新型「MINI クーパー SE」はゴーカート・ハンドリングから脱却?

新型MINIの新本命?フル電動「MINI Cooper SE」に試乗「ゴーカートフィーリングはどうなった?」

3つのパワートレインを設定する新型MINI。システムアウトプット218PS/330Nmを誇る高性能BEVモデルにバルセロナで試乗してきた。
3つのパワートレインを設定する新型MINI。システムアウトプット218PS/330Nmを誇る高性能BEVモデルにバルセロナで試乗してきた。
新型MINIの本命とも言えるBEVモデル、その高性能版であるクーパーSEに試乗してきた。そこには従来のゴーカート路線は身を潜め、新たなMINI像を提示する前向きな姿があった。(GENROQ 2024年8月号より転載・再構成)

MINI Cooper SE

BEVの最速高性能モデル「S」

新型MINIはバッテリーEVとPHV、内燃機の3モデルが用意される、今回試乗したのはBEV仕様の「S」だ。
新型MINIはバッテリーEVとPHV、内燃機の3モデルが用意される、今回試乗したのはBEV仕様の「S」だ。

最新世代の「MINIクーパーSE」にバルセロナのリゾートエリア近郊で試乗した。既報の通りMINIシリーズはバッテリーEVとPHV、内燃機関のミックス路線。3ドアモデルは今回からすべてその名前が「MINIクーパー」となり、試乗したのはそのEV仕様の高性能モデル「S」ということになる。

そんなMINIクーパーSEで感心したのは、3865mmの全長だ。先代3ドア(3940mm)に対して、若干だがそのサイズが小さくなった。対して全幅(1756mm)は僅かに幅広くなっており、ホイールベース(2526mm)も少し延長された。リヤシートの居住性はコンパクトカーの域は出ないが、身長171cmの筆者でもなんとか長距離がこなせそうな印象。そして荷物を放り込むスペースとしては十分の広さである。

スズキ・スイフトより少し大きくて、トヨタ・ヤリスより小さく、よりワイドなルックスは相変わらず愛らしい。モデルチェンジの度にサイズアップが話題に上がるMINIだが、現代の水準で考えれば3ドアはそれほど大きくないのである。そしてこのサイズ感とEVの走りが、MINIのキャラクターにはとっても合っている。搭載されるバッテリーは標準仕様「クーパーE」の40.8kWhに対して54.2kWhと容量が拡大されており、フロントに搭載するモーターも184PSから218PSへと出力アップ(トルクは共に330Nm)。気になる航続距離もクーパーEの344kmから、446km(WLTCモード)となった。急速充電は90‌kWhまで対応しており、普通充電は7kWh値だが、満充電までおよそ7.75時間だという。

リヤシートはコンパクトカーの領域をでない

肝心な走りは、ひとこと上品。床下にバッテリーを内蔵する車体の剛性の高さから足まわりがしなやかに動き、その乗り心地は非常に快適。かつ低重心なボディバランスと、4輪に対する接地荷重の良さから、操舵レスポンスがとてもリニアだ。興味深いのはFWDを継続したこと。当然そこにはリヤスペースの確保やデザイン上の制約があったにせよ、フォルクスワーゲンのように後輪駆動で是が非でも電費を稼ぐというスタンスではない。だから既存のMINIオーナーでも、違和感なくその走りを楽しめるだろう。

むしろ問題があるとすればそれは贅沢な悩みで、このMINIクーパーSEが心地良すぎることだ。“ゴーカート・ハンドリング”は、どこへやら。電動パワステの手応えは軽やかで、ハンドルを切っても“パキッ!”とは曲がらない。シャシーバランスが良いからサス剛性を高めずとも、気持ち良く曲がれてしまうのだ。そしてアクセルを踏み出せば、モーターが旋回Gを縦方向に素早く転換してくれる。その走りは玄人的に言うと恐ろしくスポーティなのだが、一般的には「刺激が足りない」と感じるユーザーも出てくるだろう。現代人は柔らかいものばかり食べて、アゴが弱くなっているという。それと同じでちょっとハードな乗り味を可変ダンパーで演出できたら良いなと思うが、それはJCWのようなホットモデルの役目といえるだろうか。

走りの楽しさは健在

とはいえ“電動MINI”が退屈かといえば、まったくそんなことはない。そこに一役買っているのはインフォテインメントを交えた「エクスペリエンスモード」の充実だ。「ゴーカート」モードはダンパー減衰力こそ変わらないが、電動パワステやモーターのレスポンスを先鋭化させ、アクセルに連動して派手なデジタルサウンドを響かせる。大型の有機ELメーターが、黒いスポーツ仕様へと瞬時に変わるのもエンタメ度満点だ。「タイムレス」モードではクラシック・ミニを再現していたが、それはエンジンサウンドというよりもメカニカルノイズの再現だったから(しかも踏み込んで行くと近未来的なサウンドに変わる)、例えばキャブレターサウンドをデジタル再現した方が面白かったのでは? なんて思うけど、デジタルだけに今後の拡張性にも期待が持てる。

手堅く、バランスの良い高性能BEV

今回の新型モデルから3ドアモデルはすべて「MINIクーパー」という名称となった。
今回の新型モデルから3ドアモデルはすべて「MINIクーパー」という名称となった。

ヒョンデのアイオニック5Nがアグレッシブにデジタルと走りを融合させたような勢いは、MINIクーパーSEにはない。見た目こそ先進的でキャッチーだが、その造りは結構手堅く、走りもまじめだ。しかしだからこそ、まだ黎明期のEVにユーザーは安心感を持って挑戦できる。このバランス感覚の良さが、MINIクーパーSEの良さだと思う。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/BMW AG
MAGAZINE/GENROQ 2024年 8月号

SPECIFICATIONS

MINI Cooper SE

ボディサイズ:全長3858 全幅1756 全高1460mm
ホイールベース:2526mm
車両重量:1680kg
システム最高出力:160kW(218PS)
システム最大トルク:330Nm(33.7kgm)
トランスミッション:1速固定
駆動方式:FWD
EV航続距離:402km(WLTC)
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
0-100km/h加速:6.7秒
最高速度:170km/h
車両本体価格:531万円

【問い合わせ】
MINIカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-329-814
https://www.mini.jp

果たしてこれはMINIなのだろうか──? 実車を目の前にして、これほどまでに困惑した経験ははじめてのことだった。新型MINI「クロスオーバー」改め「カントリーマン」は、それほどまでに大きく、デザイン的なアイコンも大胆な解釈で再定義している。では、走りはどうだろう? 4WDの上級モデル2台を連れ出して確かめた。

「ホントにミニ?」と思わせる史上最大サイズの新型「MINIカントリーマン」に試乗

果たしてこれはMINIなのだろうか──? 実車を目の前にして、これほどまでに困惑した経験ははじめてのことだった。新型MINI「クロスオーバー」改め「カントリーマン」は、それほどまでに大きく、デザイン的なアイコンも大胆な解釈で再定義されている。では、走りはどうだろう? 4WDの上級モデル2台を連れ出して確かめた。(GENROQ 2024年7月号より転載・再構成)

キーワードで検索する

著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…