【アストンマーティンアーカイブ】人気スポーツカーの掉尾を飾った「V12ヴァンキッシュS」

フラッグシップに相応しい性能を追い求めた最終モデル「V12ヴァンキッシュS」【アストンマーティンアーカイブ】

5.9リッターV12エンジンは、61PSアップの最高出力527PSを達成。最高速度はついに200マイル(約321km/h)超えを果たした。
5.9リッターV12エンジンは、61PSアップの最高出力527PSを達成。最高速度はついに200マイル(約321km/h)超えを果たした。
2004年から2007年までで、生産台数2589台に達したV12ヴァンキッシュシリーズ。その最終モデルが「V12ヴァンキッシュS」だ。聖地ニューポートパグネルで製造された最後のアストンマーティン・マスプロダクションモデルとして、掉尾を飾ったフラッグシップスポーツカーを解説する。

V12 Vanquish S(2004-2007)

スポーツ・ダイナミック・パックをベースに

V12ヴァンテージS専用の11本スポークホイールが装着される。

2004年5月、アストンマーティンは「V12ヴァンキッシュ」のポテンシャルをさらにアップさせるオプションとして、スポーツ・ダイナミック・パック(SDP)を新たに設定した。

その改良点はシャシーに集中しており、強化されたスプリングとダンパーにより車高を5mmローダウン。またステアリングギアレシオの改良によりレスポンスを20%向上。ブレーキもフロントディスクを355mmから378mmに拡大した上でキャリパーも4ポットから6ポットへアップデート。あわせてリヤのベンチレーテッドディスクも2mm厚いものへと変えられているほか、ホイールが12本スポークから、より軽量な9スポークとなった。

同年の9月まで、わずか94台が生産されたというSDP仕様だが、それは次に続くモデルの予告編でもあった。というのも2004年9月に開催されたパリ・ショーで、アストンマーティンはV12ヴァンキッシュの後継で、そのアップデート・バージョンというべき「V12ヴァンキッシュS」を発表したからだ。

ついに200マイルを超えた最高速度

冷却効率の向上のためフロントグリルの形状が変更された。

外観上の識別点は、冷却効率の向上のため形状が変更されたフロントグリルと、空気抵抗の低減とダウンフォースの向上を狙ったフロントのスプリッター、新デザインとなったトランクリッドなどで、これらの改良によりCd値は0.33から0.32ヘと、わずかではあるが向上を果たしている。

シャシーはSDP仕様をそのまま踏襲していたが、ホイールが9スポークではなく、V12ヴァンテージS専用の11本スポークホイールとなっているのが、唯一の変更点であった。

V12エンジンは排気量こそ5.9リッターと変わらないものの、インレットポートと燃焼室を変更することでエアフローを改善した新設計のシリンダーヘッド、強化されたインジェクター、エンジンマッピングの最適化などにより、61PSアップの最高出力527PSを達成。最大トルクも542Nmから576Nmへとアップ。加えて最終減速比を3.69:1から4.30:1に変更したことで、0-100km/h加速こそわずかに遅くなったが、その代わり最高速度はついに200マイル(約321km/h)超えを果たしている。

一方インテリアも、DB9譲りのバックライト付きエッチングガラスのスターターボタンのほか、塗装からレザー張りに変えられたセンターコンソールを採用。また2006年モデルからはフルカラーの6.5インチディスプレイ、クライメートコントロールなど、いくつかの機能、装備がDB9から流用されるなど近代化を図りながら生産が続けられた。

最後のニューポートパグネル生産モデル

トランクリッドは新デザインとなった。

そして2007年2月、アストンマーティンはV12ヴァンキッシュSの生産終了を記念して、40台限定のV12ヴァンキッシュSアルティメット・エディションを発売する。これはアルティメット・ブラックと呼ばれるメタリック・ブラックのボディカラーに、ブラッククロームと、ブラックのセミアニリンレザーのインテリアが施されたもので、メカニズムはヴァンキッシュSと同一。しかしながら発表とともにオーダーが殺到し、最終的に予定を上回る、20台の右ハンドル仕様と30台の左ハンドル仕様の合計50台が製造されている。

こうして2007年7月までに1086台のV12ヴァンキッシュSがラインオフし、V12ヴァンキッシュシリーズ全体の生産台数は2589台となった。それはまた聖地ニューポートパグネルで製造されたマスプロダクトのアストンマーティンとしては、最後のモデルともなったのである。

名実ともに復活アストンマーティンのフラッグシップとなった「V12ヴァンキッシュ」。

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藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…