大幅な進化を遂げた「ポルシェ911 GT3」をサーキットでテスト

衝撃の進化を遂げた新型「ポルシェ911 GT3」を欧州のサーキットで全開試乗してみた

新型に進化を果たした911GT3をGENROQでもお馴染みの2名のジャーナリストが斬る。
新型に進化を果たした911GT3をGENROQでもお馴染みの2名のジャーナリストが斬る。
待望のポルシェ911GT3が992II型へ進化を遂げた。サーキット走行に特化したGT3専用のヴァイザッハパッケージとツーリングパッケージの走りの違いはいかに? GENROQでもお馴染みの自動車ジャーナリストがサーキットでのインプレッションを展開する。(GENROQ 2025年4月号より転載・再構成)

PORSCHE 911GT3

よくぞ今回も純エンジン車として

通常モデルのGT3にはじめてヴァイザッハパッケージが設定された。サーキットを攻めたい向きはヴァイザッハパッケージがベストの選択だろう。
通常モデルのGT3にはじめてヴァイザッハパッケージが設定された。サーキットを攻めたい向きはヴァイザッハパッケージがベストの選択だろう。

新しいポルシェ911GT3、通称“タイプ992II”のスペックを見て、皆さんはどんな印象を持たれただろうか。「大して進化していないじゃないか」などと感じた人も、少なくないのではないかと思う。

実際、水平対向6気筒4.0リッター自然吸気ユニットのスペックを見ると、510PSの最高出力は従来と変わらず、450Nmの最大トルクはむしろ20‌Nm減となる。0-100km/h加速はPDK仕様で3.4秒と変わらないが、それは最終減速比が8%低くされたおかげと言っていい。

一方で、こう感じた人もいたに違いない。「よくぞ今回も純エンジン車として登場してくれた」と。結果としてほぼ変化のないエンジンスペックはまさに、厳しさを増す環境規制、騒音規制との戦いの結果である。

例えば各国の最新の排ガス規制をクリアするために、触媒コンバーターは今回4基も取り付けられている。それに対応して、エンジン内部は吸排気ともにカム作動角が増やされ、独立式のスロットルバルブは流速を拡大。冷却系も刷新されて、できる限りのパワーが引き出されている。特徴的な9000rpmからのレブリミットもこれまでと変わっていないのだ。むしろ開発陣には、拍手喝采を送るべきだろう。

もちろん、それでもトータルで見てパフォーマンスが下がることは許されない。そこで今回、クルマ全体の様々な部分に、これでもかと手が加えられている。

オーバーステア傾向を補正

まずシャシーは、タイプ992で初めてダブルウイッシュボーン式とされたフロントサスペンションのアームの取付点がずらされ、アンチダイブジオメトリーとされた。減速時にフロントが沈み込んだ時のオーバーステア傾向を補正するのが狙いだ。

他にもバンプストッパーの短縮でストロークを伸ばしたり、ホイールを軽量化したりと細かな部分まで見直しが入っている。アーム類の空力カバーなど、GT3 RS譲りのアイテムも多数投入された。

軽量化にも力が注がれている。標準仕様こそ車重は微増しているが、新たにGT3には初のヴァイザッハパッケージが、そしてGT3ツーリングパッケージにはライトウエイトパッケージが、それぞれ設定されている。CFRPパーツの多用、マグネシウムホイールの設定などにより、最軽量の仕様は従来と同等の車重に留められた。速さでは絶対に従来型を凌駕しようという強い決意が見て取れるところである。

サーキットでの試乗は標準のGT3から。ヘルメット装着時のフィット感を考慮して、ヘッドレスト部分のパッドが脱着式になった新しいバケットシートに座り、GT3だけノブのまま残されたスタートスイッチを捻る。眼前には新採用のフルデジタルメーター。伝統の5連メーターなど表示は選べるが、視認性優先の必要最低限の情報だけに留めるモードは、GT3だけに用意される。

