比較試乗「E 53 ステーションワゴン」対「i5 M60ツーリング」スポーツ・ステーションワゴンの王者はどちら?

電動化時代も変わらぬライバル「メルセデスAMG E 53 ステーションワゴン」と「BMW i5 M60 xツーリング」を比較試乗

ドイツを代表するメルセデス・ベンツとBMWが放つEセグメントスポーツワゴンは興味深いことにパワートレインがPHVとBEVと異なる。両車を試乗して見えてきたものとは?
ドイツを代表するメルセデス・ベンツとBMWが放つEセグメントスポーツワゴンは興味深いことにパワートレインがPHVとBEVと異なる。両車を試乗して見えてきたものとは?
欧州Eセグメントステーションワゴンの最高峰モデルとなるのが「メルセデスAMG E 53ステーションワゴン」と「BMW i5 M60ツーリング」だろう。PHVとBEVとパワートレインこそ違えど両車ともスーパースポーツ並みの走りの実力を持つ。2台のポテンシャルを比較することで、見えてきた真実とは。(GENROQ 2025年5月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG E 53 Hybrid 4Matic+ Stationwagon

×

BMW i5 M60 xDrive Touring

隙のない品質と走りのメルセデス

2024年3月に欧州デビューを果たした新型Eクラス初のメルセデスAMGモデル「E 53 ハイブリッド4マティック+ステーションワゴン」。
2024年3月に欧州デビューを果たした新型Eクラス初のメルセデスAMGモデル「E 53 ハイブリッド4マティック+ステーションワゴン」。

「メルセデス・ベンツ Eクラス」と「BMW 5シリーズ」という宿敵同士は、ここ数世代、示し合わせたかのようにほぼ同時に世代交代してきた。最新モデルについても、2023年4月にEクラスセダンが本国デビューすると、その直後の同年5月に5シリーズセダンが登場(今のBMWでは、日本は本国と同時導入される最優先市場のひとつとなっている)。すると、その翌月にはEのステーションワゴンがすかさず刷新。そんなEクラスが2024年1月にまとめて日本上陸したと思ったら、2月にはBMWが5のツーリングを投入した。

それはAMGとMも同様だ。新型Eクラス初のAMGである「E 53 ハイブリッド4マティック+」のPHV(以下、E 53)が2024年3月に欧州で姿を現したかと思えば、同年10月には「M5」が登場するのだ。

官能的なサウンドが魅力のAMG製直6ターボ

欧州系メディアでは、この新しいE 53が、先代のE 63 S 4マティック+の後継機種という論調が多い。実際、(レーススタート機能作動時の)システム最高出力612PSは、先代E 63 Sとピタリと同じ。ただし、同じくPHV=プラグインハイブリッド化した宿敵M5は727PSのシステム出力を豪語。また、CクラスやSクラスには最強の称号である「63 S」を冠したEパフォーマンスが用意されるから、Eクラスもこのままで終わらないかもしれない。

というわけで、「THE BATTLE」と題して、E 53との最新ハイパフォーマンスワゴン対決の相手には、M5ではなく通常の5ツーリングのトップモデルに位置づけられるi5 M60 xドライブ・ツーリングを選んだ。ご承知のように、i5は電気自動車(BEV)である。現在はM+2ケタ数字機種も正当なMモデルのひとつだし、601PS、795Nmという前後2モーターによるシステム最高出力と同最大トルクは、まさにE 53と拮抗しているからだ。

最新世代のMBUXは使いやすさ抜群

興味深いのは、もともとBEVとエンジンの二刀流を掲げるBMWながら、その中核機種のトップグレードがBEV(孤高のM5を別格とすれば)ということだ。逆に、つい先日まで「エンジン車をやめる」と明言していたメルセデスのEクラスの最上級に位置するのが、PHVとはいえエンジンを搭載している。

考えてみれば、それも当然だ。二刀流のBMWだからこそ、最新の5シリーズも二刀流となる。対して、完全BEV化を目指していたメルセデスは、伝統的Eクラスとは別にBEV専用開発のEQEも用意した。新型Eクラスは本来は撤退戦略を見据えた商品だから、プラットフォームも使い古された従来改良型となる。まあ、今後はメルセデスのBEV戦略も軌道修正が入るようだが……。

スポーツBEVの楽しさを追求したBMW i5 xドライブ ツーリング

5シリーズ・ツーリングのトップモデルに君臨するBEVの「i5 xドライブ ツーリング」601PS/795Nmのアウトプットを誇る。
5シリーズ・ツーリングのトップモデルに君臨するBEVの「i5 xドライブ ツーリング」601PS/795Nmのアウトプットを誇る。

