これは林道初心者にも頼もしい!インドネシアから届いた1台です。ヤマハWR155R 試乗レポート

未舗装路を楽しんだり、林道ツーリングを走りたいならオフロードモデル、デュアルパーパスモデルが欠かせませんが、排気量が大きいバイクだと立ちごけするリスクが高まってしまいます。今回紹介する155ccモデル、ヤマハWR155なら、本格的な足周りながらも車体が軽く、安心感たっぷり。林道が好きになること間違いなしです!

PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●サイクルロードイトー指扇店 http://www.critoh.com

ヤマハWR155R ……43,9000円(消費税込み)

サイクルロードイトー指扇店乗り出し価格……520,000円 

エンデューロマシンとしての実力も持つオフロードモデル

ヤマハのWRといえば、あらゆる道を走るために生まれてきたオンオフモデルながら、指向的には本格派のオフロードモデルだと認識されています。そのため250㏄クラスでは、トレッキングに最適なセローに対して、アグレッシブなWRといった具合に明確に住みわけができています。WR155Rはインドネシアヤマハをはじめ東南アジアで製造販売されているオフロードモデルで、日本国内では並行輸入のかたちで入手することができます。そして国内では軽二輪クラスに含まれるので、高速道路の乗り入れも可能です。価格も250㏄クラスと比較して安価に設定されているので、林道ツーリングやキャンプツーリングのユーザーには気になるバイクになりそうです。

低中速重視のエンジン特性が日本の道に合っている

 2008年に登場したWR250Rは本格派のオフロードモデルとして注目を集めました。しかし2017年を最後に販売を終了。長年に渡って多くのファンに愛されてきたセロー250ともどもラインナップから姿を消してしまいました。オフロードファンにはなんとも残念な現状になっています。しかし落胆するのはちょっと待ってください。東南アジアから並行輸入されているWR155Rという選択肢があるからです。国内では軽二輪のカテゴリーに位置するので、高速道路の走行も可能です。つまり、現実的にはWR250Rと同じような使い方ができるというわけなんです。

 まずはそのスタイリングデザインを見てください。250に類似した本格派のオフロードマシンに仕上げられています。しかもロングストロークの前後サスペンションの採用によって車高はかなり高めですし、車体自体のサイズも250に迫るボリューム感を持っています。シート高は880㎜もあります。ところが跨ってみると、前後サスはフワリと沈み、数値から連想するほどの足つきの悪さはありません。たとえば170㎝程度の身長があれば両足のつま先を地面に着くことができます。スリムなボディも奏功していると思います。さらに車重が134㎏に抑えられているので、多少足つき性が悪くても必要以上に不安を抱くこともありません。そしてポジションをとってみると、125㏄クラスのオフロードモデルといった印象さえ受けます。要するに排気量が表すとおり250並の走破性と125と変わらない扱いやすさを見事に実現しているといえそうです。

250ほど大きくはないが、フルサイズのボディはアップライトなポジションもあってゆとりある乗車を提供してくれる。またオフロードモデルらしく体重移動もしやすくなっていて、体格に関係なく適切なポジションが得られる。スリムなボディはニーグリップ性も高く、安定した低速走行を実現させる。ボディに合わせたスリムなシートは、着座面積が限られているため長時間走行ではお尻や腰への負担が少なくない。ツーリングでの快適性は高くない。だがそれさえがまんすれば、日本の道を快走できるし旅を楽しむことができる。
シート高は880㎜と高い。だが前後サスペンションが沈み込むので想像するよりは足は着けやすい
134㎏の車重なので取り回しはラクチンだ。体格が小柄なライダーでもサイドスタンドの出し入れに苦労しないだろう

 キルスイッチの下にあるセルスタータースイッチを操作してエンジンを始動します。しっかりと消音されたエキゾーストノートがマフラーから放たれますが、このWR155Rのマフラーは左出しという珍しいタイプを導入しています。左側通行の日本では騒音的に不利になりますが、耳障りな音を発生するわけじゃないので、現実的にはなんら問題はなさそうです。

 走りだしてまず実感するのが低速トルクの太さです。搭載する水冷SOHC4バルブ単気筒エンジンはロングストローク型となっていて、14.3Nmの最大トルクを6500rpmで発生する特性です。ボク自身はセロー225WEを所有しているのですが、低中速のパワーフィーリングは近いように感じました。しかもアクセルレスポンスに至ってはセローより素早いのですから、排気量が3分の2しかないとは到底思えませんでした。

 こうしたオフロードモデルは軽量でスリムなボディが市街地を走るにも適していて、想像以上に俊敏に走ることができます。WR155Rの低中速トルクはこうした市街地でも生きています。一方、16.7psの最高出力は10000rpmで発生します。最大トルクが6500回転ということを考えるとかなり高回転まで伸びるエンジンになっています。実はこのエンジンにはVVAという可変バルブシステムが採用されているのです。7000rpmを境にカムが低中回転型と高回転型に切り替わるため、加速状態では10000rpmオーバーまでストレスなく吹け上がってくれるのです。そのため余裕こそありませんが高速道路の走行にも不足のない力を発揮してくれるのです。新東名をはじめいくつかの路線で最高速が120km/hとなっていますが、そうした区間でも車の流れに乗って走行することが可能です。

