V8エンジンを積むSUV「Gクラス」「ディフェンダー」「エスカレード」を比較試乗

プレステージSUV決戦「メルセデス・ベンツ G 63」「ランドローバー ディフェンダー 130」「キャデラック エスカレード」を比較試乗

セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇るメルセデスAMG G 63を軸に、新たに登場したディフェンダー130のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆、キャデラック・エスカレードを比較検証してみる。
左から「メルセデスAMG G 63」「ランドロ―バー・ディフェンダー130 V8 P500」「キャデラック・エスカレード・プラチナム」。
セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇る「メルセデスAMG G 63」を軸に、新たに登場した「ディフェンダー130」のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆「キャデラック エスカレード」を比較検証してみる。(GENROQ 2025年4月号より転載・再構成)

Cadillac Escalade
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Land Rover Defender 130 V8
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Mercedes-AMG G 63

新しい酒を古い革袋に

セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇るメルセデスAMG G 63を軸に、新たに登場したディフェンダー130のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆、キャデラック・エスカレードを比較検証してみる。
試乗車は新型Gクラスの導入を記念した「メルセデスAMG G 63 ローンチエディション」。

モデルチェンジやフェイスリフトを幾度となく受けながら、その変わらぬ姿に誰もが畏敬の念を抱くメルセデスGクラス。誕生から45年を経ても、あえてドアは外ヒンジ式とし、実際は3次元曲面ガラスなのに平面ガラスと見紛うばかりの形状に仕上げているのは、多くの人々が慣れ親しんだGクラスの姿を変えないことがロングセラーを続ける最大の秘訣であることを、メルセデス自身がよく承知しているからだ。

そうした伝統の継承は外観だけに留まらない。ドアを開閉したときの「パシャッ!」という音も、グローブボックスに設けられたアシストハンドルも、すべてが45年前そのまま。センターコンソールに並んだ3つのデフロックスイッチも、Gクラスの悪路走破性を象徴するものとして欠かせないアイテムだ。

7年前のフルモデルチェンジで、さすがにフロントサスペンションは独立式に改められたものの、リヤはリジッド式のままだし、いかにも頑丈そうなデフやサスペンションアームはNATO軍にも採用された実績を物語っているかのよう。伝統のラダーフレーム方式を使い続けているのも「クロスカントリー4WDはかくあるべき」という確固たる信念のあらわれである。

G 63はフロント、センター、リヤの3ヵ所にデフロック機構を持つ。もちろんローレンジモードも搭載。「OFFROAD COCKPIT」部分を押すとモニターがオフロード用に切り変わる。
G 63はフロント、センター、リヤの3ヵ所にデフロック機構を持つ。もちろんローレンジモードも搭載。「OFFROAD COCKPIT」部分を押すとモニターがオフロード用に切り変わる。

しかし、いざステアリングを握ってみれば、Gクラスが長足の進歩を遂げてきたことに気づくはずだ。

フロントサスペンションを独立懸架としたことで、ハンドリングの正確さが飛躍的に向上するとともに乗り心地が現代的に生まれ変わったことには度肝を抜かれたが、昨年、実施されたマイナーチェンジにより、強力なスプリングとダンパーで足まわりを強引に抑え込んでいる印象がさらに薄まり、より現代的な乗り心地を得た。ハンドリングも同様で、繊細な操作にも遅れることなく反応する様子に、もはやかつての面影は残されていない。この辺は、試乗車のG63に採用されたAMGアクティブライドコントロールサスペンションの効果と推測される。

それでも、ボディが大きく跳ね上げられたときには、瞬間的に車体が後方に引っ張られたかのようなショックを味わった。リジッドアクスルの悪癖と考えるのが妥当だろう。

一方でADASやMBUXなどの進化が著しいGクラス。「新しい酒を古い革袋に入れる」ことにも、ときには深い意義があるようだ。

Gクラスとは正反対のアプローチ

セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇るメルセデスAMG G 63を軸に、新たに登場したディフェンダー130のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆、キャデラック・エスカレードを比較検証してみる。
試乗車は2025年モデルとして追加されたロングボディ「130」のV8エンジン搭載車だ。

