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ZOZO前澤氏がオーダーした「織部カラー」
ロールス・ロイスを購入する顧客のほとんどは、ビスポーク(ファッション界でいうオートクチュールのようなもの)を選択するという。シートのステッチ、パネルの木目、レザーの肌合い。そのすべてを自分好みにするべく、担当者ととことん話し合う。その過程も、ロールス・ロイスを買うという価値に含まれている。
もちろんボディカラーもそのひとつ。ロールス・ロイスは顧客のリクエストに応じて、既存のカラーパレットには存在しない特別なボディカラーをこれまでいくつも生み出してきた。
例えば、衣料品通販サイト運営会社ZOZOの創業者・前澤友作氏がオーダーしたファントムのために、織部焼きをイメージしたボディカラーを特別に調色。16世紀、安土桃山時代末期に花開いた織部焼といえば、緑釉(銅緑釉)の深い色合いで知られる。その独特のトーンを表現するべく、グッドウッド本社では数ヵ月を費やして世界にひとつだけの「MZ 織部グリーン」を生み出したという。
10色のオリジナルカラーをもつ大富豪
アメリカの大富豪であるマイケル・フックス氏は、なんと10色ものオリジナルカラーをこれまでにオーダーしてきた。過去、フックスの名を冠した“専用色”として、フューシャパール(ファントム)、フューシャ(ドーン)、ブルーキャンディ(同)、インテンス・ジェイドパール(ファントム)、エクウス・グリーン・ジェイドパール(レイス)、ホワイト(ゴースト)、パープルキャンディ(ファントム ドロップヘッド クーペ)、レッドキャンディ(同)、イエロー(同)、そしてオレンジ(カリナン)が誕生している。
2019年のモントレーカーウィークに登場したフックス氏のカリナンがまとっていたのが、目の覚めるような「フックス オレンジ」。フックス氏を魅了したのは、南フロリダで見かけた女性がまとっていた洋服の色。早速氏はその洋服を買い求め、グッドウッドにいるビスポーク・チームのもとへと送り届けたという。チームの面々は1年近くを費やして、燦々と降り注ぐ太陽にぴったり似合う力強いオレンジ色を開発した。
100時間かけて作ったボンネット
ボディカラーそのものだけでなく、塗装技術の妙で「世界にひとつ」を生み出すこともある。その一例が、ロールス・ロイス レイス アブダビだ。
ボンネットに描かれたのは、衛星から見下ろした中東の地。アラブ首長国連邦を中心に、紅海、アラブ海、オマーン湾の深い海が囲む。エアブラシを使って職人が描写したその様子は、まるで写真のように繊細である。ちなみに、ボンネットひとつの完成までにおよそ100時間が必要だったそうだ。
意外に似合うビビッドなカラーリング
そして、2021年のモントレーカーウィークでは、2台のロールス・ロイスが会場に彩りを添えた。新型ゴーストが採用したのは、「フリスキー ピンク」と呼ぶ大胆な色合い。紫がかった赤色、いわゆるフューシャピンクはともすると派手過ぎるように思えるが、意外なほどにゴーストの車体によく似合っている。
もう1台のカリナンがまとったのは、「アイスド トゥルケーゼ」と名付けたターコイズブルー。晴れ渡った空の色をそのまますくいとったような鮮やかな色合い、触れたらひんやり冷たそうな硬質な肌合いまで含めて、トルコ石のそれを思わせる。ゴースト、カリナンの両車ともに、特徴的なボディの色味は内装のアクセントカラーとしても使われている。