絶対的“スピードのアイコン”「日産 GT-R」2025年モデルに試乗

「正真正銘これが最後!」の絶対的“スピードのアイコン”「日産 GT-R」2025年モデルに試乗

正真正銘、この2025年モデルが最終GT-R。
正真正銘、この2025年モデルが最終GT-R。
長らく「今年で最後」と言われ続けてきたGT-Rだが、正真正銘、この2025年モデルが最終モデルになることが日産自動車広報部から正式にアナウンスされた。スーパーカー界に一石を投じたGT-Rとは、果たして何者だったのか。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

Nissan GT-R MY2025

スピードのアイコン

エクステリアはMY11、MY14、MY17、MY24において、前後バンパーの形状変更をはじめとするさまざまなアップデートが行われた。いちばん大きな変更はMY17において行われた。
エクステリアはMY11、MY14、MY17、MY24において、前後バンパーの形状変更をはじめとするさまざまなアップデートが行われた。いちばん大きな変更はMY17において行われた。

これが本当に最後の「R35」になる。受け渡しのときにそう聞いて、込み上げるものがあった。

実を言えば筆者は日産GT-Rに関して、結構な“アンチ”だった。その根は深く、スカイライン時代のGT-Rからの話である。

それはGT-Rが常に、絶対的な“スピードのアイコン”で在り続けたからだろう。特に第二世代の祖であるR32型は、1990年代の絶対王者だった。つまりそれは、速すぎることへのジェラシーだった。

対して第三世代のR35型には、複雑な思いから生じた反発心があった。スカイラインの足かせを外してまで生まれ変わったGT-Rはしかし、どこから見ても箱型の2ドアクーペだったからだ。それは直前までR35型がスカイラインとして発売される可能性があったからだともいわれているが、ともあれ日産が最強のフラッグシップモデルを新たに造り上げるなら、「MID4」のような1台であるべきだと筆者は感じたのだ。

確かに3.8リッターにまで排気量を拡大したVR38DETTは、初期の開発をコスワースと共に行ったほどの力の入れようで、V型6気筒となったイメージダウンをも吹き飛ばすほどの高性能ぶりだった。クローズドデッキのブロックは屈強で、果てはNISMO仕様が600PSをマークするまでになった。

しかしその操縦性は相変わらずフロントヘビーで、ヨーモーメントの遅さはピュアスポーツカーのハンドリングとはいいがたかった。エンジンをフロントミッドシップとし、トランスアクスルの採用で前後重量配分を適正化した努力は買うが、セミドライサンプ方式とはいえオイルパンを下に構えるエンジンをフロントに搭載した重心は高かった(GT3マシンは2018年モデルでドライサンプ化された)。

「GT-Rに乗っている」という満足感は健在

また第二世代で懸案事項だった軽量化も、積極的には行わなかった。カーボン素材を多用したNISMOでさえ1720kgと、標準モデルから40kgしか軽くない。そもそもの骨格が、量産車的で重たいのだ。

もっとも、だからこそGT-Rは圧倒的に安かった。2007年当時に777万円だったことを考えるとこのプレミアムエディション T-specが2035万円することに驚きを禁じ得ないが、いまや911ターボが2832万円であることからもわかる通り、世界は上方シフトしている。我々がGT-Rを果てしなく遠く感じるのは、日本経済の低迷と“円”の弱さが原因だ。

そんなGT-Rに変化が起きたのは、2014年モデルからだ。明らかに良くなった乗り心地、そこから得られる日常領域のドライバビリティはR32の再来といえる心地よさで、このときNISMOを初登場させたことも重なり、“素のR”は最強のロードゴーイングカーとなった。当時これを仕上げたのはT-specの名前の由来にもなった(?)開発責任者の田村宏志さんで、さまざまな意味で氏が公道というものをよく理解しているのだと感じた。

