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GR 86 / SUBARU BRZ
「原点回帰」を思わせる進化
今度の86・・・いや“GR”86とスバル BRZは、間違いなく面白い。原点回帰とは、まさにこういうことをいうのだろう。いや、原点に立ち返った上で、お互いが(つまりトヨタとスバルがだ)、さらに強くその個性を主張し出したのである。
今回のモデルチェンジは既存のプラットフォームにてこ入れをして、エンジンを2.0リッターから2.4リッターへと排気量アップしただけと思われがちだが、その変更は超が付くほどの正常進化である。その核となるのはシャシーだ。この開発を中心になって行ったスバルのエンジニアいわく、プラットフォーム継続の理由は「初代BRZが水平対向エンジンを搭載するFRとして、これ以上ないほど徹底されたパッケージングを実現していたから」だという。
そして今回はさらに、このボディの“内側”を鍛え上げてきた。それは現行スバル・グローバル・プラットフォーム(SPG)に匹敵する仕上がりとなったのだという。SPGの特徴は「フルインナーフレーム構造」という工法にある。これはボディを作る際、まず骨格部分を作り上げてから外板パネルを溶接する手法で、手間はかかるがその溶接点を増やすことができ、ボディ剛性は大きく向上する。ちなみに従来の86/BRZはこのインナーフレームが、完璧にはつながっていなかった。そして今回Cピラー部分のインナーをつなげたことによって、車体のねじり剛性が50%も向上したのだという。そしてこの他にもフロントストラットの軸曲げで60%、リヤサブフレームでは70%も剛性値が向上している。
2.4リッターへ排気量をアップしたうえで大幅に軽量化
2.4リッター化したエンジン出力に対応し、現代の衝突安全基準とボディ剛性の両方を向上させるために質量が増えた分、軽量化も積極的に行った。従来のアルミ製ボンネットに加え、フェンダー(-3.0kg)、そして重心に大きく関わるルーフ(-2.0kg)までアルミ化を可能としたのは、メーカーならでは。そしてこの他にもマフラー(-1.6kg)、フロントシート(-2.6kg)、プロペラシャフト(-1.1kg)、後述するフロントの中空スタビライザー(-0.5kg)とアルミ製アップライト(-3.0kg)と、商品性向上によって増えた重量(75kg)を等しく相殺する軽量化が行われたのである。
軽量化の代名詞といえばカーボンだが、実はカーボンで本物の軽さを求めるのは意外に難しい。軽さと剛性を両立するプリプレグ仕立てのカーボンパーツは生産性が悪く、ゆえに高価だ。また市販車としての耐久・耐候性を考えると、外板パーツの場合はクリア塗装を行う必要があり、それほど軽さが得られない場合も珍しくない。これを打開する方法論としてたとえばGR ヤリスは、短繊維樹脂を固める手法で生産性を向上し、コストを落とした。対してコンマ1秒を争わないGR 86/BRZは、最良よりも最善を取って、ルーフやフェンダーにアルミを採用したわけだ。そして最終的にBRZ 6速MTでは最もベーシックなグレード「R」で1260kg(ATは1280kg)、18インチ仕様のグレード「S」でも+10kgと、先代とほぼ変わらない重量を実現したのである。
2社による異なる手法のスポーツカー哲学
さぁ早速走りだそう! と言いたいところだが、もう少しだけ話さねばならないことがある。こうした基本ボディを作り上げた上でGR 86/BRZは、前述した通りお互いが異なる手法でFRスポーツを作り上げてきた。それは単なるダンパー&スプリングのセッティング変更では終わらず、シャシーパーツを各別仕立てするほどのこだわりようだったのだ。そんなことしてトヨタとスバル、うまくやれてるのか? と、こっちが心配になってしまう。
たとえばフロントのアップライトは、BRZがアルミに材料置換したのに対して、GR 86は従来型の鋳鉄を採用している。また前後スタビライザーはBRZが中空構造の直径18.3mm/直径14mmを、そしてGR 86は中実の直径18mm/直径15mmを採用する。さらにリヤスタビライザーはBRZがブレースを介してこれをサブフレームに取り付けているのに対し、GR 86はブレースレスでロワアームに直結としたのである。そして足周りに関しては、BRZを基本とするとGR 86はフロントのスプリングレートがややソフトで、かつリヤが高めの設定となり、それぞれが独自のダンピング特性でロールスピードを制御している。また電動パワステまでもが、別仕立ての制御となった。
