「アストンマーティン DB12」と「メルセデスAMG GT 63」英独最新のスポーツクーペを試す

英独最新のスポーツクーペ「アストンマーティン DB12」と「メルセデスAMG GT 63」を比較試乗

クルマのエンジンは、よく人の心臓に例えられる。それは大切なクルマの動力源というだけでなく、キャラクターを決定づける重要な魂でもあるからだ。そんなエンジンを共有するのがこの2台。英独の名門は果たしてどのような差別化を図ってきたのか。
アストンマーティンDB12(右)とメルセデスAMG GT 63クーペ(左)。
クルマのエンジンは、よく人の心臓に例えられる。それは大切なクルマの動力源というだけでなく、キャラクターを決定づける重要な魂でもあるからだ。そんなエンジンを共有するのがこの2台。英独の名門は果たしてどのような差別化を図ってきたのか。(GENROQ 2025年1月号より転載・再構成)

Aston Martin DB12
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Mercedes-AMG GT 63 4 Matic+ Coupe

出自が一緒の4.0リッターV8

アストンマーティンの“今”を語るにあたって、外すことができないのがメルセデスAMG(以下、AMG)の存在だ。よく知られるところでは、2021年から参戦中のアストンマーティンのF1マシンには、AMGのパワーユニットが搭載されている(2026年からはホンダに変更予定)。しかし、本誌読者ならご承知のように、今に続くアストンとAMGの関係性は約11年前にさかのぼる。

2013年7月、アストンとAMGはV8エンジンと電装システムの共同開発……というか、実質的にはAMGからの供給提携が結ばれた。その成果は2016年春デビューの「DB11」で現れる。そのインフォテインメントシステムやスイッチ類の一部にメルセデス系の部品が使われていた。さらに2018年にはDB11と当時の新型「ヴァンテージ」に、アストンの独自チューンを施したAMG製4.0リッターV8ツインターボが搭載されたのだ。

アストンは今も、孤高のエンジンとして自社製V12の生産も続けているが、台数的な主力は完全にAMG製V8になってしまった。そこに一抹の寂しさを覚えることは間違いないが、考えてみれば、1987年にフォード傘下に入って以降に登場したアストンの新型エンジンは、ジャガーやフォードが原設計であり、純粋な自社開発ではない。となれば、F1マシンに搭載されているAMGエンジンを市販アストンに積むことも、由緒としては十二分に正しい。

パッケージングは大きく異なる

クルマのエンジンは、よく人の心臓に例えられる。それは大切なクルマの動力源というだけでなく、キャラクターを決定づける重要な魂でもあるからだ。そんなエンジンを共有するのがこの2台。英独の名門は果たしてどのような差別化を図ってきたのか。

というわけで、今回はそんなアストンとAMGの最新スポーツクーペを連れ出すことにした。「DB12」と「GT63 4マティック+クーペ」である。両車とも日本上陸間もない最新モデルであるばかりでなく、全長×全幅も事実上同じ(日本の諸元で5mmしか違わない)といってよく、3000万円前後という価格も同等である。そして、当然のごとく、フロントフード下には同じ血統を持つ4.0リッターV8ツインターボが鎮座する。

上下に薄くスリークなデザインが斬新だった前身のDB11から一転、このDB12は最新アストンに共通する肉感的なプロポーションが目を引く。ただ、ルーフを浮かせたような特徴的なリヤクォーターの処理には、今もDB11の面影が残る。

一方、AMG GT63はいかにもロングノーズの古典的プロポーションに見える。これは先代GTはもちろん、SLRマクラーレンやSLSなど、歴代のAMG謹製スーパースポーツに共通するお約束といってもいい。ただ、よく観察すると、ドライバーの着座位置はDB12も似たようなもので、GT63のロングノーズ感も、実は巧妙なデザインテクニックによるところが大きい。

その証拠に、パッケージレイアウトは、ある意味DB12=アストンのほうがAMGのそれより明らかにストイックだ。V8ツインターボがエンジンルームのより後方に追いやられたDB12は、8速ATをリヤデフと一体化したトランスアクスル方式もかたくなに守る。結果、車検証によるDB12の前後軸重配分は48対52。FRでありながら、かすかに後輪寄りの重量配分となっているのだ。

対して、先代ではアストン以上にピュアなスポーツカーだったGTは、この新しい2代目では「きわめてダイナミックな走行性能と卓越したスポーツ性を備えると同時に、優れた快適性も兼ね備えたパフォーマンスラグジュアリーモデル」と公式に標榜するなど、微妙に立ち位置を変えている。アルミスペースフレームなどの骨格技術は受け継ぎつつも、プラットフォーム設計自体はSLと共有化。つぶしが利きにくい(?)トランスアクスルからも手を引いて、かわりに4WDでトラクションを担保する。前後重量配分もわずかながら前輪優勢となった。先代は完全な2シーターだったが、今回はオプションで+2の後席も用意する。

そんなGTはインテリアもよりラグジュアリー志向になった。すみずみまでレザーが張り込まれた室内調度は、アストンのラグジュアリー担当であるDB12と比較しても、大きく引けを取らなくなった。

一方、DB12のインテリアも、時代の変化を感じさせる部分がある。前述の2013年の提携直後に開発されたアストンは、インフォテインメントシステムもAMG≒メルセデスから供給を受けており、特徴的な操作ダイヤルなどにもドイツの影響が濃かった。しかし、このDB12の世代からはインフォテインメントシステムも自社開発となった。今では、細部のスイッチ類に関係性をうかがわせるディテールが残るだけだ。

