【フェラーリ名鑑:21】エンツォが手掛けた最後にして最強の「F40」

「硬派な名作フェラーリが生まれた意外な背景」288 GTOとF40の開発秘話(1984-1987)【フェラーリ名鑑:21】

【フェラーリ名鑑:21】エンツォが手掛けた最後にして最強の過激モデル「F40」
V8エンジンをツインターボで過給して高い戦闘力を誇った288 GTO。
数あるフェラーリのハイパフォーマンスモデルの中でも「スペチアーレ(=スペシャル)」と呼ばれるモデルはまさに別格。その先駆けとなったのは、V8ツインターボを搭載した「288 GTO」、そしてフェラーリ社40周年を記念して開発された伝説の過激なマシン「F40」だ。

Ferrari 288 GT
Ferrari F40

無冠のマシン「288 GTO」誕生

グループBカテゴリー参戦モデルを示す「GTオモロガート」の名称が与えられた288 GTOは、1984年のジュネーブ・ショーでデビューを飾っている。

フェラーリが308シリーズやモンディアールの進化に積極的だった頃、開発チームでは極秘にもうひとつの8気筒プロジェクトが進行していた。1981年、FIAはそれまでの競技用車両のグループ分けを一新し、グループ1〜9というクラス分けから新たにグループA〜Eというクラスを年間生産台数などをベースに設けることを決定。その新たなクラス分けに対応するモデルを開発することが開発チームに与えられた任務だった。

フェラーリは、グループBの公認を得るべく「288 GTO」を開発。1984年のジュネーブ・ショーで初披露した。GTOとはGTオモロガートの意であり、フェラーリは200台の288 GTOを生産し、グループB車両の公認を得ようと計画していた。

実はセールス部門の発案でスタート

筆者が当時のチーフ・エンジニアに聞いたところ、288 GTOはグループBのホモロゲーションモデルとしてよりも、セールス部門発案で開発された側面が強かったという。

しかし、フェラーリの思惑とは異なり、すでにこの時点でグループBで競われる選手権は、4WD車が大勢を占めるWRC(世界ラリー選手権)のみとなり、スポーツカーレースはグループCで争われることが決定していた。つまり、288 GTOは闘う舞台を失ってしまったのだ。

それから20年以上の時が流れ、筆者は当時フェラーリでチーフ・エンジニアの職にあった、ニコラ・マテラッツィ氏をインタビューする機会を何度も得ることになった。自然な流れとして、288 GTOについても話は及んだが、氏によれば「288 GTOは、最初からグループBを意識したモデルではなく、フェラーリとしては史上初めてセールス部門が発案して造られたクルマだった」と、真相を語ってくれた。

計画を超える272台を販売

308 QVのV8をベースにツインターボ化された288 GTOのパワートレイン。最高出力は400PSと発表されている。

288 GTOのエクステリアデザインは、当時の308シリーズのシルエットを受け継いでいるようにも見えるが、実際に共通するパーツは非常に少ない。かつての250 GTOではフロントにあった3本のスリットはリヤフェンダーへと移動し、放熱させる目的でデザインされた。

ミッドに縦置きされるエンジンは、308シリーズのクワトロバルボーレ用(4バルブ)をベースとしたものだが、ツインターボによる加給と、それに伴いインタークーラーを増設し、400PSの最高出力を発揮した。結果、305km/hの最高速度を誇るに至った288 GTOは、熱狂的なフェラリスタからのオーダーを多数集め、計画していた200台をはるかに超える272台を販売。これはフェラーリのセールス部門がカスタマーの趣味趣向を正しく把握していた証しだろう。

創立40周年を記念した「F40」

フェラーリ社の40周年記念モデルとして生まれたスペチアーレ「F40」。腕に覚えのあるドライバーに向けて開発された。
2.9リッターV8ツインターボの最高出力は478PSを発揮し、僅か1100kgの車体重量も相まってスパルタンなパフォーマンスを実現した。

そして、288 GTOの成功はエンツォ・フェラーリのさらなる闘志を呼ぶことになる。1987年がフェラーリ社の創立40周年にあたることから記念モデルを発売したいと考えていたエンツォは、288 GTOよりもさらにスパルタンな限定車を開発するよう、マテラッツィに指示する。

この時、二人の間で確認されたのは、それがある程度のスキルをもつカスタマーに限って販売すべきモデルであることだった。生産台数は、288 GTOの例からやはり300台ほどの限定で用意するのがベストだと、エンツォは考えていた。

その限定車こそが、1987年にフェラーリの本拠があるマラネッロで発表された「F40」だ。当時、最先端にあった軽量素材を積極的に活用し、478PSの最高出力を発揮する2936ccのV型8気筒ツインターボエンジンをミッドに搭載。トランスミッションは5速MTで、もちろん後輪を駆動する。

驚異的なのはそのウエイトで、乾燥重量わずか1100kgを実現。この車重とターボパワー、そしてパフォーマンスに対してホイールベースの短さから、F40のアクセルを踏み込むことは一瞬、躊躇させるほど刺激に満ちた仕上がりで魅了した。ちなみに288 GTOのエンジンは308クワトロバルボーレ用がベースだが、F40のそれはランチアのグループCマシン、LC2用がベースとなっている。

エンツォ時代の最終モデル

エンツォ・フェラーリが最後に手掛けたモデルとしても人気を呼び価格は高騰。バブルを象徴するスーパーカーでもある。

自らその発表会を主催したエンツォ・フェラーリは、翌1988年8月に死去。エンツォ時代の最終モデルとして話題も重なったことから、当初300台ほどの限定車にするという約束は果たされず、最終的に1992年までに生産されたF40の生産台数は1311台にまで及んだ。しかし、その過激なまでの性能により、クラッシュによって失われたF40は少なくない。

SPECIFICATIONS

フェラーリ 288 GTO

年式:1984年
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:2855.08cc
最高出力:294kW(400hp)/7000rpm
最大トルク:496Nm/3800rpm
乾燥重量:1160kg
最高速度:305km/h

フェラーリ F40

年式:1987年
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:2936cc
最高出力:351.5kW(478hp)/7000rpm
最大トルク:577Nm/4000rpm
乾燥重量:1100kg
最高速度:324km/h

※すべてメーカー公表値

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…