目次
Porsche 911
実用に適したターボの導入
1963年、ポルシェはフランクフルト・モーターショーにおいて、356の後継モデルとなる新型スポーツカー「901」、のちの「911」をワールドプレミアした。この901は、ポルシェ初の2.0リッター水平対向6気筒エンジンをリヤに搭載。最高出力130PSを発揮し、最高速度は210km/hに達している。そして、その後60年間、水平対向エンジンをリヤに搭載するレイアウトは、脈々と受け継がれてきた。
911の各世代は、駆動技術において新たなマイルストーンを打ち立てている。1970年代初頭、ポルシェはターボチャージャーによるパワーアップをモータースポーツへと導入し、大きな成功を収めた。このテクノロジーは1974年に量産車への搭載が可能となり、 911ターボ(930)を発表。最高出力260PSを誇る911 ターボは、当時最速のスポーツカーのひとつとなる。
911 ターボは排気側の制御バルブでブースト圧を調整することでターボラグを抑え、パワーデリバリーを穏やかにし、日常域での使用を可能にした。ターボチャージャーとフューエルインジェクションを組み合わせたことで、911 ターボは当初からアメリカの厳しい排ガス規制もクリアしている。
空冷から液冷へのパラダイムシフト
1995年に導入された993型911 ターボは、空冷水平対向6気筒エンジンの頂点に立つパワーユニットであり、911シリーズにツインターボ時代をもたらした。3気筒の各バンク近くに配置された2基の小型ターボチャージャーは、従来のシングルターボよりも、アクセルのあらゆる動きに素早く反応することができた。
この高性能エンジンは最高出力408PSを発揮し、初めて400PSの大台を突破。ポルシェは排気ガス対策も進めており、1995年当時、世界で最も低排出ガスな市販エンジンとなった。
その2年後、エンジニアたちはエンジン開発における次なるマイルストーンを達成する。排気性能の質をさらに向上させるため、4バルブ・シリンダーヘッドを量産化したのだ。それは水平対向6気筒ボクサーユニットを、空冷から水冷に変えるというパラダイムシフトだった。
空冷エンジンの廃止は一部の熱心な911ファンの怒りを招くことになるが、それもすぐに沈静化。996型911は大成功を収め、排ガス、サウンド、燃費の面で大きな進化をもたらすことになる。
2001年から2018年まで、911のモデルラインのチーフエンジニアを担当したアウグスト・アハライトナーは「空冷から液冷への変更は、新技術へのチケットとなりました。空冷2バルブエンジンにはもう可能性がなかったのです」と振り返る。
VTGターボチャージャーの導入
2006年、997型911 ターボは、従来型からパワーとトルクを10%以上向上させ、出力比は排気量1リッター当たり98kW(133PS)にまで達した。特にレスポンスに関しては、新開発のターボチャージャーテクノロジーによって劇的に向上している。
997型911 ターボは内燃機関としては世界初となる「可変タービンジオメトリー(VTG)」を導入。高温に極めて強い高合金ニッケル系材料の進化によって、市販車に求められる耐用年数を備えたVTGターボチャージャーの製造が可能になった。この技術により、ターボ過給のためにあらゆる速度において排気流全体を最適に利用することができるようになった。
2019年から2022年まで、911と718のモデルラインを率いたフランク-シュテフェン・ヴァリザーは、この新技術導入について次のように指摘する。
「この画期的な成果によって、ポルシェはターボテクノロジーにおけるパイオニアとして、改めて存在感を強めることになりました。VTGターボチャージャーのおかげで、水平対向6気筒ターボは911 GT2 RSで最高主力515kW(700PS)という劇的なパワーアップを達成したのです」
2024年ベールを脱ぐハイブリッド911
2024年、ポルシェは911のために、世界耐久選手権(WEC)で導入されているような、スポーツ性能を極めたハイブリッドパワートレインを開発した。現在、911と718のモデルラインを統括するフランク・モーザーは、デビューが迫りつつあるハイブリッド911について、次のように予告する。
「高性能ハイブリッドパワートレインは、これまで911に搭載されてきたパワーユニットの延長線上にあります。そして、その開発はこれからも続いていくのです。ハイブリッド911は、加速するたびにドライバーにメリットをもたらすでしょう。さらに将来の排ガス規制にも対応できる技術も導入されています」