「メルセデスAMG CLE 53」を「BMW M4」と比較試乗

“ロクサン”が出るまで待てない!「メルセデスAMG CLE 53」と「BMW M4クーペ」を比較試乗

Cクラス・クーペとEクラス・クーペを統合して誕生したCLE。そのAMG版であるCLE 53は、従来の“ゴーサン”のイメージを覆すほどスポーツ濃度が高いとの噂。ならばアイツと比べてみようじゃないか。引き合いに出したのはスポーツクーペの代名詞、BMW M4クーペだ。
BMW M4クーペ(左)とメルセデスAMG CLE 53クーペ(右)。
Cクラス・クーペとEクラス・クーペを統合して誕生したCLE。そのAMG版である「CLE 53」は、従来の“ゴーサン”のイメージを覆すほどスポーツ濃度が高いとの噂。ならばアイツと比べてみようじゃないか。引き合いに出したのはスポーツクーペの代名詞「BMW M4クーペ」だ。

Mercedes-AMG CLE 53 4Matic+ Coupe
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BMW M4 Competition M xDrive Coupe

モーターとW加給でブーストするCLE

先代Eクラス・クーペに積まれていた「M256」の改良版となる「M256M」ユニット。電動スーパーチャージャーは最大加給圧を0.4barから1.5barにまで高めている。
先代Eクラス・クーペに積まれていた「M256」の改良版となる「M256M」ユニット。電動スーパーチャージャーは最大加給圧を0.4barから1.5barにまで高めている。

正直に言おう。この2台のパフォーマンスは完全に過剰である。かろうじて「CLE53」は一般道を気持ちよく走らせることのできる上限にとどまっているといえようか。このあたりがAMGの見切りの巧さ、独特のバランス感覚なのだろう。対して「M4コンペティション」は、完全に公道を気持ちよく走れる上限を突き抜けてしまっている。その逸脱ぶりがひりひりする刺激の源泉だったりするのだが……。

まずはCLE53から掘り下げていこう。スペックをざっとさらっておくと、エンジンは3.0リッター直6直噴で、48Vマイルドハイブリッドに電動スーパーチャージャー、さらにターボが組み合わされる。これにより449PS/560Nmのパワー&トルクを発揮する。

このパワーユニットで特徴的なのは、ターボが高回転域において最高出力の多寡を誇るだけでなく、電動スーパーチャージャーが主に低中速域で機能、極太のトルクを作り出し、全速域で圧倒的な力感を誇っているところ。トランスミッションは9速AT。4マティック+=AWDシステムは、電子制御カップリングによって前後トルク配分を50対50~0対100までシームレスに制御。ちなみに試乗車の車重は2000kgだ。

ドライブモードは「スノー」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「レース」「インディビデュアル」が用意される。さらにそれぞれある程度の範囲内において、シフトプログラム、エンジン特性、サスペンション特性、ステアリングの重さなどを微調整できるようになっている。

ユニークなのはサスペンションのセッティングだ。実際の数値は判らないが、スノー、コンフォート、スポーツでは、バランスとして縮み側の方が伸び側より減衰力が高く感じられるのだ。一般的なダンパーのセッティングとは逆である。だから雑にステアリングを切り込むと、ダンパーが抜けたようなヒョコヒョコした上下動が出る。また縮み側の減衰力が高いと乗り心地が悪くなりそうに思えるが、伸び側の減衰力が抜いてあるので実際には悪くない。

サイズは先代Eクラス・クーペ級だが、オーバーフェンダーを伴うワイドトレッド、センターピラーがもたらす剛性感、さらにリヤアクスルステアリングによる高い旋回性能により、約2tの車重を感じさないシュアなハンドリングを誇る。
サイズは先代Eクラス・クーペ級だが、オーバーフェンダーを伴うワイドトレッド、センターピラーがもたらす剛性感、さらにリヤアクスルステアリングによる高い旋回性能により、約2tの車重を感じさないシュアなハンドリングを誇る。

このセッティングのメリットはライントレース性の良さにある。日本では非現実的だが、150km/hや200km/hで走ったとき、ダンパーの沈み込む動きが少ないのでハンドル操作に正確に応答してくれるのだ。一方、激しいハンドル操作が想定されるスポーツドライビングでは、このセッティングはクルマの動きを不安定にさせる。そこでスポーツ+やレースモードでは、伸び側の減衰力がぐっと高くなりクルマの上下動を抑え込む味付けに変わる。

このセッティングは基本的にダンパーを効かせてクルマの動きを抑え込む味付けなので、うねりのきついワインディングを高速で飛ばしても案外すんなりと受け止めてくれる。前後トルク配分は0対100にもなると謳っているが、実際には常に30~40%くらいは前輪に駆動がかかっている(ような感触)。そのためいつも4輪にしっかり駆動感があり、安心してアクセルを深く踏みつけることができる。そのときの落ち着きのある身のこなし、懐の深さこそがAMG CLE53の身上だ。

4WDにもFRにも変幻自在なM4

おなじみMハイパフォーマンスモデル専用となる「S58B30A」ユニット。マイナーチェンジにあたり最高出力が20PS高められ、530PS/650Nmを標榜するに至っている。
おなじみMハイパフォーマンスモデル専用となる「S58B30A」ユニット。マイナーチェンジにあたり最高出力が20PS高められ、530PS/650Nmを標榜するに至っている。

