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Porsche Manthey Performance Kit
ポルシェワークスチームの「マンタイ」
992・I型の「911 GT3」をして、「まるでカレラのような扱いやすさだ」と言ったら、あなたはどう思うだろうか。しかし筆者は「マンタイパフォーマンスキット」を装着した911 GT3とノーマルの911 GT3を実際に乗り比べて、ノーマルGT3がまるで“子猫”のように思えてしまったのだ。
GENROQ読者にその説明は必要ないかもしれないが、一応マンタイの話も少ししておこう。マンタイ・レーシングGmbHは1980年代にドイツのレースシーンで活躍したドライバー、オラフ・マンタイが1996年に創設したレーシングチームだ。ニュルブルクリンクやル・マンでの実績が認められ、いまやポルシェが51%の株式を保有するほどの、不動のワークスチームとなった。
そのマンタイ・レーシングが開発を行い、市販車部門であるマンタイ・モータースによってデリバリーされるのが、今回紹介するパフォーマンスキットである。もちろんポルシェ公認のストリート・リーガルパーツとして発売され、日本ではマンタイのエンジニアから直接指導を受けたディーラーだけが販売できる。






そんなマンタイキットを装着した911GT3を走らせてまず驚くのは、その乗り心地が非常によいことだ。舞台となったポルシェ・エクスペリエンスセンター東京の路面は確かにフラットだが、走り出した瞬間から足まわりが、しっとりと路面をつかむ様子がわかる。アクセルを踏めばリニアに立ち上がる、パイロットスポーツCUP2のグリップ感。短いストロークのなかで、アンジュレーションも上手にいなされている。唯一カルーセルの連続する段差で硬さを感じたが、トータルバランスは良好。ちなみにその車高やアライメント、ダンパー減衰力、ウイングの迎え角等は、マンタイのスタッフがこのPEC東京を走り込んで決定したもので、結果ニュルとほぼ同じセッティングになったのだという。

空力特性の改善に合わせたサス設定

滑かな乗り味を作り出すサスペンションシステムはまずダンパーがとびきり豪華で、伸び・縮み側の双方でハイ/ロースピードの減衰力調整が可能な4WAYタイプが採用されている。興味深いのは組み合わされるスプリングで、フロントの10%アップに対してリヤは7%ほどレートが柔らかい。これは恐らく引き上げられた空力性能との兼ね合いから導き出された数値だと思うのだが(高速コーナーのスタビリティをハイダウンフォースやリヤステアの制御が担保する分、低速コーナーではリヤの剛性を落としてトラクションを稼ぐといった具合)、ともあれこのリヤスプリングの選択も、乗り心地の良さには一役買っていそうだ。
車高の調整はスプリングシートだけで行ういわゆる「ネジ式」だが、プリロードとケース長を別調整できる全長調整式としないのは、マンタイが公道走行時の安全を担保する強度が必要だと考えたからだろう。おそらくこのキットは、テュフの規格をクリアしているのだと思う。
唯一このサスキットに不満があるとすれば、その減衰力調整がRSのように車内から行えないことだろう。サーキットで自らGT3をジャッキアップして下に潜り込んだり、センターロックホイールを外すのは大変だ。だから真剣に走るなら、現場ではメカニックが必要になると思う。







乗り比べれば差は歴然
同じくマンタイはブレーキパッドにも公道走行を可能とする温度幅を持たせており、実際場内エリアを転がしてもギクシャク感は一切なかった。さらにブレーキラインは、ペダルレスポンスを高めるスチールレイヤー製に変更。極めつけはフロント9.5J×20、リヤ12J×21にサイズアップしながらも純正比7.3kgの軽量化を実現したBBSホイールだ。その意匠は基本的にGT3を踏襲しつつ、スポークの前面と側面が大きく肉抜きされている。かつ放熱性がフロントほど問われないリヤホイールには、カーボンエアロディスクを装着して空力性能を高めている。
空力デバイスはまずフロントバンパーに小ぶりなフラップ(カナード)が付けられ、見えるところではフロントリップが大型化された。そして下回りをのぞき込めば、一番外側にカーボン製のフィンが一本追加され、車体側面へと風を導いている。
車体後部には、翼単板を大型化したスワンネックタイプの調整式ウイング。そして床面には台座から作り直され、6本のフィンがすべてカーボン製となったディフーザーが取り付けられていた。正直言ってダウンフォースの効果は、速度域が低いPEC東京のコースだと明確には体感できない。しかしノーマルの911 GT3と乗り比べればその差は歴然で、前半の連続したS字コーナーでマンタイGT3は、狙った通りにステアリングを切り込んで行けた。対してノーマルGT3は同じ感覚でターンインすると、大きなロールを予め見込んでやる必要があった。ブレーキングの正確性、挙動の移り変わり。すべてがマンタイGT3は一枚上手で、そのコーナリングスピードを体験した後では、ノーマルのGT3がとても扱いやすいとさえ感じた。
そして一番スリリングなブラインドの最終コーナーでは、リヤの安定感に感動すら覚えた。筆者はそこまで試せなかったが、コースを熟知したインストラクターいわく、マンタイGT3はリヤのスライド量が少なく滑り方も実に穏やかなのだという。これぞダウンフォース増強の効果だ。

となると興味深いのはこのキットを付けたGT3が、どこまで「RS」に肉薄するのかだ。合計895万9500円の価格をGT3に加えれば、総計はRSを越えてしまう。残念ながらいまその判断は、つけられない。しかしただひとついえるのは、このキットを付けたGT3オーナーが、性能的にはもちろんステイタス的にも、大きな満足感を得られるということだ。さらにいえばGT3 RSにも、マンタイキットは存在する。どこまでを求めて、どこで折り合いをつけるのか。いつの時代もポルシェはそこが悩ましい。





ポルシェ・エクスペリエンスセンター(PEC)東京

今回比較試乗を行ったのは千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンスセンター東京。その全長約2.1kmのコースでは様々な最新のポルシェ車に試乗することができるが、今回の比較試乗も「911 GT3 Manthey vs. 911 GT3」として公式に提供されている。コーチによる1対1の指導を受けながら、2台合わせて90分間、みっちり試乗することが可能。料金は18万9000円(取材時)。予約や詳細については下記HPをご覧いただきたい。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2025年4月号
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
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