びっくりレベルの加速力、ニンジャ 7 ハイブリッド試乗記|カワサキ初の電子制御ミッションにも注目のストロングハイブリッド車

2023年10月、世界初の量産型ストロングハイブリッドモーターサイクルとして発表された「ニンジャ 7 ハイブリッド」が、Z7ハイブリッドとともに今年2月に発売となった。エンジンの排気量は451ccながら、トラクションモーターとの合わせ技により、システムとしての最高出力はニンジャ650を1PS上回る69PSを発揮。最新技術を余すことなく盛り込んだカワサキの意欲作、その走りやいかに。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ ニンジャ 7 ハイブリッド……184万8000円(2025年2月15日発売)

ニンジャ 7 ハイブリッド、Z7 ハイブリッドとも、当初の発売日は2024年6月15日だったが、諸般の事情により2025年2月15日に延期となった。価格は両モデルとも184万8000円で、3年間のアフターケアが付帯する「カワサキケアモデル」となっている。
ホイールベースは1535mmを公称。クルーザーのエリミネーターよりも15mm長く、しかも車重はニンジャ1100SXに迫る228kgなので、取り回しの際には積極的にウォークモード(前進約3km/h、後退約2km/h)を使いたい。

システムスペックは650ccクラス並み、eブーストの加速は強烈!

筆者が実車を初めて目にしたのは、2023年10月に開催されたジャパンモビリティショー2023でのこと。あれから1年半が経ち、ついにニンジャ 7 ハイブリッドに試乗する機会がやってきた。この新型車は世界初の量産型ストロングハイブリッドモーターサイクルであり、搭載されているパワーユニットおよびトランスミッションについては少々複雑なので、先に画像とキャプションをご覧いただきたい。

エンジンは海外向けのニンジャ/Z/エリミネーター500に搭載されている451cc水冷4ストロークDOHC4バルブ2気筒をベースに、圧縮比(11.3→11.7:1)、スロットルボア径(φ32→36mm)、一次減速比、6段の各変速比などを変更。エンジン単体での最高出力を45.4PS(ニンジャ500、EU仕様)から58PSに引き上げている。クランクケースの左側にはISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)がレイアウトされ、エコHVモード時にはアイドリングストップ機能が働く。
9kW(12.2PS)を発生する駆動モーターをシリンダー背面に、48Vのリチウムイオンバッテリーをシート下に配置する。システムとしての最高出力は69PS、最大トルクは60Nmであり、これはニンジャ650(68PS、63Nm)と同等のスペックだ。
カワサキ独自の電子制御トランスミッションを採用。これはフルオートマチック(AT)とマニュアル操作(MT)の二つのモードがある。油圧クラッチは専用のオイルポンプとソレノイドバルブによって制御されるため、クラッチレバーは存在しない。また、マニュアル操作時の変速は左スイッチボックスにある二つのシフトセレクターで行うことから、シフトペダルも省略されている。車両が停止すると自動的に1速に戻すALPF(オートマチック・ローンチ・ポジション・ファインダー)は任意に選択可能だ。

近年、ヤマハがY-AMT、BMWがASAという自動変速機構を大々的に発表したが、実はカワサキも同様のシステムをニンジャ 7/Z7 ハイブリッドに採用してきたのだ。ライディングモードは、駆動モーターがエンジンをアシストするスポーツHVモード、駆動モーターのみで発進したあと、走行時はエンジンとモーターが助け合うエコHVモード、駆動モーターのみで発進と走行を行うEVモードの3種類。スポーツHVモードはMTのみ、エコHVモードはMTとATが選択可、そしてEVモードはATのみ(最高速60km/h、4速まで)となっている。なお、MTの変速は左スイッチボックスの前後にあるシフトセレクターで行い、シフトアップはスロットルが開いているときのみ、シフトダウンは閉じているときのみ可能となっている。つまり、ホンダのEクラッチのように、スロットルの開閉方向に関係なくシフトできるわけではないのだ。

フル電動のニンジャ/Z e-1にも採用されている「eブースト」は、スポーツHVモード時のみ使用可能。駆動モーターによって約5秒間だけ650cc並みに出力を全域で増大させるシステムで、これは車速が10km/h以上、かつスロットル開度が20%以上という条件下において作動させられる。また、スタート時に使用できる「発進eブースト」という機能もあり、これは停止状態でのみ設定でき、車速が100km/hを超えたり、ギヤが3速以上に入ったりすると、その時点で機能は強制停止となる。

eブーストボタンは右側スイッチボックスに設けられている。スロットル開度20%以上でこれを押すのは意外と難しい。ライディングモードやMT/ATモードの切り替えは左側に集約されている。

ここまで根気良く読んでくださった方は薄々気付いていると思うが、オペレーションおよび前提条件が複雑なため、その説明だけで1500Wも費やしてしまった。しかもこれらがすべてではなく、丸一日の試乗を終えてなお「え~っと、なんでウォークモードに切り替わらないんだっけ?」となってしまうほど、身体で覚えるまでに相当な時間を要することを覚悟していただきたい。

