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Lamborghini Temerario
全モデルでPHEV化を達成
8月16日、ランボルギーニはモータースポーツ・ギャザリング開催中のクエイル・ロッジ&ゴルフクラブにおいて、ウラカンの後継モデルにあたる「テメラリオ」を発表した。私はクエイルの会場で、ランボルギーニのチーフ・テクニカル・オフィサーであるルーベン・モールに単独インタビューする機会を手に入れたので、その模様をここで紹介しよう。
テメラリオの最大の特徴は、ウラカンが積んでいた自然吸気V10エンジンをV8ツインターボエンジンに置き換えるとともに、レヴエルト用に似た3モーター方式のプラグインハイブリッドシステムを組み合わせて920PSのシステム最高出力を発揮。0-100㎞/h加速を2.7秒で駆け抜け、最高速度は343km/hに達するというクラス最高峰のパフォーマンスを実現した点にある。
これでランボルギーニは全モデルのPHEV化を達成したことになるが、すでにデビューしているレヴエルトとウルスSEは、ともにPHEV化して環境性能を高めただけでなく、スーパースポーツカーとしての魅力を一段と引き上げた点に、その最大の特色はあった。
V10がV8になったら官能性が薄れる?
たとえばアヴェンタドールはV12エンジンをミドシップしているがゆえにリヤヘビーで、これが軽快なハンドリングを生み出すうえで大きな障害となっていたが、レヴエルトでは3モーター方式によるトルクベクタリングなどを用いてこれを克服。いっぽうのウルスはトルセン式センターデフを採用しているためにオンロードではオーバーステアを引き出しにくかったが、電子制御式トルクスプリッターなどを用いることでオーバーステアを容易に引き出せるように改良。いずれもスポーティなハンドリングを前面に押し出したモデルに生まれ変わった。
では、テメラリオにはどんな特徴があるのか? 私は、ウラカンの後継モデルがV10自然吸気エンジンを捨てて、V8ターボエンジンを搭載すると噂されるようになった頃から、「ニューモデルは官能性が薄れるのではないか?」と心配していた。この点はランボルギーニも同様だったらしく、今年5月に発表されたテメラリオの事前情報ではエンジンの最高回転数が10000rpmに達することを公表。V8ターボでもV10NAと遜色のない官能性を実現したことを匂わせたのである。
どこまでも続くような加速感を
そこで私は、手始めに「テメラリオでもっとも重要な開発テーマは、パワートレインの官能性を確保することにあったのではないか?」と訊ねてみた。
「そのとおりです」とモール。「率直にいって、それがメインの開発テーマでした。私たちは、他に例のないユニークなドライブトレインを生み出し、印象的なパフォーマンスを実現しましたが、それ以上に重要だったのは、ターボチャージャーを備えたエンジンでこれまで体験できなかったエモーションをもたらすことにありました」
この目的の一部は10000rpmの最高回転数により達成したが、彼らはこれだけでは満足しなかった。
「出力特性も極めてユニークで、最高出力を生み出す10000rpm付近までパワーは驚くほどリニアに立ち上がっていきます。しかも、大型ターボチャージャーを用いることでトップエンドでもパワーが落ち込まず、どこまでも続くような加速感を味わえます。それどころか、回転数を上げれば上げるほど加速感が高まっていくような感覚を覚えるはずです。トップエンドでパワーが落ち込む自然吸気エンジンでは、このような感触は楽しめません。また、一般的にいってターボエンジンはフラットトルクなので、回転数を上げても盛り上がりに欠けて、やや退屈でした。その意味において、私たちは新境地を切り拓いたといえます」
ターボチャージャーが生み出す高周波音
官能性を生み出すうえでもうひとつ重要なポイントが、サウンドである。「テメラリオのドライブトレインはサウンドも極めてユニークです。フラットプレーンのクランクシャフト、ターボチャージャー、そして10000rpmの最高回転数。これらをあわせ持つエンジンはほかにありません。とりわけターボチャージャーが生み出す高周波音と10000rpmで回るサウンドが同時に楽しめる点に大きな特徴があります。これが最高回転数8000rpmであれば、これほどの高周波音は聞こえなかったはずです。そして、私たちはターボエンジンのキャラクターとNAエンジンの高回転性を両立させたのです。この組み合わせも実にユニークです」
3モーター方式のプラグインハイブリッドシステムも、実はレヴエルト用とは微妙に異なっている。
「フロントに2基のアキシャルフラックスモーターを用いていることはレヴエルトと同じですが、リヤにコンベンショナルなラジアルフラックスモーターを搭載するレヴエルトに対し、テメラリオではフロントと同型式のアキシャルフラックスモーターを採用しました」
しかも、このリヤモーターを、ギアボックス側ではなくエンジンのクランクシャフトとダイレクトに接続したところが、テメラリオの特徴のひとつ。これによりエンジンのレスポンスや低回転域でのトルク不足を補うことが可能になり、理想的なパフォーマンスを実現したという。
スーパーアジャイルなハンドリングカーとして
ところで、レヴエルトとテメラリオではドライビングした際にどのような違いが感じられるのだろうか?
「レヴエルトはランボルギーニの頂点に位置するクルマで、ステートメントカー。したがってドラマ性が重要です。いっぽうのテメラリオはスーパーアジャイルなハンドリングカーで、ファン・トゥ・ドライブを極限まで追求しました。しかもホイールベースが(レヴエルトよりも)短いので、ずっとコンパクトに感じられるはずです」
最後に私が「ウラカンも素晴らしいハンドリングだった」と述べると、モールは次のように答えたのである。
「ええ、ウラカンも素晴らしいクルマです。V10自然吸気エンジンはスーパークールで、アイコンといっていいモデルでした。ただし、テメラリオのパフォーマンスはウラカンを圧倒的に凌ぎます。まったく別次元のモデルといっていいでしょう」
そんなテメラリオに、一刻も早く試乗してみたいものである。
PHOTO/大谷達也(Tatsuya OTANI)、Lamborghini