“E”付きでもすごい3代目?「ルノー 5 ターボ 3E」の見どころを解説

「え?最大トルク4800Nm!?」単なる懐古主義ホモロゲ電動マシンではない「ルノー 5 ターボ 3E」

「ルノー 5 ターボ 3E」
「ルノー 5 ターボ 3E」
ルノーがフル電動スポーツとして蘇らせた往年のラリーマシン「5 ターボ 3E」。言わずもがなの1980年代にWRCで活躍した「5 ターボ」「5 ターボ2」の現代版である。2027年に市販予定で、リヤのインホイールモーター2基で最高システム出力547PSを発揮するドリフトマシンに触れた南陽一浩がリポートする。

Renault 5 Turbo 3E

プロトタイプよりずっとエスカレートしたスペック

それはかなりの強弁か力業といえる1台で、走るブルータリズムにして華麗なるターボテクノロジーの精華であることを思えば、正統なのだろう。パリから西に約30分、フラン工場で見てきた「ルノー 5 ターボ 3E」の市販バージョンのことだ。昨年末、突如ティーザー画像で市販モデルが発表されたこと自体、サプライズだった。そこから1四半期をおかず、プレス関係者や世界中のディーラー関係者にお披露目となったのだ。

今回はまだローリングシャシーではなく、外装のバリデーションが済んだばかりのデザインモックだ。とはいえ2年半前のモンディアル・パリで発表されて以来のプロトタイプの粗削りな雰囲気ははそのままに、ダクトと一体成型となったフロントバンパーや、タイヤを覆うようになった前後フェンダー、今風にアレンジされたNACAダクトに、量産5E-テックと共通するリヤランプなど、明らかに市販を意識した“民生”仕様になっていた。

ところがスペックはプロトタイプの頃よりずっとエスカレートしている。2022年のプロトタイプが最高出力380hp(385PS)、最大トルク700Nmだったのに対し、この市販版は200KW×2基のインホイールモーターで540hp(547PS)、最大トルクは4800Nm(!)を謳っている。つまり車体中央軸線近くに積んだ原動機の駆動軸から採り出したトルクではなく、減速ギアや変速機を一切挟まずに後輪左右の内側で直接駆動するトルクだからこそ、この数値なのだ。

ルノーは数値的には0-100㎞/h加速で3.5秒以下、最高速度270㎞/hをブチ上げつつ、70kWhのNMCリチウムイオンバッテリーで400km以上のWLTP航続距離が可能だという。800Vシステムにして急速充電は350kW、普通充電は11kWに対応する。

パワーウェイトレシオは2.65kg/PS

もうひとつ注目すべきは、カーボンコンポジットのボディパネルだけでなく、アルミニウムのプラットフォームも専用設計であること。車重1450kgのうちバッテリーは530kgにも及ぶが、これで相当な低重心設計となる。パワーウェイトレシオは2.65kg/PSとなり、スーパーカーといえる域に達している。

インホイールモーターをリヤホイール内側に収める関係で、バッテリーよりも後方の床下にはインバーターやオンボードチャージャーを主体とする電動マネジメントモジュールしか収めていない。よって、じつは荷室が広々している。インホイールモーターゆえ、バネ下重量は小さくないはずだが、サスペンションは可変減衰力式ではなく古典的なスプリング&ダンパーを採用していた。

「それこそトレッド面と他の搭載重量物との配分を鑑みて、モーターのコイルごと最適化しています。トルクはローター径で、パワーはローターの厚みで出すところがありますが、すべて5 ターボ 3Eのために開発したものです」と、車両開発エンジニアのリーダーであるフレデリック・ローラン氏はいう。

ロードカーとしての「3」の存在理由

「ルノー 5 ターボ 3E」
「ルノー 5 ターボ 3E」

技術面における開発プロセスはアルピーヌが担当している。プレゼンのスペースに置かれたインホイールモーターの展示サンプルでは、内側に450mm径ものブレーキディスクが配されていた。回生の強さは4段階で選べ、リヤフェンダーのエアインテークから冷却エアをとり入れるという。

BEVなのに、なぜターボか?という疑問に対する回答は、このインホイールモーターによる特異なパッケージングに集約されている。トルク&パワーをただ量的に追及するのではなく、トランスミッションやリデューサーを挟まないがゆえ、遅延やロスが極めて少ない伝達効率や車両制御でもって、BEVのヴィークルダイナミクスにブーストをかけているのだ。それがラリーのホモロゲマシンでありながら、名手ジャン・ラニョッティによるハデなアクションで知られたルノー 5 ターボ1、同2の後を継ぐ、ロードカーとしての「3」の存在理由といえる。

価格は公表されていないが

インテリアは今回のデザインモックでは現物公開はされなかったが。CG画像で見る限り、ステアリングは「アルピーヌ A290」と同じ、メーターパネルからセンターディスプレイも5E-テックに準ずるが、グラフィックやテーマのスキンは専用で、3段階のドリフトアシスト機能など独自機能のスイッチも見える。

フロアから直立しているのはサイドブレーキで、引けば駆動力カットの制御は入る。リヤブレーキが450mmもの大径であることの裏づけを見た気がした。やはり単なるパワースライドでなく、荷重移動で操らせたいのだ。シートは「A110 R」でお馴染みのカーボンバケットで、グレーのチェック柄ファブリックやイエローのアクセントといったモチーフやテーマは、好みに応じてパーソナライズが可能という。

ちなみにオーダー受付は始めても、ルノーは価格を公表していない。おそらくオプションやパーソナライズ含まずで、現行アルピーヌ A110 R チュリニよりはやや高いが、A110 R ウルティムほどではない、15万ユーロ(約2400万円)前後に落ち着くのではないか。

フル電動スポーツ「ルノー 5 ターボ 3E」のエクステリア。

1980年代ラリーカーがEVで復活!「ルノー 5 ターボ 3E」はルノー史上最強547PSを発揮「限定1980台」【動画】

ルノーは、1980年代にWRCで活躍した「5 ターボ」と「5 ターボ2」を、フル電動スポーツとして蘇らせた「5 ターボ 3E」をワールドプレミアした。左右のリヤホイールに搭載されたインホイールモーターにより最高システム出力547PSを発揮。日本を含めた市場向けに1980台が限定生産され、2027年中にデリバリーが開始される予定だ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

南陽 一浩 近影

南陽 一浩

なんよう かずひろ。静岡県出身、慶應義塾大学卒。フリーランスのライターになって28年。2001年に渡仏して…