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MCS Roadster 7
ふるさと納税高額返礼品の目玉として
“ふるさと納税の返礼品”と聞いて何を思い浮かべるだろうか? 一般には、肉、魚介など地元の農産物や、旅行券、宿泊券といったところが相場だが、すでに“プロドライバーによるプライベートドライビングレッスン”など、独自の返礼品を用意している静岡県御殿場市が9月26日に発表したのは、なんとワンオフのスポーツカーを用意するというものだった!
これは“御殿場市ふるさと納税高額返礼品開発支援事業”として企画されたもので、市内の事業者に高額納税の返礼品を募集したところ、7事業者9項目の返礼品が決定したという。
そのラインナップの中でも目玉といえるのが、1億円の納税に対する返礼品として、日本を代表するレーシングカー・コンストラクターであるムーンクラフトが製作するフル・カーボンファイバー・ボディのロードゴーイング・スポーツカー“MCSロードスター7”だ。
「御殿場の力を示すものとして、御殿場にしかできないモノ。それを通じて御殿場のまちづくりにつなげたい」
と御殿場市の勝又正美市長が語るように、富士スピードウェイに隣接し、数多くのレーシング・チームやガレージを有する、クルマの街だからこそできるモノといえるだろう。
ベースのケータハム・セブンが大変身
「1億円なんてビックリする金額を納税される方は僅かかもしれませんが、御殿場で活動してきたレーシングカーの会社としてできることは何かと考えて、それなら世界に1台のスポーツカーを作っちゃおうと提案させていただきました」
そう語るのは、ムーンクラフト代表である由良拓也氏だ。とはいえ、納税額に対する3割の還元率の中では、ゼロから新規でスポーツカーを作ることは不可能。そこで由良氏が白羽の矢を立てたのが、ケータハム・セブンだった。
「そもそもボディが付いていなくてシャシーだけで走っているに等しいスポーツカーですからね。それをベースに我々が御殿場で磨いてきたレーシングカーの設計、カーボンファイバーの成型、空力の技術をフルに動員して、クルマを作ってみようということです」
今回公表されたのは、由良氏のアイデアスケッチをもとに、タミヤ製1/12スケールのプラモデルにクレイ(粘土)を盛って、由良氏自ら削り出したボディをスキャンし、CADデータに反映したものだ。
すでにケータハム・カーズの正規輸入代理店であるエスシーアイ株式会社の了承を得ており、今後は実車のセブンをスキャンし、正式な図面を起こしていく予定になっているという。
最新レーシングカーの技術を盛り込んで
MCSロードスター7のデザイン・コンセプトについて由良氏は「ロングノーズの2シーターという古典的なスポーツカーのスタイルですが、我々が磨いてきた技術を活かし、最新のLMPマシンのエアロダイナミクスを取り込んでいます」と説明する。
実際、そのCAD画面や、クレイモデルを見てみると、ケータハム・セブンの基本構造が変えることなくカーボン・ボディをフッティングできるようになっているのだが、フロアもカーボンで完全にカバーしダウンフォースを発生するようなデザインが施されている。
「ボディサイドのルーバーの前側は、フロントから入った空気がホイールハウスから抜けるように、後ろ側はエンジンルームの排熱用です。リヤもドディオンアクスルのカバーがつくところからエンドにむけて跳ね上がるディフューザーがついています。このように見た目はクラシカルだけど、こうした部分は全部レーシングカーの設計になっているんです」
そう聞くとフロント周りのボディ処理には、最新のLMPマシンの面影が窺える。一方、グラマラスなリヤビューや、乗降用にルーフがガルウイング状に開くハードトップ(オプション装備)、ラウンドした低いウインドスクリーンには、由良氏が好きなシェルビー・コブラなど1960年代スポーツカーのエッセンスが散りばめられている。
「ボンネットのラインがコクピットの中に入ってきてダッシュボードがない。コブラ好きとしてそのデザインは譲れないですね(笑)。ウインドウを外してデュアルのレーシングスクリーンにできるようにとか。そういう遊び心を入れたいです。実はこれまでこうしたスケッチを山ほど描いてきたんですよ。そういう意味では僕が長年追求してきたものの集大成。しかも内容的に一番濃いものになると思います。また軽量、高剛性なカーボンファイバー・ボディと組み合わせることで、最高速度や車体剛性などクルマとしての性能も上がるはずです」
またナンバーを付けて公道を走れるように、車検をクリアできるよう考慮して設計がされているのも重要なポイントだ。
スポーツカー作りの現場を間近に
ちなみに返礼品は“地場産品に限定する”という規定があるため、ベース車は新車、中古車を問わず、寄付者の持ち込みでの製作になるなどいくつかの条件(詳しくは、追って御殿場市のHPに掲載される)がある。
しかしながら、実際に製作するのに1年近くかかることもあり、設計からCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を使ったデータ検証、そして実際の製作の工程に至るまで、普通なら絶対に見ることができないスポーツカー(というより内容的にはレーシングカーに近い)作りの現場を一緒に経験できるという意味では、価格以上の価値があるプロジェクトといえるだろう。
「正直、1台限りではコストとしてペイできないほどの内容になっているので、たくさんの人に御殿場市へ1億円以上納税してほしいですね(笑)」
我こそは!という方は、ぜひ名乗りをあげてみてはいかがだろうか?
TEXT&PHOTO:藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
取材協力:ムーンクラフト株式会社
https://www.mooncraft.jp/
問い合わせ先:御殿場市観光交流課 TEL 0550-82-4622