【死ぬまでに味わいたい欧州絶景ロード/01】スイス・アルプスのフルカ峠

『007/ゴールド・フィンガー』の舞台となったフルカ峠を訪れた【死ぬまでに味わいたい欧州絶景ロード/01】

フルカ峠の頂上からグリムゼル峠を望む。
フルカ峠の頂上からグリムゼル峠を望む。
クルマ好きはドライブ好き……とは限りませんが、美しい景色の中、自分の好きなクルマで走ることが至福の時間という人は多いのではないでしょうか? 欧州にも日本と同じかそれ以上に美しい山道が多くありますが、円安の昨今、渡欧して走るのはなかなか難しいこと。そこでドイツ・ミュンヘン在住にしてドライブが大好きのジャーナリスト池ノ内みどりが、厳選した欧州ドライブルートをご紹介します。第1回はスイス・アルプスのフルカ峠からの山道ドライブです。

Furka Pass

まずはフルカ峠から

峠を駆け抜ける愉しみ──それは、私にとって誰にも邪魔されない至福の現実逃避のひとつ。その日は雑念を一切捨て、景色とドライビングを愉しむだけの贅沢な時間。峠を走ると決めた日は、観光もショッピングも不要。カブリオレの屋根を開けて朝陽と共にさあ出発! 青空と陽の光をたっぷりと浴びて、BGMにはエキゾーストノートだけで十分なのです。

私が峠を一日中走りたい時に真っ先に思いつくのは、フルカ→グリムゼル→サステン峠をぐるりと巡る旅です。今回のドライブはフルカ峠から走り始める事にして、西側のホスペンタール村から出発しました。

今回ご紹介するルート

当初は地域の生活を支える大切な道

映画『007/ゴールド・フィンガー』の撮影の舞台としても有名なフルカ峠。
映画『007/ゴールド・フィンガー』の撮影の舞台としても有名なフルカ峠。

1964年にショーン・コネリーが演じた歴代のジェームス・ボンドの中の代表作のひとつでもある映画『007/ゴールド・フィンガー』の撮影の舞台となった場所でも有名なフルカ峠は、ちょうどスイスの中央付近に位置しています。

ジェームス・ボンドのファンではなくてもその名を耳にした事がある方が多いのではないしょうか。しかし、このフルカ峠はジェームス・ボンドよりも遥か昔のローマ時代から貿易に利用されていたそうで、道路として整備開通したのは1860年代にかけての事(文献によって異なる年号が記載されています)だそうです。

まだ近代的な土木工事の機械がない時代に険しい山々を切り開き、郵便や交通網の発達に貢献しました。いまでこそ、ドライブを愉しむための峠として有名ですが、きっと当時は地域の方の日々の生活を支える大切な道のひとつだったのでしょうね。

諦めてそのまま先へ進むしかない場合も

登り始めると割合と早い段階でジェームス・ボンドの撮影場所を谷側に観る事が出来ますが、その立て看板が小さいのでうっかりすると見過ごしてしまいます。この地点で撮影を希望される方は注意しながら走った方が良いかも知れません。この場所にクルマを停められるのはせいぜい2~3台分程度ですので、後続車が続いている場合は空きを待つ事が難しく、近くにはUターンが出来る箇所がありませんので、諦めてそのまま先へ進むしかありません。

この日は夏休みが終わる頃の平日という事もあり、繁忙期に比べると随分と空いていましたが7~8月のハイシーズンには大変混雑しており数多くのクルマが連なっている上、ヨーロッパの方は隙あらば車間距離を詰めてきますので、頂上までに何度か訪れる撮影ポイントで停車したい場合には後続車との距離を見ながらさっと入ります。

レンタカーでの走行が難しい場合はバスも

峠の頂上付近に近づくと、長年営業を停止している数軒の廃墟ホテルが視界に入りますが、寂れているという表現もある一方で、静かな山々の間で趣きがあり、かつてここが交通の要所として多くの宿泊客で賑わった時代を思い起こしてしまいます。

