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未来感に焚きつけられた青田買いが一巡
年末に日産とホンダ、三菱自動車が統合協議という報が入って、実質的に日産の救済なんじゃないかと騒がれています。でも前年や前々年はどこの国産車メーカーも空前の好決算に沸いていた訳で。誰もがそんなにアリとキリギリスでいう後者側でもないので、コロナ期に需要を先食いしちゃって2024年に落ち込みが来るであろうことは、報道は短期目先で焚きつけ気味に報じるとはいえ、誰もがそれなりに戦々恐々としていたでしょう。裏を返せば2020年代半ば以降はどうしていくか、短中期的戦略を練っていたら長期的にもくっついた方が良さげ、そういう転がり方をしたと推測しています。
個人的には、コロナ期前後から自動運転が夢の技術になって、ありもしない未来感に焚きつけられて青田買いしてくれる需要が一巡したと見ています。所詮はレベル2だったのに、そもそも自動運転がいつか実現されなくちゃならないという空気が、作る側にも買う側にもルールやプロトコルを策定する側にも、作業的にもコスト的にも重しになっているような。
ちなみに現状、平日か週末かにかかわらず高速道路などサグの手前でいちいち前が詰まったりするのは、私見ですが多分にACC渋滞じゃないかと疑っています。それが元で、煽りだのマナーだの左追い抜きだのが激化している最中に、自動運転の開発が進むなんて混迷を極める一方ですね。
日本の路上風景はディストピア
故ジャン=リュック・ゴダールの『ウイークエンド(Week-end)』という不条理コメディみたいな1967年公開の映画があるんですが、週末にプチ・ブルジョワの夫婦がパリ近郊の両親の実家へ車で出かけたら巨大な渋滞に巻き込まれ、カラフルな他車が死屍累々と路傍に横たわる集団ヒステリーの中でロクでもないことが起きていくという。
そもそも彼らの目的も、週末の気晴らしドライブついでに、遺産相続を早めるため少しずつ毒を飲ませること。今の日本の路上風景は、このディストピアが他人事に思えないレベルに突入していますよね。車が高くなったと文句をいいながら、他人が邪魔だと思いながら、本当に価値があるのか分からないもののために投資せざるを得ない、いわゆる誰得?の話です。
やっぱり当面しばらくは無理そうです、責任とれませんしね、と、どこかのOEMがてへペロ調で開き直ってくれればいいのに、と思います。いくら作り手が最悪を想定しても、AIに最善の判断をさせようとも、悪意ある他人はそれを超えようとして来ます。悪意はなくても、甘えか不注意で、前方すら見ていない歩行者や自転車、あるいはバイクやクルマすら、パブリック・スペースのそこかしこにいます。
それでも「ここではないどこか」に行くのは肝要で、それをするためにクルマにも乗るわけで、せめて運転に集中するのはミニマムです。そもそもハンズオフやアイズオフが実現しても、どうせ車内でスマートフォンや画面を覗く以外にやることがあるかどうか? それがいくら生産的だとしても、非生産的で素敵な一瞬はすぐに過ぎていきます。
デジタル過ぎる造りの新車には飽き飽き
誰得?の方向性に傾きがちな背景には、中国のBEV攻勢やSDV開発の熾烈化がありますが、ユーザーは正直、デジタル過ぎる造りの新車には飽きていると思うんですよね。プチでも必ずヒットする、あるいは評判のいいクルマって、デジタル/アナログの配分が絶妙だったりします。例えば、ADASを載せた「マツダ ロードスター」とか、ラダーフレームなのに4輪独立モーターの「メルセデス・ベンツ G580 with EQテクノロジー」といった辺りです。スマホっぽく指先ちょいちょいで、イージーにあれができる・これもできる・はたまた自動でできるどころかやってくれるとか。
思考力も分別もある大人なら、そんな点線でなぞるだけみたいな浅いエクスペリエンスにいちいち喜ばないですし。「大人の~」という枕詞が付くと、むしろ子どもが背伸びして体験すべきものに仕上がっているものです。道具として使いたいのに勝手な「いないいないばぁ」式のサプライズが同梱されていたり、エンタメと称されるものはお遊戯か学芸会レベルだったり。ガチャガチャしていることにそもそも疲れるので、インフォテイメントでアプリや機能が充実しているよりは、レスオプション可能で不要なアプリなり機能なり、ひとつ弾く毎にオプション価格が少し下がるとか、その方がユーザーには重宝するでしょう。ようはパソコンOSが何でもバンドルで、アンインストールするのが面倒だった2000年代前半のレベルにすら達していない訳です。
BEV入門者がPHEVへの逆コース現象も
だから市場での電動車の浸透とミックスは、なまじデジタルとの距離感が根強い限り、2025年もジリジリとしか進まない気がします。日本でBEVの販売台数はシェア1.5%、PHEVと合わせても3%と言われますが、新車の100台のうち1〜2台だけですから。乗り換える時も再びBEVを選ぶリピーター&固定層はいるでしょうが、小さくてムダがないものを選ぶ方向に行く気がします。実際、BEVでは軽の方が優勢なぐらいですし、V2Hの可否が条件になるとアジアンBEVが強いですけど、いまだごくごく少数派でしょう。
それより当面は、BEVも売れ始めた頃のが1回目車検を迎え始めて、中古市場がなかなか形成されない=下取りが痛いことが嫌気され、PHEVとか内燃機関側に出戻る人がむしろ増えてくるんじゃないかと。バッテリー・ヘルスを評価する機器を開発しているサプライヤもいるんですけどね。反対にPHEVだった人は、エンジンを使う局面が少なくてBEVでも足りることに気づいて、そちらに乗り替えたり。そういうBEV入門者とPHEVへの逆コース現象も続々と始まっていくでしょう。
つまりユーザーが電動化の割合を乗り方・使い方に応じて自分で決定し、結果的に選ぶものが小さくなっていくリサイズが進むのではないかと。実際には新車登録の半分以上が軽自動車の中で、BEVも軽がかなりを占めますけど。あくまでそれはごく少数ユーザーで、実際には国産メーカーもインポーターも残り97%のマーケットを意識する、そういうまともな状態に徐々に戻っていくでしょう。ていうか、そうあって欲しいです。