それでは各ライディングモードの印象について説明しよう。まずは最も元気の良いスポーツHVモードから。このモードでは常にエンジンが始動している。180度位相クランクによる鼓動感のボリュームは451ccという排気量相当だが、加速感は明らかにそれを上回っており、何とも不思議な感覚だ。しかも、駆動モーターによるアシストおよび回生システムが絶妙で、スロットルレスポンスに何ら違和感がない。シフトセレクターによる変速は非常にスムーズかつ素早く、どの回転域でシフトアップ/ダウンしても変速ショックは極めて少ない。停止前、自動的に1速へ戻してくれるALPFの作動も適切で、街中でのストップ&ゴーならシフトアップ操作だけで済んでしまいそうだ。

eブーストによる加速力は、強烈とか直線番長などと表現できるほどに豹変する。感覚的には確かに650cc並み、いやそれ以上のドッカンパワーだが、車重はニンジャ650より34kgも重いため、eブーストを使う際は十分に減速できるかという心配もした方がいいだろう。また、これだけ最新技術を盛り込んでいながらトラコンが付いていないため、滑りやすい条件下でのeブースト使用はくれぐれも注意されたい。

続いては普段使いに適したエコHVモードだ。ここではATが選択でき、よりイージーなライディングとなる。信号待ちにおいてはアイドリングが停止し、そこからスロットルを開けると駆動モーターのみで静かに発進。20km/hを過ぎるとエンジンが始動し、30km/hで3速、40km/hで4速と順次シフトアップしていく。街中で普通に加減速するようなシーン、イメージ的にはスロットル開度25%以下で事足りるような場面では、このATによる変速は極めてスムーズで、シフトダウンも適切に行われる。ただし、スロットル開度50%以上を多用して元気良く走ろうとすると、油圧クラッチが切れている時間が長く、変速のたびに車体がピッチングするほどの衝撃が発生する。

加えて、上り勾配のきつい峠道では、旋回中に20km/hまで速度が下がったのに3速のままでコーナーを立ち上がろうとするなど、ライダーとの意思疎通が図れないシーンもしばしばだった。とはいえ、ハードとしてはほぼ完成の域にあるという印象なので、あとはソフトの煮詰め次第でこの電子制御トランスミッションは大きく化けるだろう。

最後は駆動モーターのみで走行するEVモードだ。スロットルを開けて発進すると4速まで自動的に変速し、最高速は60km/hに制限される。モーターの最大トルクが0~2400rpmという低回転域で発生することを考えると、有段変速を組み合わせるのは理に適っているし、それによって一般的な電動バイクとは異なり、トルク感が60km/hまで途切れないところが気に入った。走行可能距離は約10kmと非常に短いので、閑静な住宅街を通行する時など使えるシーンは限られるが、それでも十分に実用的なモードであるのは間違いない。

長いホイールベースをフォローする個性的なハンドリング

ハンドリングについては、1535mmという長いホイールベースによる旋回力の低さを補うためか、フロントホイールの舵角の入り方が早いというか内向性が強く、やや特徴的な操縦性となっている。とはいえ、切れ込むと表現するほどひどくはないので、ステアリングの動きを妨げないように心掛ければ、スムーズにコーナーを旋回できる。

フレームはダイヤモンド(トレリス)タイプ。シート下にモーター駆動用の50.4Vリチウムイオンバッテリー(重量は13kg)を配置していることから、リヤのホイールトラベル量と前輪分布荷重を稼ぐために、ホイールベースを伸ばさざるを得なかったのではないかと邪推する。

サスペンションはフロントが非調整式のφ41mm正立式フォーク、リヤはリンク式モノショックで、プリロードのみ調整可能だ。180万円を超えるバイクのスイングアームが角断面のスチールパイプというのは少々寂しいものがあり、また前後サスの作動性もそれなりではあるが、標準装着タイヤ(ダンロップ・スポーツマックスQ5A)の働きもあってか、乗り心地は良好だった。

標準装着タイヤはダンロップ・スポーツマックスQ5A。フロントフォークはφ41mm正立式で調整機構はなし。フロントキャリパーはニッシン製のピンスライド片押し式2ピストンだ。
スイングアームは角断面のスチールパイプ。リヤサスペンションはリンク式のモノショックで、プリロードは7段階に調整可能。標準位置は最弱から4段目だ。

ブレーキセットは、228kgもの車体を減速させるのに十分以上の制動力を有し、コントロール性も良好だ。ABSについてはバンク角などを考慮しないシンプルなタイプだが、介入レベルは適切だと感じた。

カワサキの長い歴史を振り返ると、水冷2ストローク4気筒のSQUARE-FOUR 750や、ロータリーエンジンのX-99など、新しいパワーユニットに挑戦しながら販売されなかったモデルがいくつもある。このニンジャ 7 ハイブリッドは、発売日を延期しながらもこうして世に送り出されたわけで、まずはそのことに敬意を表したい。ストロングハイブリッドによる走りは唯一無二であり、カワサキの近未来テクノロジーを応援したい人なら、このニューモデルは必ずやハートに刺さるはずだ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ハンドルはセパレートタイプだがグリップ位置が高いので、上半身の前傾はほんのわずかである。ライディングポジションのコンパクトさは400ccクラス相当だ。
シート高は795mm。ニンジャ650より5mm高いが、足着き性はご覧の通り良好。駆動モーターや大容量バッテリーを積んでいるが、またがる部分の幅はスリムだ。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…