そこを少し通り過ぎると、いよいよこの峠道の頂上である2436mを示す標識が見え、記念撮影や休憩をする多くの人々で賑わいます。それより更に上へは徒歩で上るしかありませんが、ハイキング道が整備されており、人気のコースとなってるようです。非常に運行本数は少ないのですが、フルカ峠を路線バスが通っていますので、レンタカーでの走行が難しい方にはバス、またはフルカ山岳蒸気鉄道でフルカ峠を巡るという手段もあります。

この地点は広い駐車場になっていますが、飲み物を売る小さな露店がひとつだけで、他にはバス停と古びた建物があるだけです。フルカ峠から続くグリムゼル峠の九十九折が遥か遠くの山肌に見え、清々しい気分以外の何物でもありません。私の愛車はカブリオレですが、峠を走るだけの為にこれを選んだと言っても過言ではありません。

地球温暖化の影響を身近に

フルカ峠の頂点から少し下ると、誰もが思い描くシンボル的なベルヴェデールホテルがそびえ建ち、フォトジェニックな光景が目の前に広がります。歴史的で美しいこの楕円形の建築ですが、既に随分と以前にその営業を終えているようで、現在は雨戸にしっかりと板が張り付けられているのを目にすると「その役目は終わった」と告げられているように感じてしまいます。

ここまで来ると、やっと小さなお土産屋さん兼飲食店が駐車場の奥に一軒あり、有料ですがお手洗いも利用する事が出来ます。ふもとのホスペンタールから、このお土産屋さんまでお手洗いはありませんので要注意。このお土産屋さんの奥には、幻想的な青い氷の洞窟を抜けてローヌ氷河を見学する事が出来ます。

近辺には2ヵ所、そのローヌ氷河をPRする大きな広告バナーが掲示されているのですが、景観にミスマッチなのがとても残念なところです。昨今は地球温暖化の影響か、このローヌ氷河の氷がどんどんと溶けて小さくなっているのだそうです。私が峠に目覚めたのは十年程前ですが、その際にはもっとこの付近の頂上には、夏でも積雪があった記憶がありますので、地球温暖化はあながち間違った情報ではないのではないかと感じています。

思い立ったが吉日

ベルヴェデールホテルからはひたすら九十九折の道を下るのみ。この日は多くのクラシックカーとすれ違いながら走りました。峠を下るとその目の前に控えているのはまた峠。ワクワクする気持ちが押さえ切れません。

山国の夏は驚くほど短く、あっという間にシーズンを終えてしまいます。実質的に峠を愉しめる日々はごく限られているだけに、思い立ったが吉日。朝陽と共に走り出しましょう。次回はグリムゼル峠の様子をお届けします。

必読:欧州を走る時の心得

峠道を満喫するならカブリオレに限る。
峠道を満喫するならカブリオレに限る。

ヨーロッパの峠道は観光用に広い道路が確保されていて、とても走りやすい部分もありますが、必ずしもそのような道ばかりではなく、特に古い峠には片側一車線で、それも柵もない場所がかなり多くあります。そんな道でも観光バスや路線バス、キャンピングカーをはじめとした様々な車種も峠を走行できますが、大半が一車線で対面した時に必ずしもすれ違いがスムーズではありませんので、レンタカーを選ぶ際にはコンパクトでトルクのあるクルマをチョイスされる事をお勧めします。

また、景色よりも速さとスリルを求めて猛スピードで突進してくるオートバイやクルマ、そして細い道ながらロードバイクやオートバイがヘアピンカーブを猛スピードで攻めてくる場合も多々ありますので、いくらこちらが慎重に運転をしているつもりでもヒヤリとする場面もあります。のんびり走るなら、ちょっと広い道幅の区間でスピードを緩めてウインカーを出して先に行って貰うのが良いでしょう。

広大な山岳地方とあり、ヨーロッパの峠ではヘアピンカーブと九十九折の連続、そしてかなり高度の高いところまで上りますので、健康な方でも気圧の変化で多少気分が悪くなって高山病に似た症状にもなる可能性がありますので、前日には十分な睡眠を心掛けたいですね。

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著者プロフィール

池ノ内 みどり 近影

池ノ内 みどり

ミュンヘン大学在学中にアルバイトをしていたドイツの広告代理店での仕事がきっかけで、モータースポーツ…