果たしてこうしたこのこだわりは、面白いほど走りの違いに現れた。端的に言えばBRZは実にスバルらしい視点でFRスポーツを捉えており、その動きがとても穏やかである。対してGR 86は現在のトヨタが目指す方向性通りに作られており、俊敏で曲がる。そしてその両者を同時に比較できたことで、そのカラーはより際だったのであった。
サーキット試乗が明らかにした2台の違い
さぁ、ようやくだがこれを走らせることにしよう。まずはスバル BRZの6速MTモデルからコースインだ。
着座位置が5mm下げられたというシートに違和感なく座り、スターターボタンをプッシュするとメインモニターが水平対向4気筒をイメージさせるデモンストレーションで目覚め、2.4リッターエンジンに火が入った。クラッチは軽すぎることなくちょうどいい踏力で、右足とシンクロさせながらこれをつないでも、かつてのようにプルプルとした振動がシフトノブに伝わってこない。どうやらトランスミッションケースやギヤ比はキャリーオーバーでも、その中身には手が入れられているようだ。言われなければ気づかないくらい自然なシフトフィールは即ち、きちんと鍛え上げられている証である。
与えられたのはそれぞれが4周という短い時間だったため、アウトラップからアクセルを深めに踏み込む。実は一番最初に先代BRZ(6速MT)を試乗していたので、排気量が約400cc増えたことによる低・中速加速の恩恵は確かに感じられたが、パワー感そのものは特に全開率が高いサーキットだと、取り立ててパワフルだとは感じなかった。しかしその吹け上がり方は、現代のレギュレーションを守った量産スポーツカーの自然吸気エンジンとしては、かなり好感が持てる気持ちよさである。
快音を響かせて気持ちの良いコーナリングパフォーマンスを披露
その音色はどうやら「アクティブサウンドコントロール」によって増幅されており、後述するGR 86よりもBRZの方がやや高音を響かせている印象を持ったが、それも含めて疑似サウンドに対する違和感はない。ボア・ピッチ径が84×84mmとスクエアだった燃焼室は、ボアを94mmに拡大したことで、排気量アップがなされてもきっちり回る性格のままである。ちなみにその最高出力は235ps/7000rpm、最大トルクは250Nm/3700rpmと、従来の207ps/7000rpm、212Nm/6400-6800rpmから28ps/48Nm引き上げられた。
肝心なコーナリングパフォーマンスは、圧倒的にその質感と安定感が高まっていた。先代モデルが17インチのミシュラン・プライマシーHPを装着していたのに対し、新型は同じミシュランでもパイロットスポーツ4にハイグリップ化されていたことは付け加えるべきだが、それにしてもリヤのスタビリティは格段に向上しており、高速コーナーでも格段に自信をもってアクセルを踏み込んでいけた。またこのときエンジンのトルクアップが効いて、姿勢がとてもコントロールしやすい。じわり、じわりと滑りながらもその動きは穏やかで、そこからスライドさせ続けるのも、これをバランスさせてトラクションを掛けていくのも自在なのである。
高いレベルで見れば足まわりに改善の余地はあるか
だたひとつ気になったのは、高荷重領域におけるフロントサスペンションの応答性の低さだった。タイヤを盛大に滑らせるようなアンダーステアこそ出ないものの、そのシャシー性能の高さに合わせてブレーキングポイントを詰めていくと、バンプラバーに当たっているかのように、舵が効かない領域がある。もちろんこれはかなり高い速度レベルの話であり、そこまで突っ込まなければBRZはきちんと曲がる。
またちょっとセオリーからは外れるが、ある程度フロントが入っていることを見越してアクセルを踏み込んでしまえば、その蹴り出しによってニュートラル方向へと姿勢を作っていける。総じてBRZは、非常に安定感の高い走りを披露してくれた。そしてこれ以上高度な要求をするのであれば、そこから先はオーナー自らが足周りを煮詰めていけばいい。それができるだけのボディは用意したぞ、というのがスバルの無言のメッセージのように思えた。
面白いように曲がるGR 86
しかし、だ。驚いたのはトヨタがそれを、やってきたことである。簡単に言うと、GR 86は面白いように曲がる。
誤解を恐れず言えば、セオリーを理解したドライバーなら誰でも曲げられる。そしてノーズがインを向いたら、少し勇気を出してアクセルを踏み込むだけで、オーバーステアがイージーに引き出せる。BRZが“どう曲げていくか?”を考えるクルマだとすれば、GR 86は“曲がったあとにどうコントロールするか?”を楽しむクルマだった。