ワゴン対決ということで、まずは荷室を見比べると、E 53のそれは純エンジンのEクラスより明らかにフロアが高い。バックドアを開いた敷居から5cm以上盛り上がった床下には、駆動用電池が入っているそうで、プラットフォーム設計時にPHVが想定外だったことがうかがかる。対して、床下全面に電池を敷き詰めて、リヤアクスルにも小さくないモーターを抱えるi5ツーリングの荷室は、エンジン車と基本的に変わりない。床下収納も健在。新しい5が当初から二刀流を前提に開発されたことは明白である。

こうしてワゴン機能ではプラットフォームの設計年次を感じさせるE 53だが、走りについては「古い」というより「熟成」という表現が似合う。低速ではAMGらしく引き締まったフットワークも速度が上がるほど、しなやかに変貌していく。四輪操舵もあって安定感も文句なし。

床下収納も備えるi5のラゲッジルーム

最新のE 53はBEV走行も可能なPHVだが、AMG本来の味が出るのは、エンジンとモーターがフル稼働した時だ。そんなハイブリッド走行では、C 63の4気筒でも、S 63やGT 63のV8でもない直6の魅力が輝く。直6は内燃機関最良のバランスを持つ形式のひとつで、電動システムとの相性も抜群。エンジンとモーターと混然一体となったパワーフィールは過激なモードにしても、荒々しさとは無縁である。

今回の取材中には、E 53とi5でぴたりと並走する場面も少なくなかったのだが、そこからの追い越し加速では、常にi5が一歩リードする。アクセルを深く踏み込んだ時のi5のダッシュ力は、血の気が引くほどだ。10秒間のブーストモードを作動させて、さらに勢いよく踏み込むと、呼吸が一瞬止まるほどの“加速ショック”に見舞われる。こうした現象は制御で緩和するのがBEVの定石だが、BMWはあえて残している。

M専用ディスプレイが所有欲を満たす

i5の2モーターらしい4WD制御もメカニカルなE 53よりは明らかに自在感があり、積極的に振り回すとまるでFRのように曲がる。最速の5シリーズは前記のとおりM5だが、i5のM60はM60で、スポーツBEVの刺激や楽しさの可能性を追求しているのだろう。

減衰力やロール特性の電子制御、そして後輪操舵は2台に備わるが、プラットフォーム設計年次や(リヤの)エアサスの恩恵か、乗り心地はi5に軍配が上がる。ただ、セダンと比較すると、リヤ周辺の動きやノイズなど、i5ツーリングにワゴン特有のネガが少し強めに出るのは、BEVならではのヘビーウエイトと過剰なほどの駆動トルクの影響か。その点、E 53は公道で楽しんでいる限り、セダンとほとんど変わりない。

いずれにしても最新の高性能ステーションワゴン対決でも、Eと5は走るごとに、一進一退、二転三転、甲乙つけがたいの好勝負が続く。電動化時代に入っても、Eと5はどこまでも宿敵同士のままの気がする。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年5月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG E 53ハイブリッド 4マティック+ステーションワゴン

ボディサイズ:全長4970 全幅1900 全高1490mm
ホイールベース:2960mm
車両重量:2470kg
システム最高出力:430kW(585PS)
システム最大トルク:750Nm(76.5kgm)
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2996cc
最高出力:330kW(449PS)/5800-6100rpm
最大トルク:560Nm(57.1kgm)/2200-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R20 後295/35R20
車両本体価格:1726万円

BMW i5 M60 xドライブ ツーリング

ボディサイズ:全長5060 全幅1900 全高1505mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2410kg
システム最高出力:442kW(601PS)
システム最大トルク:795Nm(81.1kgm)
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/40R20 後275/35R20
車両本体価格:1600万円

【問い合わせ】

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

Eクラスのトップモデルに君臨するメルセデスAMG E53 4マティック+のセダンとワゴンに試乗。その実力をリポートしよう。

モーターと直6のマリアージュに脱帽「メルセデスAMG E 53 ハイブリッド 4マティック+」が魅力的すぎる理由

メルセデスの中核セダン「Eクラス」にトップグレードが追加された。3.0リッター直6ターボにモーターを組み合わせることでシステムアウトプット585PS/750Nmを実現。大容量バッテリーを搭載したことで一充電走行距離、約100kmを実現しているのも魅力だ。今回はセダンとステーションワゴンを用意し「E 53 ハイブリッド」の魅力に迫ってみた。(GENROQ 2025年4月号より転載・再構成)

国内導入された新型M5を早速箱根のワインディングでテストする機会を得た。さて、その気になる走りとは?

「PHV化されてもスーパーセダン“M5”はやっぱりホンモノの“M5”だった!」「BMW M5」に試乗

歴代最強のスペック727PS/1000Nmを誇る新型M5がついに上陸を果たした。PHV化された新型M5はいかなるパフォーマンスを披露してくれるのか。慣れ親しんた箱根のワインディングでその真価を試してみた。(GENROQ 2025年2月号より転載・再構成)

キーワードで検索する

著者プロフィール

佐野弘宗 近影

佐野弘宗