Gクラスと同じクロスカントリー4WDの血筋を引くディフェンダーだが、その起源は1948年にデビューした初代ランドローバーにあるので、77年もの歴史を有していることになる。もっとも、2台が歩んだ進化の道筋は正反対といっていいくらい異なっている。

長い歴史の過程で細かな改良を繰り返してきたのは、こちらも同じ。1990年には初めてディフェンダーと名乗り、バリエーションを拡大したが、決定的な進化は、奇しくもGクラスと同じ2018年に起きた。ただし、ディフェンダーは外観をすっかり現代風に改めただけでなく、足まわりを一気に4輪独立式に進化させたうえで、本格的なクロスカントリー4WDでは御法度とされてきたエアサスペンションを装備。さらには、ボディもモノコック構造に改め、4WDのトルク配分機構も電子制御可変方式としたのだ。

AWDシステムはローレンジに加え、センターとリヤにデフロック機構を搭載。走行モードは「草/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」「渡河走行」など、路面状況に応じて細分化された数々のオフロードモードを持つ。
AWDシステムはローレンジに加え、センターとリヤにデフロック機構を搭載。走行モードは「草/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」「渡河走行」など、路面状況に応じて細分化された数々のオフロードモードを持つ。

この結果、ディフェンダーは最新の“オンロードSUV”となんら変わらない快適性や操縦性を獲得。Gクラスよりもはるかに軽やかに、そして滑らかに走ってくれる。

では、オフロード性能や耐久性がどうかといえば、これがまったく問題がないばかりか、驚異的なレベルにあることが、先ごろ参加したディフェンダーOCTAの国際試乗会で明らかになった。ちなみにOCTAのモノコックボディ、エアサスペンション、そして電子制御可変式4WDなどはほかのディフェンダーと共通なので、これをもってしてディフェンダーシリーズ全体のオフロード性能や耐久性が確認されたといっていいだろう。

試乗車の130 V8は、OCTAとは別物の5.0リッタースーパーチャージドエンジンを搭載。ボトムエンドから驚異的な瞬発力を発揮して、2.5tオーバーのボディを軽々と加速させていく。その走りは痛快だ。

タイヤの当たりがやや硬く感じられたのは、試乗車が履いていた22インチタイヤと関係があるはず。ただし、足まわりの動き自体は滑らかで、ボディを水平に保つ効果にも不満を抱かなかった。

もっとも、ディフェンダーの最大の魅力は間違いなくモダンなデザインにある。その伝統に最大限の敬意を払い、コンセプトを忠実に継承しながら、すべてを現代的に再解釈する手法は、メカニズムの進化と完全に軌を一にするものだ。

壮麗な佇まいに相応しいV8のビート

セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇るメルセデスAMG G 63を軸に、新たに登場したディフェンダー130のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆、キャデラック・エスカレードを比較検証してみる。
装備レベルにより上から「スポーツ」「プラチナム」「プレミアム」が用意されるエスカレード。試乗車は「プラチナム」。

ヨーロッパ生まれのクロスカントリー4WDとして長い歴史を誇るメルセデスGクラスとランドローバー・ディフェンダー。しかし、最後に紹介するキャデラック・エスカレードは、アメリカ生まれのオンロード向きSUVと、同じ“強面系”でも出自が完全に異なる。

そのことは、キャビンに乗り込んだ瞬間に気づくはず。ソフトなレザーと格調高いウッドフェイシアに覆われたインテリアは、落ち着いた雰囲気のバーを思わせる。湾曲したデジタル式メーターパネルを二重に設けるあたりは、いかにもアメリカらしいゴージャスの表現方法だ。ちなみに、3台のなかではエスカレードだけが2列目シートに左右で独立したキャプテン式を採用。3列目シートの優れた掛け心地や着座スペースからも、アメリカ的ホスピタリティの伝統が感じられる。

タイヤの当たりが柔らかい快適な乗り心地も、いかにもアメリカ人好みと思わせるもの。もっとも、かつてと違っていつまでもピッチングを繰り返したりはしないし、ステアリングを切れば切っただけしっかり曲がってくれる。ただし、そのレスポンスは穏やかで、直進付近にもあいまいな領域が残っているが、それらはリラックスしたドライビングフィールを与えるため、あえてそうセッティングにしたと捉えるべきだろう。

