メルセデスがEQSに続いて放つEVサルーン「EQE」の仕上がりを最速チェック

メルセデス・ベンツ EQEはEV時代のEクラスになるか? 渡辺慎太郎がいち早く海外試乗!

メルセデス・ベンツ EQE 350+のフロントビュー
EQE 350+は、メルセデス・ベンツのEVファミリー“EQ”シリーズにおける「Eクラス」的存在。ビジネスユースも見込んだエグゼクティブ向けサルーンだ。
ピュアEVファミリーの拡充を急ピッチで進めるメルセデス・ベンツは、フラッグシップサルーンのEQSに続き、EセグメントセダンのEQEをリリースした。前者がEV版のSクラスなら、後者はEV版のEクラス。メルセデスが放つ最新のEVサルーンの仕上がりを、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がドイツで試す。

Mercedes-Benz EQE

まずプロダクトマネージャーに問うたこと

メルセデス・ベンツ EQE 350+のサイドビュー
メルセデス・ベンツ EQE 350+のサイドビュー。フロントからリヤエンドに繋がる弓なりのルーフラインから一見2ボックスかと思わせられるが、じつはトランクリッドを持つ3ボックスである。

メルセデス・ベンツは、創業当初から「最善か無か」という確固たる強い信念のもとにクルマを作ってきた、とされている。確かにそういう部分もあるのだけれど、そうではない部分も結構あったりする。例えばメルセデス EQSの試乗会のときに、デザイナーはこんなことを話していた。

「BEV専用のプラットフォームを共有するメルセデスEQには、ひと目でこれまでのメルセデスとは違うと分かる鮮烈なエクステリアデザインが必須です。横から見たときにフロントからルーフを経てリヤエンドに至るまでを弓のような1本の曲線(ワンボウ)で繋ぎ、あえて3ボックスではなく2ボックスのハッチゲート付きとしました。セダンは3ボックスというメルセデスの定説を覆すスタイリングとパッケージとしたのです」

こんなことを聞かされたら「へーなるほど。そういう理念のもとにデザインされているんだな」と感心し、ならば当然というか必然的にじきに姿を見せるEQEも2ボックスになると信じて疑わなかった。ところがフランクフルトで初めて見たEQEは、ワンボウのフォルムではあるものの、トランクリッドのついた3ボックスだった。

「いやいやいや、EQSのときにあれだけ2ボックスの必然性を謳っていたのに」とプロダクトマネージャーに問うと、彼はちょっと小声になって「ハッチゲートがあると、後席のヘッドクリアランスが十分に確保できないんです」と吐露した。

パッケージに宿る苦心の跡

メルセデス・ベンツ EQE 350+のリヤシート
メルセデス・ベンツ EQE 350+のリヤシート。3m超のホイールベースをもつことから、前後方向のスペースには当然余裕が感じられる。

EQSとEQEの開発はほぼ同時期に進められていたと推測するが、当初はどうやらEQEも2ボックスを想定していたらしい。しかしパッケージの問題をクリアできず、やむを得ず仕方なく渋々と3ボックスにしたようである。

ルーフがキャビンの真上に蓋のようにのっかっている3ボックスと比べると、2ボックスはハッチゲートがあるせいでリヤへ向けてのスラントが早く始まり、後席のヘッドクリアランスが厳しくなるのは当然のことである。それを回避するためには、例えばキャビン全体を前方へ移動させるとか、後席のヒップポイントを下げるとか後席のバックレストを寝かすとか、いくつかの方法がある。

EQEの後席に座ってみると、バックレストはそこそこ立っているもののヒップポイントは下がっていて、でもクッションは手前側が上がっているから、太股の後ろとクッションの間に隙間が生じていた。肝心のヘッドクリアランスは、げんこつを縦にして1個分というスペースだった。

ビジネスユースを見込んだ仕様

メルセデス・ベンツ EQE 350+のフェイシア
メルセデス・ベンツ EQE 350+のフェイシア。EQSではダッシュボードをほぼ全面ディスプレイで覆い尽くすような「MBUXハイパースクリーン」に圧倒されたが、EQEのそれは現行Sクラスと同じ景色だった(ハイパースクリーンはオプション設定)。

足元は広々しているものの、ホイールベースが3mを超えているのだから、これくらいは当たり前とも言える。EQEのボディサイズ(4946×1961×1512mm)はEQSよりも小さく、ほぼほぼCLSと同じである。つまりそれなりに大きなボディを有しているが、ワンボウにこだわったことと、Bピラーからリヤへ向けて両サイドを絞り込んでいるため、室内は外見ほど広々としていない。

資料には「現行Eクラス(W213)よりも広い室内」と書かれているけれど、ボディもW213より大きいのだからそれはそうだろうと思う。メルセデスは昔からパワートレインやタイヤの位置まで含めたパッケージの重要性を唱えているけれど、昨今では明らかにパッケージよりもスタイリングを優先したモデルが散見され、EQEも残念ながらそのグループに片足を突っ込んでいる。

ただ、EQEのパッケージに関しては彼らなりの「正統な理由」もあるようだ。EQEはフリートの需要を大いに見込んでいるらしい。「フリート」とは、会社から与えられて通勤や仕事に使う社有車のようなもの。普段はひとり乗りがメインとなるし、他に自分のクルマも所有しているから、後席の実用性はちょっと妥協しても許されると踏んだのではないかと推測する。フリート需要を見込んでいると考える理由はいくつかあって、例えばEQSでは標準装備のハイパースクリーンやエアサスペンションなどはオプション設定となっている。価格をなるべく抑えて実用性に特化した仕様となっているのだ。

