800万円級でも支持された理由は、200PSのスペックだけではなかった

登場からおよそ37年の歴史を持つロードスター史上、最強のスペックを誇る「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」と、そのベース車輌である「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」に試乗する機会を得た。
昨年の10月に、「マツダ・スピリット・レーシング」ブランドの名の下に発表された両モデル。MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R(以下12R)は、マツダがスーパー耐久で得た知見をもとに仕上げた200台限定のコンプリートカーだ。





車両本体価格は710万5000円、オプション込みなら866万5833円(いずれも税込み)という、ロードスターとしては規格外なプライスにも関わらず、その枠には9500件を超える応募が殺到。即完売となったのは、センセーショナルなニュースだった。
またそのベース車両である以上に、「2.0Lエンジンを搭載したオープンモデル」としてファンが待ち望んだ「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」も、2200台の全てが完売状態。これを受けマツダは第2弾の販売を検討しているという声が聞こえてきているから、期待の意味も込めてインプレッションをしてみることにしよう。





スーパー耐久を起点に生まれた、200台限定のコンプリートカー

ちなみにマツダ・スピリット・レーシングは、マツダが2021年に立ち上げたハイパフォーマンスブランドだ。それはかつて「マツダ スピード」が担ったモータースポーツブランドとしての役目を引き継ぐだけでなく、マツダ・ファンとの交流を図るイベント開催や、アイテム展開を行うといった、現代的なプラットフォームとしても機能している。
そんなマツダ・スピリット・レーシングが活動する舞台は、スーパー耐久シリーズだ。各自動車メーカーが車輌開発のために走らせる「ST-Q」クラス、ここに参戦した「MAZDA SPIRIT RACING RS Future concept」のゼッケンナンバーが、「12R」の名前の由来となっている。

メーカーが本気で仕立てた自然吸気2.0Lチューンドモデル
12Rで最大のトピックは、なんといっても、自動車メーカーが手掛けた2.0Lのチューンドエンジンだろう。
国内モデルでは、リトラクタブル・ファストバック仕様の「ロードスターRF」のみに搭載されるPBーVPR「RS」型ユニット。そのヘッドには、「匠」(たくみ)と呼ばれる熟練工の手作業によるポート研磨が施され、専用のハイカムが組み込まれた。またブロックに組み込まれる強化ピストンとコンロッドは、1/1000単位で重量合わせが行われている。

こうしたメカニカルチューンを受けたエンジンは、専用のECUチューンの制御によって200PS/7200rpmの最高出力と、215Nm/4700rpmの最大トルクを発揮する。
ベースエンジンに対する出力向上幅は16PS/10Nmと、メーカー自らが手がける自然吸気エンジンとしては、かなりのハイチューンだ。
しかしその始動は、極めて現代的だった。そもそも高い燃焼効率を誇るSKYACTIVエンジンは、圧縮比が13.0と非常に高い。だからだろう12Rも、専用ピストンを奢りながらもこれ以上圧縮比を高めてはいないのだ。
よってクランキングも短くすぐに火が入り、着火時もエンジンが弾けて目覚めるというドラマティックな展開はない。むしろメカニカルサウンドよりも、オプションとなるマフラーサウンドの方が、野太く勇ましい印象だった。

クラッチをつないでからのキャラクターも、この延長線上にある。
そのエキマニはノーマルの4ー2ー1タイプから4ー1タイプへと改められており、7500回転のレブリミットまで、とてもフラットに吹け上がる。
対して足周りは低速域からがっちり剛性感が高く、のんびり走らせていると200馬力は丸っと受け止められてしまう。だから「800万円のロードスターが積むエンジン」としてハードルを上げてしまうと、パンチが足りないと感じるドライバーはいることだろう。自然吸気の「VTEC」を知る世代には、物足りなく映るかもしれない。
速さよりも、荷重を操るドライビングが濃い!
もちろんそこには、環境性能への対応があるはずだ。
しかし一方で、これこそがロードスターにおける「究極の正常進化」だとも筆者は感じた。少なくとも、その最適解のひとつである。
速度域が上がるほどにしなやかさを増して、ロードスターらしい動きを見せて行くフットワーク。ターンインで基本通りにブレーキをリリースして行かないと、“フワッ”と抜けるフロントタイヤの接地荷重。

控えめな前後のスポイラーを見てもわかる通り、12Rが求めるのは単なる速さではない。空力に頼りきらず、ドライバーが挙動を操ることにこのクルマの狙いがある。
こうしたレベルの高いドライビングにおいて、一見無個性でフラットなエンジン特性は、生き生きとしてくる。微妙なアクセル操作への追従性が高く、レブリミットまで踏み切れるそのちょうどよい速さの果てに、等身大を少しだけ超えたドライビングプレジャーがある。
12Rの本領は、ワインディングよりトラックで見えてくる
2.0Lエンジンを搭載しながら1100kgに収められたボディはすこぶる軽く、高いスタビリティを持つ足周りと、オフ側で安定する機械式LSDのおかげで、コーナーの奥まで行けてしまう。
正直ワインディングで愉しむには少しばかり速度域が高くなりすぎて、走らせるべき場所はやはりトラックだという答えに行き着く。タイヤのスリップアングルを懸命にコントロールしながら、より高い次元で思い切り汗をかくのが、12Rの本分だ。

おそらく過給機を持たない自然吸気ユニットは、サーキットでも連続周回をこなしてくれるだろう。懐深いブレーキも、あなたの運転技術を磨き上げてくれるはずである。
そう考えると、ロードスターとしては桁外れなその価格にも、納得は行く。12Rはロードスター史上最強のフラグシップモデルであると同時に、最良のスポーツギアである。
多くのファンが待っていたのは、この2.0Lオープンかもしれない
とはいえ“最強・最速”を謳わずとも幸せな気持ちにさせてくれるのが、ロードスターの素晴らしいところであり、そのベース車輌を走らせたとき、「これこそ多くのファンが待ち望むロードスターの姿だ」と感じたのは事実だ。
そのエンジン出力は低いかもしれないが、中低速から盛り上がるトルクが、いっさい退屈を感じさせない。ビルシュタイン製ダンパーを組み込んだ足周りは12Rより遙かにしなやかだが、整った前後重量バランスと後輪駆動のおかげで、積極的にそのロールをコントロールできる。何よりロードスターの本分であるオープンライドが、細かいことを全てどこかへ吹き飛ばしてくれる。1.5Lこそがロードスターの「真の姿」だとマツダは考えているかもしれないが、この組み合わせは実にいい。

惜しいのは手の込んだ作りの「RF」より、この2.0L版が100万円以上も高いことだ。もし再販されてもそのハードルが下がることはないだろうが、できれば「マツダ・スピリット・レーシング」のバッジを外した、さらに素朴な2.0L版も出して欲しいところである。
いずれにしてもマツダを奮い立たせるのは、私たちの声だろう。ハードウェアとしての愉しさには、太鼓判を押す。あとはみなさんが、SNSやイベント会場、ディーラーから熱烈なラブコールをマツダに贈って欲しい。
