現代スポーツカーの指針、ジャガー Fタイプ RとBMW M3 コンペティション。2台が繰り広げる甲乙付け難い名勝負!

ジャガー Fタイプ R クーペとBMW M3 コンペティションの走行シーン
ジャガー Fタイプ R クーペとBMW M3 コンペティションの走行シーン
スポーツカーの要件にドアの枚数も駆動方式も関係ない。それぞれのもたらす興奮がスポーツカーをスポーツカーたらしめているのだ。それを確かめるべくジャガー FタイプとBMW M3の2台を走らせた。軍配が上がるのははたしてどちらだろう?

ジャガー Fタイプ R クーペ×BMW M3 コンペティション

憧れのスポーツカー、ジャガーとBMWの最新モデルを駆る

ジャガー Fタイプ R クーペの走行シーン
かつて、ジャガーのクーペをはじめとするスポーツカーは「いつか手に入れる」目標として憧れの的だった。今回はジャガー Fタイプ R クーペ(車両本体価格:1587万円)と、BMW M3 コンペティション(車両本体価格:1324万円)を共演させ、往時の想いをしみじみと振り返ってみた。

歳を取ったら911かジャガーのクーペに乗りたい、などと若い頃は妄想していたのだが、いざそのぐらいの年齢になってみると、どちらもさらに手が届かない所まで値段が上がっていることにため息が出る。しかもジャガーに至っては、2025年に内燃エンジン車を廃して純EVブランドに変身する方針を発表している。

結局、憧れで終わるのかとしみじみしながら最新のFタイプ Rに乗ってみれば、あと数年で生産をやめてしまうのが信じられないほど見事なスポーツカーである。伝統的なスポーツカーの有終の美を飾るためのラストスパートと捉えるべきなのか、ジャガーはまさに今円熟の時を迎えているように思う。

スロットルを深く踏み込めば最も獰猛なジャガーであることを露わにする

ジャガー Fタイプ R クーペのエンジン
ジャガー Fタイプ R クーペのエンジン。近年珍しい5.0リッターという大排気量のスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載。こちらもオプションとなるカーボンセラミックブレーキ(155万8000円)を装備していた。

13年にまずコンバーチブルが、翌年にはクーペが発売された現行型Fタイプは、昨年フェイスリフトを受けて、きりっとした切れ長の目つきが鋭くなったこととインフォテインメントシステムなどが充実したことが特徴だが、走る性能についてもこれまで以上にきわめて洗練されている。2シーターのFタイプクーペの最高性能版「R」であるにもかかわらず、このエレガントさはどうだろう、と高速道路に向かう朝の渋滞の中で思う。ハイパフォーマンスカーには付き物と思われる、ラフな突き上げやとげとげしさは一切なく、文字通りの滑らかな乗り心地である。

さらに痒い所に手が届くというのだろうか、小さな操作にも間髪入れず応える一体感が優雅で洗練された身のこなしを強調している。マイナーチェンジされたFタイプ Rは、従来型の550psと680Nmから、以前のSVRと同じ575psと700Nmにまでパワーアップしたジャガー自慢の5.0リッターV8スーパーチャージドユニットを積む高性能モデルである。オールアルミの軽量ボディに電子制御トルクオンデマンドAWDシステムを搭載し、改良された8速ATを介した加速力はすさまじく、0-100km/h加速はわずか3.7秒、最高速度は300km/h(リミッター作動)という。実際、スロットルを深く踏み込めば、ベリベリというアメリカン・マッスルカーを彷彿とさせる排気音を轟かせて、最も獰猛なジャガーであることを露にする。

酸いも甘いも嚙み分けた大人の、いわば大旦那様のスポーツカーである。

ジャガー Fタイプ R クーペのインテリア
ドライバーオリエンテッドなレイアウトのコクピット。ホールド性と快適性を両立したシートが秀逸。こちらもセレクタレバー脇のスイッチでドライブモードを切り替え可能。

それでいながら、野蛮な直線番長のような汗臭さをまったく感じないのは、あらゆる挙動が軽快でリニアな上にエレガントに走るからだ。いかにも後輪駆動らしい(もちろんRはAWDだが基本はほぼ後輪駆動)サラリとした正確なハンドリングは目を吊り上げて走らなくても爽快だし、その気になればパワーで振り回すことも朝飯前である。

鮮やかで清冽なハンドリングと洗練された乗り心地を備えたクーペの名作と言ってもいい。これはやはり人生とクルマ趣味の酸いも甘いも嚙み分けた大人のための、いわば大旦那様のスポーツカーである。

今なお痛快無比

ジャガー Fタイプ R クーペとBMW M3 コンペティションの走行シーン
BMWの「M3」が、かつてのクーペボディからセダンボディ専用のネーミングになって久しいが、スポーツマインドを隠そうともしないスピリットは健在。伝統の直6エンジンを搭載し、コンペティションでは空力を意識したエアロパーツを随所に施し現代でも一線級のパフォーマンスを誇る。

かたや新型BMW M3コンペティションである。クーペのM4と同時に発表された高性能セダンの代名詞だ。日本仕様にはM4のみスタンダードモデルがラインナップされるが(6速MT仕様のみ)、M3はさらに強力な直6ツインターボを積む「コンペティション」と、安全運転支援システムなどを一部省略する代わりにカーボンセラミックブレーキやカーボンバケットシートを標準装備して25kg軽量化した「コンペティション・トラックパッケージ」の二本立て。この秋以降にはAWDモデルも追加される予定だが、当面は後輪駆動モデルのみでトランスミッションは8速AT(シフトスピード可変のドライブロジック付きMステップトロニック)となる。