そしてようやくこの2025年モデルとなるわけだが、直近の騒音規制への対応は24年モデルで排気系を刷新し、すでにクリア。よって2025年モデルは、日産的にいえば「最後のご奉仕」となる。2025年モデルが最後のGT-Rとなる理由は部品供給の見通しが立たなくなってきたからだというが、2025年12月以降に、継続生産される国産車にも衝突被害軽減ブレーキが義務づけられることも関係しているはずだ。

あのGT-Rが静かに発進

話を戻せば、2025年モデルは「プレミアムエディション」に「ブルーヘブン」と呼ばれる新たな特別内装色が与えられた。また今回試乗した「プレミアムエディション T-spec」と「トラックエディション エンジニアード by NISMO T-spec」には、NISMOスペシャルエディションに用いたパーツが盛り込まれた。具体的にはフライホイール、クランクプーリー、吸排気バルブスプリング、コンロッド、クランクシャフト、そしてピストンリングまでもが張力公差をさらに詰められ、バランス取りされた。

その走りは、熟成の極みに来たといってよいだろう。冷間時こそ初爆は大きめだが、スタートボタンを押せば実に品行方正なセダンの体で、あのGT-Rが静かに発進する。

ランフラットタイヤの突き上げこそわずかに残るが、最新制御のダンプトロニックがもたらす乗り心地は上質で、燃費の悪さを忘れて思わず常用してもいいかと錯覚する。面白いのは消音しきれないトランスミッションの駆動音が微かに聞こえ、それがむしろ「GT-Rに乗っている」という満足感につながっていたことだ。

「曲がらないR」のイメージを払拭

長らく「今年で最後」と言われ続けてきたGT-Rだが、正真正銘、この2025年モデルが最終モデルになることが日産自動車広報部から正式にアナウンスされた。スーパーカー界に一石を投じたGT-Rとは、果たして何者だったのか。
スーパーカー界に一石を投じたGT-R。その功績は偉大だ。

しかしGT-Rの本領はどこまで行っても、走らせたときにある。興味深いのは電動パワステがRモードでも変わらず軽く、しなやかなサスとソリッドなタイヤの特性を使いながら、鋭くノーズをコーナーにターンインさせようとすることだ。これはきっと「曲がらないR」のイメージを払拭するセットなのだろう。

とはいえターンミドルからは、クルマの素性が顔を出す。弱アンダーステアの特性はある意味安全だが、何とも惜しいのはここで、日産が後輪操舵を捨て去ってしまったことだ。

カミソリのようなターンインのあと、ひと呼吸置いてアクセル開度を深める。圧倒的なトルクを、直6いらずの滑らかさでVR38DETTが路面にぶつける。そしてアテーサE-TSの駆動配分やVDC制御が影ながらに走りを支える。17年使い続けたとは思えないボディ剛性の高さは、セレナにはないGT-Rの財産だ。サーキットでの印象は測りかねるが、これで文句があるなら、他を買えば良い。いや既に25年モデルは買えないはずだが、本当に欲しいならユーズドでもまったく構わないと筆者は感じた。

最後のR35 GT-Rに乗って思うのは、お互い年を取ったということ。かつては何が何でも世界一速い悪童であって欲しかったGT-Rが、今はとても愛おしい。最強のRは、次期型に任せよう。これからはオーナーがその蜜月を楽しむ時間だ。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年11月号

SPECIFICATIONS

日産GT-RプレミアムエディションT-Spec

ボディサイズ:全長4710 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1760kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570PS)/6800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格:2035万円

【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
https://www.nissan.co.jp

日産自動車は、「NISSAN GT-R」の2025年モデルを発表した。限られた台数が生産され、すでに予約受注はスタートしている。

2025年モデルR35型「日産 GT-R」は限定生産でオーダー受付開始「パワーユニットを強化」

日産自動車は3月14日、「NISSAN GT-R」2025年モデルを発表、日産ハイパフォーマンスセンターにおいて注文受付を開始した。生産台数に限りがあり、注文が受け付けられない場合もある。発売は2024年6月を予定している。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…