エンジンだけでなくハンドリングも対照的

それにしても、あらためて感心するのは、1基ずつハンドビルドされるAMG謹製V8ツインターボのスムーズさだ。DB12とGTのどちらも、リミットの7000rpmまで、まったくよどみなく回りきる。

ただスペックからも分かるように、より高回転まで最大トルクを維持するチューニングのDB12の方が最高出力も高い。DB12のパワーフィールは全域で滑らかながらも、3000rpmくらいがぐっと盛り上がり、5000rpm付近でさらに伸びが加わる。逆にGTは今後の発展の余地を残すため(実際、最近追加された「プロ」ではトルクと出力が上乗せされた)か、どことなく寸止め感が漂う。ただ、その分、全域フラットトルクで非常に扱いやすい。

クルマのエンジンは、よく人の心臓に例えられる。それは大切なクルマの動力源というだけでなく、キャラクターを決定づける重要な魂でもあるからだ。そんなエンジンを共有するのがこの2台。英独の名門は果たしてどのような差別化を図ってきたのか。
DB12のパワーフィールは全域で滑らか。3000rpmくらいからぐっと盛り上がり、5000rpm付近でさらに伸びが加わる。

スポーツカーエンジンでもうひとつの重要性能である“音”は対照的である。どちらもドライブモードによってキャビンに響く音質・音量は変わるが、AMGがどのモードでもいかにも中身の詰まった洗練されたサウンドなのに対して、アストンのそれはどこか荒々しく、野性的だ。

こうしたアストンの手による野性的な味わいは、DB12そのものの乗り味にもおよぶ。接着アルミニウムによるクーペボディは素晴らしく高剛性で、ソフトなGTモードでは、優秀な可変ダンパーでしなやかに上下しながら凹凸を吸収してくれるが、その乗り心地はどこか骨っぽい。

さらに走行モードを引き上げるごとにダンピングはみるみる引き締まって、最上のスポーツ+モードだと、跳ねることはしないが、背骨に正直に響く。現代の基準では“硬い”といわざるを得ないが、同時に強固な水平姿勢と俊敏性、ダイレクト感は格別である。さらに絶妙な重量配分を実現するトランスアクスルもあって、800Nmの最大トルクに対してもトラクション性能は十二分だし、回頭性もさすがというほかないが、「舐めたらケガするぞ」といいたげな、ハイパワーFRならではのヒリヒリとした緊張感は常に漂う。こうした骨っぽさや野性味は、荒れた路面と草レース文化の伝統で培われた英国ならではのスポーツカー観でもあり、それはこの3000万円級のラグジュアリークーペにも貫かれる。

クルマのエンジンは、よく人の心臓に例えられる。それは大切なクルマの動力源というだけでなく、キャラクターを決定づける重要な魂でもあるからだ。そんなエンジンを共有するのがこの2台。英独の名門は果たしてどのような差別化を図ってきたのか。
新型GTは4WDの圧倒的なトラクションにより800Nmのトルクを完全に支配下に置く。その安定感は抜群で、ドライであればどう振り回しても何か起こる気配すらない。

AMG GTは一見すると、そんなDB12より、はるかに古典的でスパルタンなイメージを想起させる。しかし、冒頭にもあったように、この新しいAMGはカフェレーサー的な仕上がりだった先代から、快適で洗練されたラグジュアリースポーツクーペへの華麗なる転身を図っている。

実際、フラットでスムーズなエンジンフィールだけでなく、ハンドリングや乗り心地でも、新型GTはDB12より明らかに柔軟である。どのモードでもDB12より快適なのは間違いなく、最もアシが引き締まるスポーツ+/レースモードですら、鋭い突き上げに見舞われることはない。それでいて、上屋は余分な動きなくフラットに安定しているのは、左右が連関することでスタビライザーの役割も果たす高度な電子制御ダンパーの優秀性に加えて、ボディ剛性や重心高設定も巧妙なのだろう。

DB12は先入観をあざ笑う確信犯

しかも、新型GTはDB12と同じ800Nmのトルクを完全に支配下に置く。少なくともドライコンディションであれば、クルマをどう振り回したところで、いかなる事件も起きない(気がする)絶大な安心感である。それを支えるのは前記の左右連関電子制御ダンパーに加えて、駆動配分を緻密にコントロールする4WD=4マティック+、そして四輪操舵……といったハイテクたちだ。

野性と洗練、豪快と緻密、緊張と安心、あるいはクラシックとモダン・・・同じ心臓を持つ英国とドイツのスーパースポーツの味わいは、そのデザインや室内調度の贅沢さから想像する世界とは、ちょっと趣きが異なる。ひとりのクルマ好きとしては、最新のハイテクが織りなすAMGのストレスフリーな走りに感心しつつも、アストンの心地よい緊張感が忘れられず、それをいつか乗りこなしたいという野心が消えることもない。

もっとも、そんなDB12もハードウェアはハイテクに彩られており、アストンの技術力やAMG GTで垣間見える4.0リッターV8ツインターボの素顔からすれば、DB12の典型的英国風味は、間違いなく意図的、確信犯である。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年1月号

SPECIFICATIONS

アストンマーティンDB12

ボディサイズ:全長4725mm 全幅1980mm 全高1295mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1685kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:500kW(680PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2750-6000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式 RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR21 後325/30ZR21
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:3.6秒
車両本体価格:2990万円

メルセデスAMG GT 63 4マティック・プラス クーペ

ボディサイズ:全長4730mm 全幅1985mm 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式 AWD
サスペンション:前5リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/30R21 後305/30R21
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2750万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

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