BEVは「ホイールベース=航続距離」

メルセデス・ベンツ EQE 350+のフロントビュー
EQEはEQS同様、プレミアムクラス電気自動車向けプラットフォーム「EVA2」がベース。現行Eクラス(W213)に比べてフロントのショルダールームは+27mm、キャビン長が+80mm、シートポジション高が+65mmそれぞれプラスとなっている。

EQEは基本的に小さなEQSである。EQSと共に登場したBEV専用のプラットフォームを使い、eATSと呼ばれるモーターとその補機類をひとまとめにしたパワートレインをリヤに、あるいは前後に置く。ホイールベースはEQSより90mm短い3120mm。Eクラスなどが属する“Eセグメント”のモデルにしてはホイールベースが長いのは、BEVの場合は「ホイールベース=航続距離」だからである。

キャビンの床下にバッテリーを搭載する都合上、BEVのホイールベースはバッテリーの搭載量に直結する。一方で、エンジンコンパートメントは小さくできるので、前後のオーバーハングをギリギリまで切り詰めて全長は抑えるという手法である。

高速で走って気付いたEQSとの違い

メルセデス・ベンツ EQE 350+のインテリア
メルセデス・ベンツ EQE 350+は室内の快適性を高めるため、EQS同様、大型のHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターと特殊な活性炭を使って空気を清浄化。サッカー場約150個分に相当する吸着面積をもち、PM2.5はもちろん二酸化硫黄や窒素酸化物などあらゆるサイズの粒子を99.75%除去する。この能力はクリーンルームや手術室に匹敵するという。

現時点ではEQE 350とEQE 500 4MATICの2種類が用意されている。後に350にも4MATICが追加されるそうだが、いまは後輪駆動のみとなる。バッテリー容量は90kWhで、EQE 350の航続距離は545~660kmとされている。試乗車は航続距離が長い(=最大660km)EQE 350+で、エアサスと後輪操舵のオプションが装着されていた。EQSで圧巻の光景だと驚いたハイパースクリーンは室内に見当たらず、現行Sクラスから採用が始まったメーターパネルとセンターコンソールにひとつずつ液晶モニターを置く仕様だった。

フランクフルト市内からアウトバーンに入る。ほどなくして、EQSとの決定的な違いを目の当たりにした。EQSは0.20という世界最高レベルのCd値を誇っていて、100km/h以上の巡航でも風切り音がほとんどせず、ちょっと異様な静粛性を保っていた。ところがEQEではそれなりの風切り音が聞こえてきた。そうはいってもうるさいレベルではなく許容範囲である。EQEのCd値は0.22で、現行SクラスやAクラスセダンと同等なので決して悪くはない。

彼らがどこよりも早くBEVを拡充する理由

メルセデス・ベンツ EQE 350+のリヤビュー
メルセデス・ベンツ EQE は、まず出力215kWの「350」から導入をスタートし、追って500kW相当のハイパフォーマンス仕様を追加する予定。生産は独ブレーメンの工場で行われる。

エアサスと後輪操舵が付いていたので、風切り音以外は基本的にEQSと同じ乗り味である。タイヤ&ホイールのサイズは20インチと21インチを試したけれど、いずれも速度域を問わず極めて快適な乗り心地を提供してくれるし、ボディサイズをまったく意識させない回頭性を示した。車両重量が約2.4トンもあって、フロアに敷き詰められたバッテリーがボディの構造部材の一部となって頑強な足元を形成しているから、重心の低さと剛性感の高さは常に感じられる。

特に高速域でのスタビリティの高さは類例がなく、200km/h付近でもステアリングに片手を軽く添えて鼻歌が歌えるほど抜群の安定感をもたらしてくれた。ちなみに試乗当日は途中から季節外れの降雪に見舞われて、山岳ルートでは路面に雪が積もり、電子デバイスが総動員されてもまったく登れず、回生ブレーキを使いながらゆっくり引き返した。図らずも、車重が重い後輪駆動でのスノードライブは肝を冷やすことを再認識させられた。

メルセデスはBEV専用のプラットフォームを用いて、これで2種類のセダンを提供することになる。そして間もなく“EQS SUV”と呼ばれるモデルが発表となり、後に“EQE SUV”も追加されることが決まっている。つまりこのプラットフォームはEクラス以上のモデル用であり、おそらく今後Cクラス以下のサイズのBEV専用プラットフォームも登場するだろう。どこよりも早くBEVの商品ラインナップを拡充して、データを集積しユーザーの声を拾って近い将来の商品企画に反映するという、彼らの電動化戦略は着々と進行している。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ EQE 350(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4946 全幅1961 全高1512mm
ホイールベース:3120mm
車両重量:-kg
モーター:永久磁石式同期モーター
最高出力:215KW(292ps)
最大トルク:530Nm
駆動用種電池:リチウムイオン電池
電池容量:90kWh
駆動方式:RWD
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
航続距離:545-660km(WLTPモード)

【問い合わせ】
メルセデスコール
TEL 0120-190-610

【関連リンク】
・メルセデス・ベンツ 公式サイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/

メルセデス・ベンツ EQS 580 4MATICのフロントビュー

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著者プロフィール

渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…