自然吸気フラットシックスの迫力のサウンド

先導車付きとは言え、ピットロードを抜けてコースに入ると、走行はすぐに全開モードへ。様子見の余裕などなく慌ててTRACKモードに切り替えてアクセルを踏み込むと、4.0リッター自然吸気フラットシックスの迫力のサウンド、そしてバイブレーションが響いてきて、一気に気分を盛り上げてくれた。911カレラのようにエンジン音が大人しくなっているのではとも心配したが、嬉しいことに杞憂だったようだ。

回転上昇に伴ってパワーが盛り上がり、ますます勢いを増していく刺激的なフィーリングは変わらず。動力性能にも不満はない。最終減速比を下げたことで、吹け上がりはむしろ一層刺激的とも思える。

なお、最高速は318km/hから311km/hに下がっているが、富士スピードウェイの第1コーナーでも、出るのは270km/h前後のはず。困ることはないだろう。

想像以上の変化を感じたのはフットワークである。タイプ992前期型では、新採用のダブルウイッシュボーン式フロントサスペンションによって操舵応答性が大幅に向上した一方、オーバーステア傾向が強まっていたが、新型はそれが良い意味で穏やかになりコントロールしやすくなった。この違いは結構大きい。

続いてヴァイザッハパッケージを試すと、こちらは走り出した時点からひと際の軽快感を味わわせてくれた。一方で、シャープになった分シビアさが増しているのも否定できない。これは走りに自信のある人向けだと言っておく。

慢心とは無縁の1台

サーキットではシャープなハンドリングになったが、よりシビアさを増したヴァイザッハパッケージ。玄人向けのセッティングだ。
サーキットではシャープなハンドリングになったが、よりシビアさを増したヴァイザッハパッケージ。玄人向けのセッティングだ。

続いて一般道では、ツーリングパッケージを試した。MTとPDKの、いずれもライトウエイトパッケージ装着車である。

やはり痛快だったのはMTで、9000rpmまで回るエンジンをショートストロークのシフトレバーを指揮棒に両手両足を駆使して歌わせる歓びは、何者にも代え難いものがあった。今、一番人気なのも納得だ。

PDKの車両は、今回からオプションとして用意されたリヤシートが装着されていた。走らせると、最終減速比が下げられたせいか微低速域では若干ギクシャクするが、GT3なら許される範囲だろう。むしろ気になったのは、室内が明らかに静かだったこと。リヤシートが遮音材の役割を果たしているようで、これは好みの分かれるところに違いない。

厳しい時代にあっても信念を曲げることなく確実に進化を果たす一方で、ユーザーの求めに応じて、これまでにないほど豊富な選択肢を用意してきた新しい911GT3。おいそれとは手に入れられない人気車となっても、その開発陣は慢心という言葉とは無縁のようである。

PHOTO/Porsche AG

SPECIFICATIONS

ポルシェ911GT3

ボディサイズ:全長4570 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1462(MT)/1479(DCT)kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/9000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:7速DCT/6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
最高速度:311km/h
0-100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:2814万円

911GT3ウィズ・ツーリングパッケージ

ボディサイズ:全長4570 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1461(MT)/1477(DCT)kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/9000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:7速DCT/6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
最高速度:313km/h
0-100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:2814万

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

ポルシェジャパンは、2024年10月にワールドプレミアされた新型「911 GT3(写真)」と「911 GT3ツーリングパッケージ」の日本における受注を12月6日からスタートした。

大幅な軽量化と空力が進化した新型「ポルシェ 911 GT3」「911 GT3ツーリングパッケージ」の受注開始

ポルシェジャパンは、2024年10月19日にワールドプレミアされた新型「911 GT3」と「911 GT3 ツーリングパッケージ」の予約受注を、12月6日から日本全国のポルシェ正規販売店において開始した。

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著者プロフィール

島下 泰久 近影

島下 泰久

1972年神奈川県生まれ。走行性能だけでなく先進環境安全技術、ブランド論、運転など、クルマ周辺のあらゆ…