「メルセデス・ベンツ EQE」で5日間約2000kmグランドツーリング(後編)

「メルセデス・ベンツ EQE」で5日間約2000kmを走ってわかった「EV長距離移動の大変さとコツ」(後編)

近くの日産ディーラーで充電。先客がいたので、10分ほど待つことになりました。
近くの日産ディーラーで充電。先客がいたので、10分ほど待つことになりました。
BEV(バッテリーEV)の弱点にひとつとされている長距離の移動。でも実際どれくらい不便なのかはやってみないとわからない。というわけで東京から九州まで自走、約2000kmを一気に走ってみました!(後編)

アウディのディーラーでは充電できず

アウディのディーラーにある150kW急速充電器を使おうと思ったら、「充電を開始する権限は与えられていません」というメッセージが。
アウディのディーラーにある150kW急速充電器を使おうと思ったら、「充電を開始する権限は与えられていません」というメッセージが。

一晩走って3回の充電をして、ようやくBEVでの長距離ドライブのコツがわかってきました。バッテリー容量が50%くらいになったら90kW(以上)の充電器で30分充電して約80%まで回復させ、200kmくらい走ると容量が50%くらいまで減るのでまた充電(以下繰り返し)、というのが効率的なパターンのようです。バッテリー容量が常に50%以上を保てば心理的にも安心ですし、それ以上バッテリーを消費すると30分の充電では80%まで回復できません。それに200kmくらい走って休憩すれば疲れもたまりませんからね。

充電後、吉備SAをスタート。完徹での走行ですが不思議と眠くもならず、しまなみ海道の絶景を楽しみながら四国へと入りました。下調べの通り、憧れの(?)150kW充電器があるアウディ松山インターに到着しました。綺麗で大きなディーラーです。アウディのディーラーにメルセデスで入るのはちょっと気が引けますが、乗り入れてケーブルを接続します。そして充電器にカードをかざすと……あれ?「充電を開始する権限は与えられていません」と表示されます。なんで?メルセデスだから? 再びチャレンジしてみても、やはり「充電を開始する権限は与えられていません」と表示されるのみ。

時間は10時を過ぎていたので、ショールームに入って聞いてみると、アウディ以外は充電できない、とのこと。アウディグループ独自の急速充電器は、やはりアウディグループのBEVオーナーだけが利用できるサービス(プレミアム チャージング アライアンス)だったんですね。うーん、ビジネスだからしょうがないですが、もうちょっと融通が効かないでしょうか。ガソリンスタンドはクルマを選ばないですから。

さて、ここで充電できないとなるとどうしようか。バッテリー残は51%なのでこのままでも四国までは行けそうですが、松山から八幡浜港までも割と距離があるので、とりあえずGo Go EVで急速充電器を検索しました。するとすぐ近くの日産ディーラーに90kWがありました! 早速行ってみると、なんとリーフが充電中。この旅で初めての先客です。クルマの横にオーナーさんがいたので聞いてみると、あと10分ほどで終わるとのことなので、待つことにしました。これが充電を始めたばかりだと30分待たないといけないですから、まだラッキーだったと考えていいのでしょうか。

リーフの充電終了後、ケーブルを接続して充電開始。この日はディーラーがお休みだったので(そうでなくてもメルセデスで乗り付けて日産ディーラーに入るのは申し訳ないですが)時間を潰すところがなく、クルマの中で30分待ちました。これまでは高速のSAだったので気が付かなかったですが、やはり30分待つというのは退屈です。30分充電したら70%まで回復しました。時間は11時30分。早速スタートし、お昼過ぎには八幡浜港に到着しました。13時出港の別府へのフェリーに間に合ってひと安心。これを逃すと次の便は17時25分ですからね。

都市部以外で90kW以上の急速充電器はほぼゼロ

八幡浜港から別府までは約3時間の船旅。昨晩東京を出てから4回の充電以外はずっと走ってきたので、さすがにちょっと眠くなりました。別府に上陸後はようやくホテルへ……ではありません。今夜のホテルには充電設備がないので、明日の走行に備えてもう一度充電しておかなくては。早速90kWを備えている別府の日産ディーラーに行って充電です。それにしても日産ディーラーは90kW急速充電器の装備率が非常に高いですね。さすが10年以上も前にリーフを発売しただけのことはあります。今度は先客がいなかったのですぐに充電器をつないで、近くのモスバーガーでひと休み。30分の充電で59%から90%まで充電できました。これなら明日の走行も安心です。

翌日は別府の市内を観光した後、湯布院方面へ進んでやまなみハイウェイを走ります。くじゅう連山の絶景を楽しみながら高千穂へ到着。162kmしか走っていないのでバッテリーは62%残っています。それでも一応、明日に備えて充電したいのですが今夜のホテルに充電設備はなく、高千穂の町にも高出力の急速充電器はありません。まだ走行可能距離は397kmもあるので、明日の鹿児島への道中の途中で充電することにしました。

