には確かに650cc並み、いやそれ以上のドッカンパワーだが、車重はニンジャ650より34kgも重いため、eブーストを使う際は十分に減速できるかという心配もした方がいいだろう。また、これだけ最新技術を盛り込んでいながらトラコンが付いていないため、滑りやすい条件下でのeブースト使用はくれぐれも注意されたい。
続いては普段使いに適したエコHVモードだ。ここではATが選択でき、よりイージーなライディングとなる。信号待ちにおいてはアイドリングが停止し、そこからスロットルを開けると駆動モーターのみで静かに発進。20km/hを過ぎるとエンジンが始動し、30km/hで3速、40km/hで4速と順次シフトアップしていく。街中で普通に加減速するようなシーン、イメージ的にはスロットル開度25%以下で事足りるような場面では、このATによる変速は極めてスムーズで、シフトダウンも適切に行われる。ただし、スロットル開度50%以上を多用して元気良く走ろうとすると、油圧クラッチが切れている時間が長く、変速のたびに車体がピッチングするほどの衝撃が発生する。
加えて、上り勾配のきつい峠道では、旋回中に20km/hまで速度が下がったのに3速のままでコーナーを立ち上がろうとするなど、ライダーとの意思疎通が図れないシーンもしばしばだった。とはいえ、ハードとしてはほぼ完成の域にあるという印象なので、あとはソフトの煮詰め次第でこの電子制御トランスミッションは大きく化けるだろう。
最後は駆動モーターのみで走行するEVモードだ。スロットルを開けて発進すると4速まで自動的に変速し、最高速は60km/hに制限される。モーターの最大トルクが0~2400rpmという低回転域で発生することを考えると、有段変速を組み合わせるのは理に適っているし、それによって一般的な電動バイクとは異なり、トルク感が60km/hまで途切れないところが気に入った。走行可能距離は約10kmと非常に短いので、閑静な住宅街を通行する時など使えるシーンは限られるが、それでも十分に実用的なモードであるのは間違いない。
長いホイールベースをフォローする個性的なハンドリング

ハンドリングについては、1535mmという長いホイールベースによる旋回力の低さを補うためか、フロントホイールの舵角の入り方が早いというか内向性が強く、やや特徴的な操縦性となっている。とはいえ、切れ込むと表現するほどひどくはないので、ステアリングの動きを妨げないように心掛ければ、スムーズにコーナーを旋回できる。

サスペンションはフロントが非調整式のφ41mm正立式フォーク、リヤはリンク式モノショックで、プリロードのみ調整可能だ。180万円を超えるバイクのスイングアームが角断面のスチールパイプというのは少々寂しいものがあり、また前後サスの作動性もそれなりではあるが、標準装着タイヤ(ダンロップ・スポーツマックスQ5A)の働きもあってか、乗り心地は良好だった。


ブレーキセットは、228kgもの車体を減速させるのに十分以上の制動力を有し、コントロール性も良好だ。ABSについてはバンク角などを考慮しないシンプルなタイプだが、介入レベルは適切だと感じた。
カワサキの長い歴史を振り返ると、水冷2ストローク4気筒のSQUARE-FOUR 750や、ロータリーエンジンのX-99など、新しいパワーユニットに挑戦しながら販売されなかったモデルがいくつもある。このニンジャ 7 ハイブリッドは、発売日を延期しながらもこうして世に送り出されたわけで、まずはそのことに敬意を表したい。ストロングハイブリッドによる走りは唯一無二であり、カワサキの近未来テクノロジーを応援したい人なら、このニューモデルは必ずやハートに刺さるはずだ。