新型「ポルシェ911 GT3」は“通常モデル”と“ツーリングパッケージ”どちらを選ぶべき?

新型「ポルシェ911 GT3」に試乗して“ツーリングパッケージ”か“通常モデル”で大いに悩んだ話

新型「ポルシェ911 GT3」は通常モデルと後席を用意する(オプション設定)ツーリングパッケージの2グレードを設定。GENROQでもお馴染みの自動車ジャーナリストが試乗して選ぶのはどちら?(GENROQ 2025年4月号より転載・再構成)

PORSCHE 911GT3

今でも私の心に刻まれるポルシェ談議

GT3には通常モデルのほか今回新たにリヤスポイラーレスのツーリングパッケージが設定された。オプションで後席もチョイスできる。
GT3には通常モデルのほか今回新たにリヤスポイラーレスのツーリングパッケージが設定された。オプションで後席もチョイスできる。

大先輩にして尊敬してやまない故ポール・フレール先生と何度かポルシェについて語ったことがあった。ジャーナリストにして偉大なレーシングドライバーの経歴を持つ氏とのポルシェ談議は今でも私の心に刻まれている。「君はどのモデルを持っているのか」と聞かれたので「996カレラ4です」と答えたが、どうも彼はカレラ4を好んでないようだった。先生曰く「4駆はアンダーステアが強いから」というのが理由だった。

RRの911はコーナーのターンイン時、スロットルをオフにするとタックインでリヤが流れる傾向がある。リヤのスライドを止めるにはスロットルをオンにする必要がある。前輪荷重で流れたリヤの後輪荷重を増やすことでコントロールできるのだ。このテクニックを身につけることで、911乗りとしての本懐を遂げることができる。

前置きが長くなったが、最新の「911GT3」がどのような操縦性に進化したのか、天国にいるポール・フレール先生に報告するつもりでレポートする。搭載される高回転型4.0リッター自然吸気エンジンは前期型と同じだが、2027年から施行される欧州新排ガス規制に対応するため、リヤエンドには2つのパティキュラーフィルターと4つの触媒コンバーターを搭載。その結果最大トルクは470Nmから450Nmにダウンした。一方、最高出力は510PSと変わらない。では、一体どれほど排ガスを軽減したのかというと、欧州基準ではマイナス30%(NOX+PM)、米国基準ではなんとマイナス44%(NMOG+NOX)。ポルシェは環境性能に相当力を入れているので、新型GT3はかなりクリーンなエンジンに進化したといえるだろう。GT3が従来モデルよりも遅くなることはないが、ユーザーが気にするのは、エンジンのエキゾーストサウンドだろう。

アンチダイブ・ジオメトリーを採用

GT3に新たに設定されたツーリングパッケージにはオプションでリヤシートが用意されている。
GT3に新たに設定されたツーリングパッケージにはオプションでリヤシートが用意されている。

重量はどうか。前期型の最軽量モデルは1418kgだったが、後期型ではGT3として初めてのヴァイザッハパケージを採用し、カーボン素材を多用したことで軽量化を実現。圧巻なのはオプション設定されるマグネシウムホイール。4本で11kgの軽量化が可能となった。最終的に後期型GT3の最軽量モデルは1420kgとなり、前期型とほぼ同レベルだ。

トランスミッションは7速PDKと6速MTともにギヤ比を8%ローギヤに設定。ちなみにヴァイザッハパッケージの0-100km/h加速は3.4秒(7速PDK)、ツーリングパッケージは3.9秒である。

いつものようにプロドライバーを先頭にしてコンボイ走行が始まった。前を行くのは「GT3 RS」でペースも速い。新型GT3のハンドリングはとても素晴らしい。992前期型のGT3 RSより自由自在にコントロールできる印象だ。GT3 RSはダウンフォースが強烈で、腕の骨が折れるほどの操舵力が必要だが、GT3はRSよりもマイルドになり、とにかく乗りやすい。

新型GT3はアンチダイブ・ジオメトリーを採用したことで、ターンインでもリヤが暴れない。サスペンションと空力バランスが優れている。試乗舞台となったリカルド・トルモ・サーキットは旋回しながらブレーキングするコーナーが多いが、ステアリングを切った状態からフルブレーキングでも、姿勢が乱れることはなく、ライントレースも正確だった。とにかく9000rpmまで回る自然吸気フラット6の気持ちの良さと、手のひらで感じるハンドリングの扱い易さに驚いた。インをカットしコーナーを攻める。脳内に噴出したアドレナリンでもう溺れそうだ。

空冷から水冷へ、そして電動化へ

GT3には通常モデルのほか今回新たにリヤスポイラーレスのツーリングパッケージが設定された。オプションで後席もチョイスできる。
リヤスポイラーレス&リヤシート(オプション設定)を用意するツーリングパッケージはエンスージアストにとって惹かれるグレードとなるだろう。

時間があったので、スポイラーレスとなる6速MTの「GT3ツーリングパッケージ」で公道をドライブ。ツーリングパッケージは伸縮式リヤスポイラーを採用するので、リヤのデザインはおしゃれなGT3という感じだ。シフトは小気味よく、ヒール&トゥも自在に操れる。

もし、私がGT3を買うなら、このツーリングパッケージをチョイスする。これこそが「羊の皮を被った狼」だ。992型後期のGT3は、ヴァイザッハパッケージとツーリングパケージという2つの顔を持つ。巷の噂では「最後のGT3……」と囁かれているが、もし次期型があるとしたら電動化されるかもしれない。空冷から水冷へ、そして電動化。時代とともに変わるものだ。しかし、速さとドライビングプレジャーをどこまでも探求するポルシェの思想は不易なのである。

PHOTO/Porsche AG

SPECIFICATIONS

ポルシェ911GT3

ボディサイズ:全長4570 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1462(MT)/1479(DCT)kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/9000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:7速DCT/6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
最高速度:311km/h
0-100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:2814万円

911GT3ウィズ・ツーリングパッケージ

ボディサイズ:全長4570 全幅1852 全高1279mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1461(MT)/1477(DCT)kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:375kW(510PS)/9000rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/6250rpm
トランスミッション:7速DCT/6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/35ZR20 後315/30ZR21
最高速度:313km/h
0-100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:2814万

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

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ポルシェ 911 GT3 RS専用「ミシュラン パイロット スポーツ S 5」が登場「ウエット路面や低温で性能発揮」

ポルシェとミシュランは、サーキットにおけるウェット路面や低温コンディションに特化した新型タイヤを共同開発した。新しい「ミシュラン パイロット スポーツ S 5(Michelin Pilot Sport S 5)」は、「ポルシェ 911 GT3 RS」でサーキットアタックを楽しむカスタマーに新たな選択肢を提案する。

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著者プロフィール

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、N1耐久や全日本ツ…