ただしそれが、底の浅いドライビングで終わらないところがGR 86の面白さであった。これが鋳鉄アップライトと、中実スタビを継続した効果なのだろうか? GR 86はブレーキングを詰めてもステアインフォメーションが途切れず、ターンインを本気で攻められる。クリップまでの旋回速度は高く、なおかつリヤを安定させるためにはアクセルでバランスを取る必要があり、しかしこれができると恐ろしく速いコーナリングが完成する。
驚いたのはこうした局面でオーバーステアが出ても、リヤの接地性が途切れないこと。BRZのようにガッツリと路面を食いながら突き進む安心感はない。しかし普通ならスピンをイメージするような場面でも、アクセル開度をバランスさせ続ければこれをキープして、走りきってしまうことである。雨の日だとちょっと怖そうだ。またドリフトしないように速く走らせるには神経を集中させる必要があるが、それもソリッドで楽しい。
両車を乗り比べて見えてきた個性
こうしたキャラクターの強烈な違いを味わって、筆者は一番最初にトヨタ 86とBRZを乗り比べたときを思い出した。その後両者は熟成されたことで意図せず歩み寄った。トヨタ 86がより安定志向になり、スバル BRZがより曲がりやすさを強調するようになったのだが、それがまた振り出しに戻った。
どうして再びキャラクターが分かれたのかは、それがまさにスバルとトヨタの違いだからだろう。先代ではそれぞれが足りない部分を補うことで結果として同じベクトルを向いたが、再びベースとなるボディが格段の進化を得たことで、それぞれの個性を表現するに至ったのだと思う。
ちなみにこの日は、BRZ/86共に6速ATにも試乗した。基本的にこうしたキャラクターはそのまま受け継がれており、よりスバルBRZが安定したハンドリングを持ち、GR 86が曲がりやすい。ATの変速フィールはGR 86の方がシフトアップにキレがあり、全開率の高さから細かい所までは比較できなかったが、アクセル開度に対するレスポンスも、GR 86の方が感度が高く、BRZはリニアリティを優先しているという。
そしてきちんと走らせればATでも基本的には同じ挙動を示す。しかしそのギヤリングと最終減速比が、走りの領域ではよりワイドになっていることもあり、同じレベルで走らせたいなら6速MTを選ぶ方がよいだろう。
この完成度は「チューナー泣かせ」の域に達している
最後にもし筆者が手に入れるなら、どちらを選ぶかしばし考えた。しかしこれは非常に難しい選択で、簡単には答えが出ない。感覚的にはGR 86の操舵応答性と、BRZのトラクションが欲しい。となるとサブフレームから変更するわけにもいかないので、BRZを手に入れてフロントの限界を少しずつ上げていく感じになるだろうか?
それにしてもこの2台は、チューナー泣かせなFRスポーツである。当日は各社がいちはやくモディファイしたGR 86/BRZを持ち込んでいたが、ノーマルのままでもこれだけサーキットを楽しく走れてしまうのだから。
しかし裏を返せばこのボディを得たGR 86/BRZであれば、チューニングによってさらにそのポテンシャルが高まるとも言える。どちらを選ぶかは、本当にドライバーの好みだ。だからもしGR 86/BRZに興味があるのなら、絶対それぞれに試乗してみた方がいい。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
【SPECIFICATIONS】
GR 86 プロトタイプ
ボディサイズ:全長4265 全幅1775 全高1310mm
ホイールベース:2575mm
車両乾燥重量:1270kg
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHC
総排気量:2.4リッター
最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/3700rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
スバル BRZ プロトタイプ
ボディサイズ:全長4265 全幅1775 全高1310mm
ホイールベース:2575mm
車両乾燥重量:1270kg
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHC
総排気量:2.4リッター
最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/3700rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
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