一方、M4コンペティションは3.0リッター直6ツインターボで、530PS/650Nmを発揮。トランスミッションは8速AT、車重は1790kg。

駆動方式はM xドライブ≒AWDで、センターデフには電子制御の油圧多板クラッチを使う。また「ロード」「スポーツ」「トラック」の走行モードとは別に、こちらもエンジンやシャシーなど、パワートレインやドライブトレインのセッティングを個別に調整することが可能。このうちM xドライブには、「4WD」「4WDスポーツ」「2WD」という3つのモードが用意されている。

実際に走らせてみても4WDと4WDスポーツの間には違いが感じられる。4WDだと基本的な前後駆動力配分は40対60くらい。これが4WDスポーツだと20対80くらいに変わる。フロントタイヤの駆動感に差があり、それがターンイン時のノーズの動きにも表れている。感覚としてはどっしりした4WD、ノーズの動きが軽い4WDスポーツという感じ。そして2WDにすると完全にフロントの駆動感がなくなり、すっきりした手応えの、古き良きFR BMWのテイストが楽しめる。

直6ツインターボのいかにも精度の高い滑らかで鋭い吹き上がりもM4の魅力のひとつである。さすがにこれだけの強大なパワーとトルクがあると制御するのにかなり集中力が必要だが、それさえも嬉しくなる。

長らく後輪駆動にこだわってきたM4も今回のマイナーチェンジで全車AWDに(ただし2WDモードもあり)。ステアリングの操舵感が軽めでギヤ比がクイックなこともあり、ハンドリングはCLE 53に比較すると軽快感が顕著。
長らく後輪駆動にこだわってきたM4も今回のマイナーチェンジで全車AWDに(ただし2WDモードもあり)。ステアリングの操舵感が軽めでギヤ比がクイックなこともあり、ハンドリングはCLE 53に比較すると軽快感が顕著。

ただ、サスペンションはバネを硬くしすぎと感じる。「コンペティション」というスパルタンなグレードの免罪符はあるが、うねりのきつい高速ワインディングでは硬いバネの反発力が逆に邪魔になり、路面のうねりに乗るとクルマが暴れてしまう。外乱による姿勢変化を抑えきれないのだ。ただ、フラットな路面でパワー(トラクション)によってサスペンションを縮めたり、タイヤのグリップでロールを受け止めたりといった場面では、さすがBMWといいたくなるほどの精度の高い素晴らしいハンドリングを披露する。そして一旦山を下りて下界に戻ると、シビアな貌はスッと消え、M4はジェントルなスポーツカーの顔に戻る。

一線を越えるか、越えないか

冒頭で「M4は公道を気持ちよく走れる上限を突き抜けてしまっている」と書いたが、それはこのサスセッティングによるところが大きい。もちろんM4は本格的なサーキット走行を前提にしたモデルなので、これは当然の結果ともいえる。走るステージがワインディング中心ならばM440iという選択肢もある。

といった具合に、CLE53とM4のキャラクターは異なっている。一見ハイパフォーマンスクーペという同じカテゴリーに属しているように見えるのだが、実は一般道の上限に巧みに留まっているCLE53と、サーキット走行を大きく視野に入れたM4という違いがある。

いずれも刺激的で間違いなく濃密なFUNの要素を持っているが、何を楽しむか、どこで楽しむのかを勘案して選ばないと、期待ほどには……ということになりかねない。逆にいえば、そのくらいキワキワを攻めた2台であるということだ。

REPORT/斎藤 聡(Satoshi SAITO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年1月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG CLE 53 4マティック+ クーペ

ボディサイズ:全長4855mm 全幅1935mm 全高1435mm
ホイールベース:2875mm
車両重量:1970kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCスーパーチャージャー+ターボ
総排気量:2996cc
最高出力:330kW(449PS)/5800-6100rpm
最大トルク:560Nm(57.1kgm)/2200-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R19 後295/35R19
最高速度:270km/h
0-100km/h加速:4.2秒
車両本体価格:1290万円

BMW M4コンペティション M xドライブ・クーペ

ボディサイズ:全長4805mm 全幅1885mm 全高1400mm
ホイールベース:2885mm
車両重量:1790kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:390kW(530PS)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5730rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:3.5秒
車両本体価格:1458万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

迫力のブリスターフェンダーを纏うメルセデスAMG CLE 53 クーペ。

「メルセデスAMG CLE 53 クーペ」に試乗して分かった「いままでのゴーサンじゃない!」

EクラスとCクラスのクーペを統合する形で登場したのがCLE。ちなみに先代のAMG版はEクラスクーペが「53」のみ、Cクラスクーペには「63」と「43」があった。そしてCLEのAMG版はいまのところ「53」しかない。果たして今後「63」が登場するのか今のところは不明だが、まずはこの「53」のポテンシャルを確かめてみるとしよう。(GENROQ 2024年11月号より転載・再構成)

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著者プロフィール

斎藤 聡 近影

斎藤 聡

自動車雑誌編集部員を経てフリーに自動車ライターに。守備範囲は新車、チューニングカー、タイヤの試乗イ…