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Bentley Flying Spur Speed
イメージチェンジ!?
試乗会場に集った新型フライングスパーの、なんとカラフルなこと! レッド、オレンジ、トルマリングリーン、さらにグリルからボンネット、ルーフにかけてをブラックアウトしたツートーンまで。これが新型のキャラクターを端的に示しているのではないか。つまり、ミュルザンヌの後を受けたベントレーのフラッグシップサルーンとしての役割、ショーファードリブンやフォーマルさとの決別。試乗前はそんなふうに考えていたのだが、果たして?
第4世代となる新型フライングスパーがデビューしたのは2024年9月のこと。フライングスパーといえば2ドアクーペのコンチネンタルGTと基本コンポーネンツを共有する4ドアサルーンで、2004年に初代が登場。先代となる第3世代は2019年にデビューしている。
その新型だが、一見したところ内外装のデザインはあまり変わっていない。エクステリアでは、グリルやバンパー、ディフューザーなどが新デザインになった程度。インテリアもシートパターンに新しいダイヤモンドステッチが採用されたくらいだ。だが、このクラスを購入する超富裕層は大胆なイメージチェンジを好まない。だからロールス・ロイスもそうだけれど、いかに“変えずに変えるか”が重要なわけで、その意味では今回のモデルチェンジもベントレーのセオリー通りといえるだろう。
パワートレインと電気アーキテクチャーを一新
その証拠に、中身は“換骨奪胎”といえるほどに刷新されている。最大のトピックはパワートレインがついにプラグインハイブリッド(PHV)化されたことだ。4.0リッターV8ツインターボエンジン(600PS/800Nm)に強力なモーター(190PS/450Nm)を組み合わせ、システム総合では782PS/1000Nmと、ほとんどスーパーカーレベルの超高性能を手に入れている。ちなみに先代フライングスパー・スピードは、6.0リッターW12ツインターボで659PS/900Nmだった。新型はこれを123PS/100Nmも上回るわけで、ゆえにスポーツグレードである「スピード」の名が当初から与えられているというわけだ。
今回あてがわれた試乗車は「ネプチューン」というカラーの鮮やかなブルーのクルマだった。冒頭で述べたように、これでも一連の中ではいちばんシックな個体である。インテリアはブラックを基本に、コントラストカラーとして淡いブルーのストライプが各所に入っている。
重厚なドアを開けてドライバーズシートに乗り込む。続いてセンターコンソールのスターターボタンをプッシュ。これまでの「スピード」ならば、ここで甲高いセルの音に続き「ヴォン!」とひと吠えするのだが、新型はメーターパネルのグラフィックでその目覚めを認識するのみ。バッテリーに残量さえあればエンジンがかかることはなく、発進はモーターのみで行われるからだ。
EVモードで極上のショーファーカーに
まずはデフォルトのベントレーモード「B」で走り出してみる。この贅を尽くしたクラシカルなインテリアに包まれて、無音のままスルスルと未来的に滑ってゆく様はギャップが大きすぎて新鮮そのものだ。クルマは試乗会場となったホテルのエントランスから一般道へ。しばらく走ると、乗り味が以前より重厚になっていることに気づく。これは車重の影響が大きそうだ。新型の2646kgは先代より209kgも重いのである。これは新たに重いバッテリーやモーターを積むから仕方ないのだが、重さが乗り心地に有効なのはご存じの通り。つまりハイブリッド化で燃費を改善しつつ、さらなる高級感をプラスしてきたというわけだ。
さらにいうなら乗り心地にも磨きがかかっている。これは刷新されたエアサスペンションの効果だろう。新設計のデュアルバルブダンパーを採用し、伸び側と縮み側を個別に制御できるようになったのだ。
そしてクルマはいよいよ高速道路へ。ここでそれなりに強くアクセルを踏み込んでみる。制限速度の70マイル(約113km/h)まで一気に加速してみたのだが、それでもまだエンジンはかからない。後で調べたところ、アクセル開度75%、最高140km/hまでなら基本モーターでやってしまうとのこと。そしてこの速域に到達してもなお、風切り音やロードノイズはほぼ聞こえない。当然エンジン音は皆無だ。
新型フライングスパーの最長EV走行距離は76kmとされているが、ここまでの範囲をモーターが担うのなら、普段はほぼEVとして振る舞うことになるはず。ウチに帰ってプラグインすれば給油要らず。さらにキャビンはどこまでも静寂。ベントレーは2035年に完全電動化することを公言しているが、そんな未来を先取りしているような感覚がある。
その気になればスポーツセダンに変身
そしてクルマはセドナ近郊のワインディングへ。ここで走行モードを「スポーツ」にすると、瞬時に4.0リッターV8が目を覚ます。そのひと吠えが嬉々として聞こえるのは本当の話だ。だからこちらもちゃんと鞭で応えてやらないと失礼だろう。
そのフル加速ときたらもう、血の気が引くとかいうレベルじゃない。0-100km/h加速は3.5秒と、先代から0.5秒短縮。これは少し前のスーパーカー並みといえるが、それらと決定的に異なるのは、乗員はあくまでガッシリ強固で遮音の効いた、どこまでも平和なキャビンで体感できるところ。粒のそろったV8のビートを遠くに耳にしながら、車窓の風景が後方へ吹っ飛んでゆく。この紳士的なのにアクセルひと踏みで牙を剥く、というキャラクターはベントレーならではのものだ。
コーナリングも2.6tの巨体をまったく感じさせない俊敏さ。後輪操舵システムのおかげで旋回は非常にクイックかつコンパクト、さらにアクティブアンチロールバーを48Vで高速制御するから、タイトコーナーでどんなに大荷重を与えようともロールは最小限。ほぼフラットな姿勢のまま突破してしまうのだ。
だが、いちばん効いているのは前後重量配分の改善かもしれない。重いバッテリーをリヤに積んだことで、先代の55対45から48対52へと、劇的にリヤ寄りに変化しているのだ。だから以前は巨体をメカで強引に曲げているような感覚があったけれど、新型にはそれがない。あくまでも自然に、素性のいいスポーツサルーンを操っていることを実感できる。これならもう、ステアリングを運転手だけに握らせておくのはもったいないというものだ。
冒頭で「新型フライングスパーはショーファードリブンやフォーマルさを捨てたのではないか?」と書いたけれどそれは誤りで、ゼロエミッションドライブでフォーマルさを極め、爆速ハイブリッドでスポーツ性をさらに高めてきたといえそうだ。ドライバーの気分と操作次第で、そのどちらもが手に入るのである。
REPORT/市原直英(Naohide ICHIHARA)
PHOTO/Bentley Motors Limited
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
SPECIFICATIONS
ベントレー・フライングスパー・スピード
ボディサイズ:全長5316mm 全幅1988mm 全高1474mm
ホイールベース:3194mm
車両重量:2646kg
エンジン:V型8気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:441kW(600PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-4500rpm
モーター最高出力:140kW(190PS)
モーター最大トルク:450Nm(45.9kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.5秒
車両本体価格:3379万2000円
【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/