【ホンダ・クロスカブ110】ロングランで気づいた、スプリンターとしての資質|1000kmガチ試乗2/3

スーパーカブシリーズの範疇を超えた長距離ランナーと、スーパーカブシリーズの一員であるスプリンター。今回の試乗を通して筆者は改めて、CT125ハンターカブとクロスクカブ110の差異を実感することとなった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダ・クロスカブ110……363.000円

初代は1人乗り仕様だったクロスカブ110だが、2代目からはタンデムステップを標準装備。もちろん実際に2人乗りをするときは、純正アクセサリーかアフターマーケット製のピリオンシートが必要。

初代/2代目とは次元が異なる、3代目の運動性能

第1回目に記したように、日本の至るところにありそうな、チマチマした林道でクロスカブ110とCT125ハンターカブを比較した僕は、条件がハマれば、兄貴分を凌駕する弟分の運動性能に驚きを感じた。もっともそれはクロスカブ110が3代目だったから……ではないかと思う。何と言っても、キャストホイールとフロントディスクブレーキ、さらには超ロングストローク型の新設計エンジンを導入した3代目クロスカブ110は、初代/2代目と比較すれば大幅な飛躍となる、抜群の運動性能を獲得しているのだから。

具体的な話をすると、まずキャストホイールとフロントディスクブレーキ(バネ下重量はスポーク時代とほぼ同様だが、チューブを使用しないこともあって、キャストは外周が軽い。また、スポークのようなフレが存在しないこともキャストの美点)のおかげで、3代目クロスカブ110は前輪の接地感が引き出しやすいうえに、車体姿勢の制御が意のままに行えるから、コーナー進入時の自由度が相当に高いのである。そして8psの最高出力は不変でも、新設計エンジンはミッドレンジのトルクが太くなっているので、ここぞという場面では初代/2代目とは一線を画する、心地いいトラクションと力強い加速が堪能できる。

もっとも世の中には、スポークホイール+ドラムブレーキの初代/2代目のほうが穏やかな気持ちで走れた、旧型エンジンのほうが回す楽しみがあった、などという意見もあるので、誰にとっても3代目がベストというわけではない。とはいえ、歴代クロスカブの中で3代目の運動性能が最も優れていることに、異論を述べる人はいないだろう。

ロングランで気づいた美点と欠点

ここからはようやく約1000kmを走っての話で、CT125ハンターカブとの(脳内)比較をして、クロスカブ110の最大の美点と感じたのは、車重の軽さと車格の小ささだった。と言っても、それはスペックを見ればわかることだし、身長182cm/体重74kgの大男が何をヤワなことを言っているんだとツッコまれそうな気がするけれど、自宅ガレージから車両を出すときやツーリング先で休憩して再スタートするとき、混雑した市街地で4輪の間を縫うようにして走っているときなどは、-11kgと-30mmの恩恵が痛切に感じられたのだ(車重/軸間距離は、クロスカブ:107kg/1230mm、CT125ハンターカブ:118kg/1260mm)。

そしてその経験を通して、ふと思ったのである。姿形は独創的になっていても、クロスカブ110はやっぱりスーパーカブシリーズの一員なのだなと。一方のCT125ハンターカブは、微妙にスーパーカブシリーズの範疇を超えているんじゃないかと。言ってみれば、クロスとハンターはジャンルが異なるモデルで、だから安易な優劣を付けるべきではないのだが、ハンターを念頭に置いてツーリングに出かけてみると、林道での好感触とは裏腹に、僕の中ではクロスに対して、気になる点がいろいろと出て来たのだった。

最初に気になったのは、エンジンの非力さである。あらゆる状況を過不足なくこなせたハンター(最高出力はクロス+1.1psの9.1ps)とは異なり、クロスは上り坂で“待ち”の状況になりがちで、場合によっては勾配に負けて回転数が徐々に落ちて来ることがあったし、峠道のカーブでは、2速では回転が上がりすぎ、3速ではなかなか加速しない、という状況に遭遇することが少なくなかった。また、ツーリング中のスロットル開度の平均が1/2前後だった気がするハンターに対して、クロスは3/4以上という印象で、その違いは疲労の差に直結しそうである。いずれにしても、わずか15cc(厳密に言うと14.4cc)の排気量差とは思えないほど、クロスとハンターのエンジンは別物なのだ。

一方の車体は、気軽さではクロスが優位なのだけれど、車重や軸間距離、前後サスストローク(クロスは105/77mm、ハンターは110/86mm)などの効果で、路面の凹凸を通過した際の衝撃吸収性はハンターのほうが明らかに良好。さらに言うなら、一定のスロットル開度を維持してまったり巡航をしたときの充実感も、エンジンの鼓動が濃厚で、車体の安定感が高いハンターのほうが心地よかった。

ただし、ここまでに述べた気になる点は、あくまで僕の主観で、カブ好きの友人知人や同業者と話をしてみると、クロスのパワーを十分と言う人がいれば、ハンターでもパワーが足りないと言う人もいるし、車体に関する印象も各人各様である。事実、世の中にはクロスカブでロングランを楽しんでいる人は大勢いる。だからやっぱり、安易な優劣はつけられないのだが、クロスとじっくり付き合うことで、僕は自分がハンター派であることを実感したのだ。

2台に感じたカスタムの可能性

もっとも、第1回目で述べた林道での違和感を振り返ると、もし自分がハンターのオーナーになったら、軽量化と重心の低下を目的としたマフラーとリアキャリアの交換を行うだろう。それで納得できない場合は、フロントフェンダーの変更やキック関連部品の撤去、ホイールのアルミリム化などに進むのもかもしれない。いやでも、そこまでやるなら、クロスのマフラーとリアショックをアフターマーケットの良品に変更して、パワーアップと乗り心地の向上を目指したほうが、僕にとっては理想に近いような……?

さて、最後になって何だか話があらぬ方向に進んでしまったけれど、今回の試乗では、これまではうっすらとしか理解ていなかった自分自身の趣向が、明確に理解できた気がする。そして前述したように、僕の好みは長距離ランナーとしての資質を備えるハンターだが、スプリンター的なクロスに惹かれる人が大勢いるのは当然のことだと思う。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、1070.3kmを走っての実測燃費を紹介します。

CT125ハンターカブと比較すると、クロスカブは安価でフレンドリーだが、そういう見方をするなら、兄弟車のスーパーカブ110のほうがさらに安価でフレンドリー。以下に価格/重量/シート高/全長×全幅×全高/軸間距離を記すと、クロスカブ110の36万3000円/107kg/784mm/1935×795×1110mm/1230mmに対して、スーパーカブ110は30万2500円/101kg/738mm/1860×705×1040mm/1205mm。

主要諸元

車名:クロスカブ110
型式:8BJ-JA60
全長×全幅×全高:1935mm×795mm×1120mm
軸間距離:1230mm
最低地上高:163mm
シート高:784mm
キャスター/トレール:27°/78mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:109cc
内径×行程:47.0mm×63.1mm
圧縮比:10.0
最高出力:5.9kW(8PS)/7500rpm
最大トルク:8.8N・m(0.9kgf・m)/5500rpm
始動方式:セルフスターター・キック併用式
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:湿式多板ダイヤフラムスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.142
 2速:1.833
 3速:1.333
 4速:1.071
1・2次減速比:3.421・2.642
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ27mm
懸架方式後:スイグアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:80/90-17
タイヤサイズ後:80/90-17
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:機械式ドラム
車両重量:107kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:4.1L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:67.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:67.9km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…