【フェラーリ名鑑:23】カーボンモノコックのスペチアーレ「F50」と「エンツォ」

20世紀最後の「F50」と21世紀最初の「エンツォ」というスペチアーレ2台を解説(1995-2002)【フェラーリ名鑑:23】

【フェラーリ名鑑:23】フェラーリ製スペチアーレの系譜
フェラーリがリリースする限定生産モデル“スペチアーレ”から、創業50周年記念車の「F50」と、創業者の名からつけられた「エンツォ フェラーリ」を解説。
フェラーリは通常の市販モデルよりもハイパフォーマンスな限定生産モデル、いわゆる“スペチアーレ”を折に触れてリリースしてきた。ここでは創業50周年を記念して生産された「F50」と、創業者の名を与えられた「エンツォ フェラーリ」を取り上げる。

Ferrari F50
Enzo Ferrari

F40に続く新たなスペチアーレ「F50」

フェラーリの創業50周年を記念してリリースされたF50。総生産台数は349台とされている。

フェラーリのロードカーで、ひとつの頂点として語られる存在が、一般的には“スペチアーレ”と呼ばれることも多い、限定生産を前提としたハイパフォーマンスモデルだ。このスペチアーレのカスタマーは、購入希望者の中からフェラーリによってセレクトされることがほとんどで、価格高騰を防ぐために一定期間の転売防止を成約する書類にサインを求められるともいう。いずれにしても、このスペチアーレに自らのステータスが届くまでの時間と努力、そして資金は相当に大きなものになるというのが実際のところだ。

1995年に生産開始された「F50」は台数を最初から349台と限定していた。1987年に誕生したF40は、生産台数が明確に限られていなかったため、結果的に1300台以上のF40がマラネロの本社工場のゲートから世界に向けて出荷されてしまった。それはフェラーリにとっては必ずしも望ましいことではなかったのだ。

公道走行が可能なF1マシンとして

ミッドシップされた4.7リッターV12は最高出力520PS、最大トルク471Nmを発生。カーボンモノコックの恩恵もあり、車重はわずか1230kgに過ぎない。

このF50で開発コンセプトに掲げられたのは“オンロード F1”。すなわち公道走行が可能なF1マシン。それを操ることができるカスタマー、そして今は亡き創業者のエンツォが常に唱えていた、必要とされる数より1台少ない数がベストだという持論に基づき、F50は最終的に349台の限定車として生産されることが決定した。生産が開始されたのは1995年のことで、これは最後の1台を50周年となる1997年に出荷すると同時に、それ以前のタイミングなら厳しさを増す新たな排出ガス規制をクリアできるという理由から決定されたスケジュールだった。

F50が“オンロードF1”と例えられるのは、基本構造体のカーボンモノコックにV型12気筒エンジンがリジッドマウント、すなわち剛結されていることがその理由。同時にエンジンはサスペンションの構造部材をも兼ねていた。V12エンジンの最高出力は実に520PS。最高速度は325km/hに達した。

2002年「エンツォ フェラーリ」発表

創業者の名を与えられたエンツォ フェラーリ。F1ノーズを象った独自のアピアランスを採用している。

さらに2002年には、創業者の名前をそのまま車名とした「エンツォ フェラーリ」が誕生する。デザイン・プロトタイプ、FXのワールドプレミアを東京で行い、その後パリ・サロンで正式発表されたそれは、もちろん限定生産を前提としたスペチアーレ。

生産台数はF50と同様に349台を計画したが、それは後に399台に改められ、さらに後日、ローマ教皇、ヨハネ・パウロ2世からのオーダーに応えて1台を特別に製作。1億5000万円強の落札金の全額は災害の義捐金として寄付された。

350km/hに到達した最高速度

搭載する6.0リッターV12は最高出力660PS/最大トルク657Nmを発生し、最高速度は350km/hに至る。

日本人デザイナーの奥山清行をチーフ・スタイリストとするピニンファリーナのチームが手がけたエンツォのボディデザインは、当時最新のF1マシンを彷彿させる、実に刺激的なフィニッシュを持つものだった。シザースドアの採用や、円柱形のテールランプを半分だけ露出するデザインなどは独創的で、同時にインテリアもより快適な空間になった。

搭載エンジンは、5988ccのV型12気筒。最高出力は660PSと非常に強力で、6速のF1マチックと組み合わされる。参考までにこのパワーが負担する車重はドライウエイトで1255kg。最高速度は350km/hを実現した。

SPECIFICATIONS

フェラーリ F50

年式:1995年
エンジン:65度V型12気筒DOHC(5バルブ)
排気量:4698cc
最高出力:382kW(520hp)/8500rpm
最大トルク:471Nm/6500rpm
乾燥重量:1230kg
最高速度:325km/h

エンツォ フェラーリ 

年式:2002年
エンジン:65度V型12気筒DOHC(4バルブ)
排気量:5998cc
最高出力:485kW(660hp)/7800rpm
最大トルク:657Nm/5500rpm
乾燥重量:1255kg
最高速度:350km/h

※すべてメーカー公表値

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…