 今回は砂利道も走ってみたのですが、やはり低中速トルクがあるエンジンは高い走破性を発揮してくれました。オフロードテクニックのあるライダーであればかなり高いパフォーマンスを発揮できると思います。また、逆にオフロード走行に慣れていないビギナーにも林道ツーリングを楽しませる要素が十分にあると感じました。

 フロント21インチ、リア18インチのIRC製デュアルパーパスタイヤは、舗装路で十分なグリップ性を発揮してくれるだけじゃなく、砂利道のようなダートではとレッドのブロックがしっかりと食いつき、無茶なことさえしなければ安定した走行性を見せてくれます。さらにロングストロークの前後サスは作動性が良く、ダート走行でも底づきすることなく衝撃をうまく吸収してくれました。もっとハードに走りたいと要求するのであれば、サスペンションの高性能化が必要になるでしょうが、街中を移動したり林道ツーリングを楽しむといった一般的な使い方なら、ノーマルの状態で問題ないと思いました。ハンドリングに関しても軽快ですし、オンオフ問わず扱いやすいものとしています。さらに前後に装備されたディスクブレーキも、制動力、コントロール性に不満は感じませんでした。

 155㏄ではパワーが足りないんじゃないか?と思う人が多いでしょうが、実際に走ってみると力不足を感じる場面はそう多くありません。とくに制限速度が低い日本の道路環境では、低中速トルク型のエンジンを持つWR155Rは高い機動性を発揮し、多くのライダーにツーリングを楽しませてくれると思います。細身のシートは決して快適なロングツーリングを提供してくれるわけじゃありませんが、道を選ばず走ることができるデュアルパーパス性は、大きな魅力だと感じます。

 価格も手ごろで取り回しもラク、そしてさまざまなシーンで走る喜びをもたらしてくれるWR155Rは、若いライダーにも薦められるし、ベテランライダーのセカンドバイクにも最適だと思いました。

ディテール解説

バー付きタイプではないが、フラットな形状のハンドルは程よい高さと幅があってライディングしやすい
いまでは常識となったデジタルメーターが装備。速度、回転、燃料残量、時計、オドメーター、ツイントリップメーター、ギヤポジション、それに平均燃費と瞬間燃費を表示する
左側にはパッシング、ヘッドライト上下切り替え、ハザード、ウインカー、ホーンの各スイッチがコンパクトに配置されている
右手スイッチにはキルスイッチと、セルスタータースイッチを配置
ばーざー一体式のヘッドライトはハロゲンランプを採用。デザイン的には小型にうまくまとめられている
テールランプ、ウインカーランプはリアフェンダーに組み込む形で装備されている。高い位置にあるので被視認性がいい
12.3kW(16.7ps)/10,000rpm、14.3Nm/6,500rpmのスペックを発生する155㏄水冷SOHC4バルブ単気筒エンジン。VVAを装備していて、低中速トルク型ながら優れた高回転特性も両立させている
トレールバイクとしては適正な高さを持たせているシート。車体同様にスリムな形状なので長時間走行では疲労が蓄積しやすい
国内販売のバイクにはほとんど見かけない左出しマフラー。左側通行の日本では騒音の面で不利になる
フロントタイヤには2.75-21のIRC製GP-21を装着。ブレーキはΦ240㎜ディスクにピンスライド式2ポットキャリパーを装備
リアタイヤは4.10-18サイズのIRC製GP-22。ブレーキはΦ220㎜ディスクにピンスライド式1ポットキャリパーを装備
フロントのサスペンションは、インナーチューブΦ41㎜の正立フォークを装備。ストローク量が大きくクッション性も良い
リアサスペンションはボトムリンク式モノショックで、プリロード調整が可能となっている。やはりロングストロークとなっていて衝撃吸収性は高い

主要諸元

全長×全幅×全高:2145 x 840 x 1200mm
ホイールベース:1430mm
最低地上高:245mm
シート高880mm
装備重量:134kg
燃料タンク容量:8.1 Liter

エンジンオイル容量:1.5L
燃料供給方式:フューエルインジェクション
排気量:155cc
クラッチタイプ:湿式
エンジン種類:水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ・VVA
気筒数:単気筒
ボア×ストローク:58.0×58.7mm
圧縮比:11.6:1
最高出力:14.3kW/10000rpm
最大トルク:14.73Nm/6500rpm
始動方式:エレックトリックスターター

フレームタイプ:セミダブルクレードル
フロントサスペンション:テレスコピック(φ41mm)
リアサスペンション:モノショック
フロントタイヤ:2,75-21 45P
リヤタイヤ:4,10-18 59P
フロントブレーキ:ディスク式(φ240mm)
リヤブレーキ:ディスク式(φ220mm)

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…