目次
100年前の1921年11月に商標登録
1886年に世界で初めてのガソリン自動車を生んだメルセデス・ベンツは、クルマ業界きっての超老舗である。でありながら、いまなおブランドの勢いは衰えるどころか加速し続けている。世界最大のブランディング専門会社インターブランドが2021年10月に発表した「ベス・ グローバル・ブランド2021」では、ヨーロッパ発のブランドとして唯一のベスト10入り。ちなみに10位以内に入っているのはAppleやAmazon、Microsoft、Googleといったテック系フロントランナーや、マクドナルドやコカ・コーラ、ディズニーといった絶対王者たち。自動車ブランドではメルセデス・ベンツとトヨタだけが10指入りを果たしている。
2021年は、そのメルセデス・ベンツを象徴する“スリーポインテッド スター”が生まれてちょうど100年という節目となる。
ことの起こりは1921年11月5日。メルセデス・ベンツの前身にあたるダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト社(DMG)は、星をリングで囲ったトレードマーク、及びそのバリエーションについての実用新案権を特許庁に申請。1923年8月に無事登録とあいなったそのシンボルは、まずは当時ボンネットの先端にあったラジエーターキャップを装飾するマスコットとして採用され、乗用車や商用車の様々なパーツへとすぐさま展開されていった。
1926年夏、DMGがベンツ&シー(Benz&Cie)と合併してダイムラー・ベンツAGが誕生する。この時ダイムラーのスリーポインテッドスターもベンツのシンボルである月桂冠と組み合わされることで、新たな意匠へと生まれ変わった。ラジエーターグリルやボンネット、ステアリングホイール、ホイールリムに描かれたこのマークは、やがて革新的技術と優れたエンジニアリングを象徴する証となっていった。
同じ年にそれぞれ商標登録されていた「星」と「月桂冠」
月桂冠と星。それぞれのアイコン自体は前世紀に誕生している。1899年、ウィーン近郊のバーデン、及びフランスのニースに居を構えていたオーストリアのビジネスマン、エミール・イェリネックは、自身のチームとドライバーを擁していた。彼が使用していたマシンはDMG製であり、そのチーム名として冠していたのが愛娘メルセデスの名。それはのちにイェリネックが購入したDMG車そのものの名前となった。そして1902年9月26日、“メルセデス”が商標として登録されることとなったのである。
クルマづくりのパイオニア、ゴットリープ・ダイムラーの子息であるパウルとアドルフは、1900年3月に逝去した父親がかつて絵葉書に星のマークを描いていたことをよく覚えていた。アドルフ・ダイムラーはこの星をモチーフに、自身でアイコンをデザイン。星が指し示す3つの頂点は、すなわち「陸、海、そして空」を意味し、ゴットリープ・ダイムラーが掲げたモータリゼーションのビジョンを象徴するものであった。そして1909年6月24日にDMGはこのトレードマークをドイツの特許庁へ申請、1911年に権利を取得している。
一方、ベンツ&シーは「Benz」の文字を含んだアイコンを1909年8月6日に商標申請。1910年10月に登録商標としている。実はそれより前、「Benz」の文字を囲んでいたのは歯車のフレームだったが、マンハイムで立ち上げた会社のモータースポーツにおける成功を象徴して、月桂冠へと変更されていた。
ダイムラーが生んだもうひとつの“星”
1924年5月1日、ベンツとダイムラーは合併協議に突入。そして1925年2月18日、才能に恵まれたグラフィックアーティストの手により、両者のシンボルは見事な“結婚”を果たすこととなる。さらに同日、「メルセデス・ベンツ」の名前そのものも商標登録へ。今日まで続く高級車のアイコンが、ここにようやく誕生したのである。
ところで、DMGは1921年にもうひとつの“星”を商標登録している。それが4個の頂点をもつフォーポインテッドスターである。こちらは長らく表舞台に出ることなく秘蔵されていたが、1989年5月19日以降はDASA(Deutsche Aerospace Aktiengesellschaft、のちのダイムラー・クライスラー・エアロスペース)の商標として使用されている。