いかにもアメリカ的なのは6.2リッターのV8 OHVエンジンも同じ。自然吸気らしい素直なレスポンスを発揮しながら、どんな回転域でも余裕あるトルクを生み出してくれる。その扱い易さはピカ一だ。

しかし、このエスカレードでアメリカ人がもっとも愛して止まないと思われるのが、規則正しくて心地いいV8エンジンの鼓動が絶えず感じられる点にある。しかも、その主張は強すぎず、ノイズもバイブレーションもほどよいレベルに収まっている。それは壮麗なエスカレードの佇まいに相応しいものである。

AWDシステムは2WDと4WDの自動切り替え機能のほか、任意で選択することも可能。ローレンジも搭載。走行モードには「オフロード」や「トーイング」モードを用意する。
AWDシステムは2WDと4WDの自動切り替え機能のほか、任意で選択することも可能。ローレンジも搭載。走行モードには「オフロード」や「トーイング」モードを用意する。

端正なスタイリングは、ミニバンにも強面系が氾濫する日本の交通環境においても悪目立ちすることなく、むしろすっと溶け込んでいくような印象を与える。かつては、その巨大なサイズだけで強烈な威圧感が伝わってきたエスカレードだが、意外にも、3台のなかではもっとも大人しく映った。それはアメリカ社会で成功した者が手にするSUVとして、正しい姿なのかもしれない。

“強面系SUV”はいずれも個性派揃い

セダンやスポーツカーからV8エンジン搭載モデルが消えゆく中、ことSUVに限っては魅力的なモデルが百花繚乱の状態にある。今回は圧倒的な人気を誇るメルセデスAMG G 63を軸に、新たに登場したディフェンダー130のV8モデル、V8ラグジュアリーSUVの先駆、キャデラック・エスカレードを比較検証してみる。

3台の強面系SUVに試乗して改めて印象に残ったのは、各モデルを生み出したメーカーのお国柄が色濃く反映されていることだった。なかでもGクラスとディフェンダーは、伝統というものの解釈が180度異なっていて興味深い。

個人的には、テクノロジーを駆使して時代の最先端を突っ走るのがドイツで、古くからの伝統を重んじるのがイギリスという印象を抱いていたが、前述のとおり、Gクラスとディフェンダーはその正反対を目指している。この事実は、テクノロジーの重要性を知っているドイツ人だからこそ伝統的な形式にこだわり、伝統の重みを大切にするイギリス人だからこそ進化を怠らなかったとも解釈できる。そして、ひとり我が道を行くエスカレードは、巨大なアメリカ自動車市場の特殊性と懐の深さを反映していると考えることができそうだ。

いずれにせよ、フロントマスクはクルマのキャラクターを象徴するもの。その印象がとりわけ強い強面系SUVは、いずれも個性派揃いであるだけでなく、各モデルの歩みやブランドの伝統、そしてそれぞれが生まれたお国柄までをも堪能できるといって間違いないだろう。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年4月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG G 63 ローンチエディション

ボディサイズ:全長4690 全幅1985 全高1985mm
ホイールベース:2890mm
車両重量:2570kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/6000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-3500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後リジッド
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後285/45R21
最高速度:220km/h
0-100km/h加速:4.3秒
車両本体価格:3080万円

ランドローバー・ディフェンダー 130 V8 P500

ボディサイズ:全長5275 全幅1995 全高1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2630kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:4999cc
最高出力:368kW(500PS)/6000-6500rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後255/60R20
最高速度:240km/h
0-100km/h加速:5.7秒
車両本体価格:1675万円

キャデラック・エスカレード・プラチナム

ボディサイズ:全長5400 全幅2065 全高1930mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2740kg
エンジンタイプ:直列8気筒OHV
総排気量:6156cc
最高出力:306kW(416PS)/5800rpm
最大トルク:624Nm(63.6kgm)/4000rpm
トランスミッション:10速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後275/50R22
最高速度:──
0-100km/h加速:──
車両本体価格:1740万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/

GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…