目次
Aston Martin Vantage
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Porsche 911Carrera Cabriolet
モータースポーツとの距離を常に密接に保つ2台

優位や優勢という意をもつ「ヴァンテージ」。その形容をアストンマーティンが初めて用いたのは、ベントレー設計、ラゴンダ製造となる伝統の直6、LB6系がDB2マーク1に搭載された翌年の1951年のことだった。これに圧縮比や吸排気系にチューニングを加え、高出力化した仕様に用いられたのがヴァンテージだったわけだ。
その後、DB5やDB6、V8シリーズなどでも高性能グレードに用いられたヴァンテージは2005年、カタロググレードへと昇格。以降は最もコンパクトかつスポーティなアストンマーティンとして、モータースポーツの現場でもその名が知られることとなる。小さい=エントリーグレードとみられがちだが、アストンはかつてなく積極的にレースとの関わりを持つことで、ヴァンテージを独自のポジションへと育て上げたわけだ。そのブランディングは当然ながら、F1にも繋がっている。
そういう立ち位置を認識するにつけ、その姿が重なってみえるのはやはり「ポルシェ 911」だ。こちらもその誕生から常にモータースポーツとの距離を密接に保ちつつ、水冷世代からはライトユーザーにもアプローチを広げてきた。設計思想であったサイズや実用性といった項目がそことうまく噛み合ったことで、販売台数が大きく伸長、今に至っている。
ともあれスポーツカーカテゴリーでは理想的なビジネスモデルを築いてきたわけで、911をベンチマークとするモデルは多い。そういう仮定のもとに新しいヴァンテージをみてみると、同じ方向性と異なる方向性とが際立ってみえてくる。
911ターボSを僅かに上回る最高出力





同じ方向性として挙げられるのがスタティッククオリティの大幅な刷新だ。ダッシュパネルやドアトリムなどの作り込みやステッチワークは繊細になり、センターコンソールに敢えて残された物理スイッチ類の質感や操作感もきめ細かな仕上げに改められた。OTAにも対応するインフォテインメントシステムも採用され、スマートフォンとの連携もより緻密なものとなっている。それらのおかげもあってだろうか、座ってみて感じる基本的なクオリティ感という点においては、DB12と比べても遜色はないように思えた。
スタイリング面ではグリル形状やヘッドライトなどがDB12にも準じた最新のデザイン言語で纏められる一方で、リヤ周りでは特徴的なテールランプ意匠が継承されている。前後のバンパー類も新しい意匠となるが、エアフローやサーマルマネジメントにまつわる最新のアイデアを織り込んだものとなっている。
形状的にも冷却系に気が配られたことが伝わってくる、その理由は、新型が劇的なパワーアップを果たしたからだ。搭載される4.0リッターV8ツインターボは前型と同じ、メルセデスAMGから供給されるM177系だが、タービンの大径化や圧縮比変更、カムプロファイルの刷新など様々に手が加えられ、前型より実にパワーで155PS、トルクで115Nm増強された。665PS/800NmというアウトプットはDB12に限りなく近く、911になぞらえればターボSを僅かに上回る。それをコンパクトなボディに押し込みFRでドライブするわけだから、そのスリルは相当なものだろう。
想像以上に踏ん張ってくれるリヤタイヤ

転がり出しから感じるのは、塊感の高まったシャシーに合わせるかのように締められた足まわりのアタック感だ。これほどのパワーを受け止めるのだから、バネやスタビなどの金物がはっきりと硬くなるのは致し方ない。が、車台やバネ下を支持するアーム類がその硬さにまったく負けていないがゆえ、動きに減衰もすっきり追従しており、フィードバックは硬さの中に丸さがある。操舵感も正確かつクリーンで、前型初期にあったバタつきによる濁りなどは感じられなかった。ブレーキの操作性にも癖はなく踏力や踏量に応じてリニアに作動する。この辺りの洗練ぶりも前型とは趣を異にする。
踏み込んだ際の速さは強烈だ。0-100km/h加速のタイム差は僅か0.2秒だが、印象的には前型の火力をふた回りは上回っている。が、意外なのはリヤタイヤが想像以上に踏ん張ってくれるということだ。前型同様、トランスアクスルによる荷重適正化に加えて、新型ではサスの追従性の向上をここでも感じ取れる。
思うにヴァンテージは新型において、911のようなオールラウンダー的な進化とは一線を画し、ピュアスポーツとしての側面を明確に打ち出してきたように思う。911と道を分かつことが出来るのは、DB12がGTとしての適性を大いに高めたことにも起因しているのだろう。つまりヴァンテージはピュアスポーツとして先鋭化された存在を指向していると。我々もこのクルマについては認識を改めた方が良さそうだ。
REPORT/渡辺敏史(Toshifumi WATANABE)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
SPECIFICATIONS
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディサイズ:全長4495 全幅1980 全高1275mm
ホイールベース:2705mm
乾燥重量:1745kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:4.0L
最高出力:470kW(665PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前275/35ZR21 後325/30ZR21
0-100km/h加速:3.5秒
最高速度:325km/h
車両本体価格:2690万円
ポルシェ911カレラ・カブリオレ
ボディサイズ:全長4542 全幅1852 全高1299mm
ホイールベース:2450mm
乾燥重量:1675kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
排気量:2981cc
最高出力:290kW(394PS)/7500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2500-4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR21
0-100km/h加速:─
最高速度:─
車両本体価格:1654万円
【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/