エンジンは先代に続いて直6ツインターボを搭載するが、最新世代のS58型3.0リッター直6ツインターボエンジンに換装されている。標準仕様の480ps/550Nmに対してコンペティション用では510ps、650psを発生、ひと世代前のS55型直6ツインターボを積む従来型コンペティションに比べて60psと100Nm増しに当たる。0-100km/h加速は3.9秒、オプションのMドライバーズパッケージ付き(33万6000円)のこのクルマでは最高速が250km/hから290km/h(リミッター作動)に引き上げられている。

日常使用でもきわめて扱いやすいのがMの6気筒ターボの真骨頂

BMW M3 コンペティションのエンジン
最高出力510ps、最大トルク650Nmを発揮するS58型3.0リッター直6ツインターボエンジン。試乗車はオプションのMカーボンセラミックブレーキ(107万5000円)を装着していた。

初代E30型M3から数えるとはや6世代目となる新型の全長は4805mm、ホイールベースは2855mmでM4と同一、全高のみ1395mmに対して1435mmと高い。思えばずいぶんと大きくなったものである。初代M3(E30)は全長4.4m足らず、全幅も1.7m以下であり、5ナンバー枠に十分収まる大きさだった。もちろんそれは35年も前の話であり、求められる安全性も環境適応性も今とはまったく次元が違う。

もはやスーパースポーツカーレベルの大パワーを誇りながら、日常使用でもきわめて扱いやすいのがMの6気筒ターボの真骨頂である。自然吸気ユニット時代の硬質なレスポンスとトップエンドでの“絶叫”を懐かしむ人は今も多いが、高回転での突き抜けるサウンドを除けば、最新型が引けを取るところはない。ゆっくり流す時にはあくまで滑らかに、スロットルペダルを深く踏み込めば、きめ細やかな回転フィーリングを失わないまま逞しく爆発的に吹け上がる。しかもスロットルレスポンスやシフトスピードは個別に変更可能、もちろんどのモードでも一糸乱れず、緻密で洗練されたマナーで強力なパワーがいつでも手に入る。

M4より洗練されてしなやかな乗り味が真骨頂

BMW M3 コンペティションのインテリア
新開発のMスポーツシートを装備。ステアリングスポーク左右に備わるMボタンで、2種類のセッティングが呼び出せる。セレクタレバー隣のスイッチでもセッティング可能だ。

しかもこのM3は数ヵ月前に試乗したM4コンペティションよりも鋭く緻密なフィーリングを備え、トップエンドはまるでモーターサイクルを思わせる硬質でシャープに吹け上がる。ストレート6の頂点と言っていいのではないかと惚れ惚れした。

乗り心地についても、M4より若干マイルドに、そして洗練されているように感じた。もちろん、低速でははっきりしっかり上下に揺すられ、その動きを無理やり抑え込むような強力なサスペンションが備わっているが、日常使用にも不満はないと言えるレベルであり、件のM4に比べてフリクション感が少なく、しなやかと言ってもいいぐらいだ。

M3は今なお硬派の要求にも万全に応えるスポーツセダンだ

ジャガー Fタイプ R クーペとBMW M3 コンペティションのスタイリング
ジャガー Fタイプ R クーペは「人生とクルマ趣味の酸いも甘いも嚙み分けた大人のための、いわば大旦那様のスポーツカー」、そしてBMW M3 コンペティションは「オッサン世代にはいささか嚙み応えがあり過ぎるが、M3は今なお硬派の要求にも万全に応えるスポーツセダン」と筆者は評価する。

M4同様、オプションのMドライブプロフェッショナル(12万4000円)を加えると、Mドリフトアナライザーという機能が付属してくる。これはいわばドリフト走行評価機能で、ドリフト距離や角度、時間などを記録して、星の数で運転操作を評価する機能もある。また同オプションを選ぶと10段階でトラクションコントロールの作動レベルを調整することも可能。そもそもクローズドコースで使用すべし、と但し書き付きの機能だが、ちょっとだけクローズドスペースで試したところ、一糸乱れぬホイールスピンを見せた。

フロントの接地感とリヤタイヤの強烈なトラクションを手のひらと腰で別々に感じながらコントロールする気持ち良さはワインディングロードでも濃厚だが、これはドリフトマシーンとしても第一級に違いない。オッサン世代にはいささか嚙み応えがあり過ぎるが、M3は今なお硬派の要求にも万全に応えるスポーツセダンである。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAGINE/GENROQ 2021年 10月号

【SPECIFICATIONS】
ジャガーFタイプRクーペ
ボディサイズ:全長4470 全幅1925 全高1315mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1840kg
エンジン形式:V型8気筒DOHC+スーパーチャージャー
総排気量:4999cc
ボア×ストローク:92.5×93mm
最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/3500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前265/35ZR20(9J) 後305/30ZR20(11J)
最高速度:300km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速:3.7秒
燃料消費率:8.4km/L(WLTC)
車両本体価格:1587万円

BMW M3コンペティション
ボディサイズ:全長4805 全幅1905 全高1435mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1740kg
エンジン形式:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
ボア×ストローク:90×84mm
最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前275/35R19(9.5J) 後285/30R20(10.5J)
最高速度:290km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速:3.9秒
燃料消費率:10km/L(WLTC)
車両本体価格:1324万円

【問い合わせ】
ジャガーコール
TEL 0120-050-689

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437

【関連リンク】
・ジャガー 公式サイト
http://www.jaguar.co.jp/

・BMW 公式サイト
https://www.bmw.co.jp

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

モータージャーナリスト。カーグラフィック(CG)編集部に所属し、CG副編集長、NAVI編集長、カーグラフィ…