目次
カワサキ・KLX230 S…….506,000円
ライムグリーン
アーバンオリーブグリーン×エボニー
2019年の秋にKLXと言うブランドネームの復活に乗せて新登場。本格的なオフロードカテゴリーに投入された新型車は230ccと言う中間排気量だった点でも注目された。
シンプルな空冷OHCの2バルブ単気筒エンジンを搭載。さらに当初税込で50万円を切るリーズナブルな価格設定で新発売。ランドスポーツ専用車として足回りの性能を強化した本格的なKLX230 Rも投入され、オフロードフリークにとって興味深いモデルとして話題を集めたのはまだ記憶に新しい。
そんなKLX230の2022年モデルがマイナーチェンジされて、KLX230 Sとして新登場。ライムグリーンは踏襲されたが、エボニーカラーはアーバンオリーブグリーン×エボニーに変更された。一見それはカラーバリエーションの刷新だけかと思われたのだが、実は意外にも大きな変貌を遂げていたのである。
ズバリそれはシート高の低さである。デビュー当初は885mmあり、それ自体がオフロード車に相応しい本格派のイメージを醸す要素となっていた。しかし最新のKLX230 Sのシート高は830mmと、一気に55mmダウン。今回足つき性チェックの写真にはあえて初代の写真も掲載したので比較参照頂きたいが、足つき性の大幅改善が新しい特徴である。
ビギナーライダーの入門用、あるいは人里離れた山道をトコトコと散策してみたいユーザー層、小柄なライダーや、ダウンサイジングを目指すシニア層等、幅広いユーザー層に着目される事は間違いないだろう。
基本的にスチールパイプ製のセミダブルクレードルフレームや、搭載されたOHCシングル空冷エンジンは共通φ32mmのスロットルボディを持つフューエルインジクション・システムや、たっぷりと長く取り回されたエキゾーストパイプも変わりは無い。
主な変更点は前後サスペンションにある。前後ホイールトラベルで新旧比較すると、初代KLX230は前220/後223mmと言う充分に長いストロークを誇っていた。
新しいKLX230Sは同じく前158/後168mm。これにより前述のシート高の低さがもたらされているのである。同様に全高は1,165~1,110mmへ、ロードクリアランスも265~210mmへと55mm低くなったのが特徴である。
全長は2,105~2,080へ25mmダウン、ホイールベースも1,380~1,360mmへ20mm短くなっている。
その他車両重量は2kg増の136kgに。そして車両本体価格で1万円アップされた46万円、税込み価格で50万6,000円になった。
多くのライダーにとって敷居が低い、楽しみやすい存在に進化
試乗車を目の当たりにして想えたのは時代の流れが一巡し、バイクの醍醐味を軽快性抜群なオフロード系モデルで楽しめる時代が再び訪れる。ふとその様な気がした。
そもそもKLX230登場の経緯は、アセアン諸国で人気のKLX150のひとつ上を行くステップアップモデルとして投入。拡大傾向にある市場にさらに弾みを付けられる上級移行への対応モデルである。しかし日本では、それがリーズナブルなモデルとして歓迎される市場になっており、貴重な存在としても注目される。
かつて性能も価格もエスカレートしながら豊富なラインナップをリリースして、各社が凌ぎを削りあった。そんなエキサイティングな時代を通り過ぎてしまった事を思い起こすとKLX230の登場は同カテゴリー普及の好機を生む、再スタートを感じさせたのである。
その意味で今回のKLX230 Sは、ズバリ原点回帰を貫く大胆なマイナーチェンジである。 外観のデザインは基本的に変更はないのだが、一目でそのフォルムの違いに気付く。シート高にして55mmのローダウンは、新旧を見比べるまでもなく、親しみやすさに大きな差を生み出している。車体全体のオーラがまるで異なっている。ツンと澄ましてオフロード車としての自信を表現しているかの様、サイズ的に立派に見えた足の長いKLX230に対して、KLX230 Sは「何時でも何処へでも気軽に行こうよ」と優しく語り掛けてくれる様な雰囲気。
一言で表現すると、無条件に“フレンドリー”なのである。
早速シートに股がってみると足つき性は次の写真で示す通り。新旧の比較も一目瞭然。小柄なライダーにとっても安心感は抜群である。改めてこの“安心感”がともて大切だと思えた。
フロントフォークのラバーブーツは共通部品が踏襲されているので、ストロークが短縮された分、蛇腹の目が詰まっている。そこからも新旧が見分けられる。サスペンションストロークの短縮は、正直ちょっと惜しい気持ちになってしまうのも事実だが、一般的なニーズを踏まえるなら、この大胆な変更も英断であると言えるだろう。
オフロードで飛んだり跳ねたり思い切りスポーツ走行を楽しみたいなら、“R”モデルをチョイスした方が正解だし、その領域へ踏み出す手前の「はじめの一歩」としては、敷居を下げた方が正解だと思うからである。
タコメーターが無いので、外付け回転計をセットしてエンジンをスタートすると、アイドリングは相変わらず高めの1,800rpm。スロットルを戻した時の回転の落ちも少し緩慢な印象である。
これについては、クラッチミート時の失敗(エンスト/転倒)を防ぐための配慮であると説明された事を思い出した。足つき性が大幅改善されたのだから、少しはアイドリングを下げても良いと思えたが、特にそこへの配慮に変更は成されていなかった。
つまりエンジンの感触は従来通り。全体に穏やかながらも、中低速域から充分に不足の無い出力特性を発揮。
市街地から郊外、峠道や高速道路に至るまで生き生きと柔軟なハイパフォーマンスを発揮してくれる。
試乗車が新車に近かったせいか、フロントフォークの動きに若干渋さが見られたが、林道走行も含めて、前後バランスの良いフットワークを披露。
片足で地面を蹴りながら悪路をトコトコと前進する様なシーンでもとても扱いやすかった。
高速道路をハイペースで走っても不快な振動や騒音は少なく、遠くへのツーリングも気軽に行ける。
どんな場面でも気楽にかつ安心して走れる乗り味は、初心者や小柄なライダーも含めて多くのライダーにお薦めできる1台と、改めてそう思えたのが正直な感想である。
いつもの様にローギヤで5,000rpm回した時のスピードは22km/h。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は約6,400rpm。
撮影も含めて林道、市街地、郊外(峠道)高速道路を約100km走行して計測した実用燃費率は32.5km/Lだった。一般的なツーリング用途なら、おそらく40km/Lに迫るデータが期待できると思う。
足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)
シート高は830mm。両足の踵は少し浮いているが、片足で支える時は踵までベッタリつき、しっかりと地面を捉えることができる。細身で軽い車体を支える上で不安は感じられない。跨った瞬間からフレンドリーな乗り味が好感触。
足つき性チェック(比較参考:写真は2019年登場のKLX230)
ご覧の通り、両足の踵は地面から大きく離れてしまう。車体が軽く乗車位置がスマートに絞られているので、バイクを支える上での不安は感じない。885mmもあるシート高は高性能な足(サスペンション)を誇ったひと昔前のオフ車を彷彿とさせる。