高千穂は内陸の方にあるので、延岡まで出て東九州自動車道を使うことにしたのですが、東九州自動車道上には90kW以上の急速充電器はないようです。ならば高速に乗る前に充電しておきたいな、ということで延岡市の日産ディーラー(90kW)で充電。充電開始時のバッテリー残は38%。この旅行での最低記録ですね。まだ走行可能距離は259kmとなっているのでかなり走れるのですが、やはり高速道路に乗るとなると不安です。

ホテルに普通充電の設備があればひと晩で100%まで充電

30分で73%まで充電し、鹿児島を目指して再スタートです。当初は桜島に入ってフェリーで鹿児島に渡ろうと考えていたのですが、やはり九州は広い! 想像よりも時間がかかってしまったので、普通に鹿児島湾の北側を通って鹿児島に入りました。鹿児島のホテルは今回の旅行で唯一、EV充電設備を備えているので安心です。もちろん普通充電ですが、ひと晩充電できるので到着時の56%が朝には100%となっていました。今回の旅で初めて見る100%の表示、ちょっと嬉しいです。自宅に普通充電設備があればこのように毎朝100%となっているわけですから、それはBEVのメリットですね。

さて、今日はいよいよ九州BEV旅行の最終日。北九州の新門司港へ向けて九州の南から北まで走破しなくてはいけません。と言っても距離は300kmちょっとですから、これまでの行程を考えれば楽勝(?)です。順調に走行して約360kmを走り、夕方には小倉に到着しました。最後の充電はメルセデスの正規ディーラー、メルセデス・ベンツ小倉北(シュテルン福岡)です。EQEで乗り入れると、すぐさまスタッフの方が笑顔で出迎えてくれます。急速充電したい旨を告げて接続を終えると、ショールームの中に案内され、コーヒーまで出して頂きました。こちらのお客でもないのに(っていうかオーナーですらない!)恐縮です。

美味しいコーヒーを頂いている間に30分の充電は完了。ここは90kWなのでバッテリーは42%から80%まで充電できました。お礼を述べてメルセデス・ベンツ小倉北を出発、新門司港を目指します。実は当初は帰りも東京まで自走しようかと思ったのですが、さすがに50歳台も後半の私には体力的にきついかなと思ってフェリーにしたのです。でも、ここまで3日間約1800kmを走破してみると、意外と楽だった、というのが正直な感想です。EQEの運転のしやすさ、優秀なACC、さらにこれだけ走ってもまったく腰の痛みを感じないシートの素晴らしさ。やはり長距離を走ることでメルセデス・ベンツの美点はより明らかになってきますね。

BEVの長距離移動はイベントとして楽しむ

新門司港から横須賀までの東京九州フェリーは23時55分発なので夕食を食べながら時間をつぶし、22時30ごろに新門司港に停泊している「はまゆう」の横にEQEを停めました。係員の指示に従って乗船し、あとは横須賀までのんびりと過ごすだけです。さすがに大型のフェリーだけあって揺れも少なく、ぐっすりと眠ることができました。

翌日、横須賀に到着したのは20時45分。ほぼ丸1日かかるのですから、やはり九州は遠いですね。そこから東京の自宅に戻ったのは21時30分ごろ。なんとか大きなトラブルもなく、EQEによる約2000kmのBEVドライブを終えることができました。

長距離走行をBEVでトライしてみた結果思うのは、やはりBEVの長距離移動は手間がかかる、ということです。道中や宿泊先の充電環境の確認、その充電時間を含めたドライブプランを考えないといけないですし、充電器に先客がいたりしたらその計画も大幅に狂います。また、すでに書きましたがBEVの大容量バッテリーに充電するには90kW以上の出力を持つ急速充電器じゃないとお話にならないのですが、これくらいの大出力急速充電器の整備は、特に地方ではまだまだ足りていないのが現状です。

今回はBEVでの長距離移動そのものをイベントのひとつと考えていたので苦にはなりませんでしたが、これが自分のクルマでの日常となると「めんどくせ〜な」と思ってしまうでしょう。とはいえ、EQEの航続距離が思ったよりも長いことは実際に走ってみて実感できたことでした。BEVは日々進化していますから、これから実用性はさらに向上していくはず。それに合わせて、高出力急速充電器のさらなる整備と、宿泊施設の充電設備がもっと普及すれば、BEVでの長距離移動のストレスは大幅に減ると思います。

現状、充電設備のインフラもクルマの販売も補助金というエサを撒いて進めている状態ですが、2024年11月の日本で販売されたBEVは5041台、全体のわずか約1.5%です。BEVが売れなければインフラが整わない、インフラが整わなければBEVが売れない……というジレンマが今の日本のBEVの状況でしょうか。それが解決する前に、輸入車メーカーが「日本はBEVが売れないからもうCHAdeMO対応はやめる!」ということにならなければいいのですが。

「メルセデス・ベンツ EQE350+」

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン…