ポルシェエンジンを搭載するハーレーとは?

ポルシェがハーレーダビッドソンのために開発したエンジンの悲喜こもごもとは?

ハーレーダビッドソンVRSC V-ROD。2002年に創業100周年モデルのひとつとしてデビューした。ポルシェ開発のエンジンだけでなく、独創的なフレームワークにロー&ロングのスタイル、先進的なデザインなど、ハーレーの他のモデルとは一線を隠した。本国アメリカでは好調な売れ行きだったというが、日本ではヒットには至らなかった。
ハーレーダビッドソンVRSC V-ROD。2002年に創業100周年モデルのひとつとしてデビューした。ポルシェ開発のエンジンだけでなく、独創的なフレームワークにロー&ロングのスタイル、先進的なデザインなど、ハーレーの他のモデルとは一線を隠した。本国アメリカでは好調な売れ行きだったというが、日本ではヒットには至らなかった。
ポルシェといえば世界的なスポーツカーメーカーだが、それと同時に様々な自動車メーカーに技術を提供するエンジニアリング会社という面も持っている。だがその範囲は4輪に限ったことでは無いのをご存知だろうか? ハーレーダビッドソンとの意外な関係を紹介しよう。

ポルシェとハーレーダビッドソンの意外な関係

ポルシェの名を冠した最初の市販車、ポルシェ356。1948年に認証された最初のロードスターはポルシェブランドの第一号車であることから「ポルシェNo.1」と呼ばれる。
ポルシェの名を冠した最初の市販車、ポルシェ356。1948年に認証された最初のロードスターはポルシェブランドの第一号車であることから「ポルシェNo.1」と呼ばれる。

1931年4月25日、世界恐慌の真っ只なか。フェルディナント・ポルシェによって「エンジンおよび自動車製造における設計およびコンサルティング」を行なう会社として産声を上げたポルシェ。草創期にはアウディの前身であるアウトウニオンのレーシングカーやフォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)などの開発に携わっていた。

1948年にポルシェ356の発売によって自動車メーカーとなって以降も、1990年代のメルセデス・ベンツ500Eや近年のフォルクスワーゲン・トゥアレグ、アウディeトロンGTなど、ポルシェは他社との技術提携や共同開発を行なってきた。そしてそれは自動車メーカーのみならず、1903年創業のアメリカを代表するバイクメーカー、ハーレーダビッドソンにも及んでいたことはご存知だろうか。

1970年代、ホンダCB750FOURの発売を契機に、カワサキ900スーパー4(Z1)、スズキGT750、ヤマハXS1などがデビュー。大型バイクの分野でも日本車が高性能化して世界、特にアメリカのバイク市場を席巻する。耐久性や扱いやすさを求められる量産市販車でもエンジンの高出力化を果たし、欧米のバイクメーカーに対して水をあけた。

一旦はお蔵入りとなった「NOVA」エンジン

1969年に発売され、世界を驚かせたホンダドリームCB750FOUR。量産バイク世界初の並列4気筒エンジンを搭載し、ドライサンプの潤滑方式、4キャブレターに4本出しマフラー、前輪ディスクブレーキなど、威風堂々とした車格に当時最高の技術が注がれた。アメリカを中心に世界各国でヒットした。「ナナハン」という言葉もこのバイクによって生まれた。
1969年に発売され、世界を驚かせたホンダドリームCB750FOUR。量産バイク世界初の並列4気筒エンジンを搭載し、ドライサンプの潤滑方式、4キャブレターに4本出しマフラー、前輪ディスクブレーキなど、威風堂々とした車格に当時最高の技術が注がれた。アメリカを中心に世界各国でヒットした。「ナナハン」という言葉もこのバイクによって生まれた。

そんな日本車勢に対抗すべく、それまで市販モデルには空冷エンジン(主にV型2気筒)しか搭載してこなかったハーレーが、「NOVA」と呼ばれる水冷V型4気筒エンジンの開発に着手。ノウハウのない水冷エンジンを開発するにあたり、ハーレーが技術提供を求めたのがポルシェだったのだ。

エンジンの設計をポルシェが担当し、最終的に排気量1000cc、2バルブのOHCエンジンが生み出され、1981年に試作車「NOVAツーリング」に搭載された。しかし同年、創業者の孫を含む役員たちによってハーレーの経営権が親会社から買い戻されたことにより、NOVAエンジンは市販に至らず、同時期に開発していた1340ccのOHV空冷V型2気筒の「エボリューション」エンジンに注力することになった。

余談だが、1984年から市販車に搭載されたこのエボリューションエンジンはハーレーらしい味わいを残しつつ性能と信頼性を併せ持っていたため、多くのファンに愛されて1999年まで製造されることとなる。

ショートストロークの高回転型エンジン

空冷のエボリューションエンジンを搭載する、1990年発売のハーレーダビッドソンFLSTFファットボーイ。ゆったりと乗れるポジションと存在感あふれる佇まいが人気を博した。1991年公開の「ターミネーター2」で、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じるターミネーターが駆ったことも相まってヒットモデルとなる。
空冷のエボリューションエンジンを搭載する、1990年発売のハーレーダビッドソンFLSTFファットボーイ。ゆったりと乗れるポジションと存在感あふれる佇まいが人気を博した。1991年公開の「ターミネーター2」で、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じるターミネーターが駆ったことも相まってヒットモデルとなる。

ポルシェによってもたらされた水冷エンジンの技術がハーレーで再び日の目を見るのは1994年。AMAスーパーバイク選手権(アメリカモーターサイクリスト協会による、市販車改造クラスのロードレースだ。

この当時は4気筒750cc未満、2気筒は1000cc未満という2気筒勢に有利なレギュレーションだった)に参戦したハーレーダビッドソンVR1000に、NOVAエンジンのノウハウを生かしながら内製したDOHC水冷V型2気筒の996ccエンジンが搭載される。このVR1000はレーシングマシンであるが、ホモロゲーションをクリアするために50台だけ保安部品を装着した公道仕様のストリートマシンが生産されたという。

そして2002年。NOVAツーリングから20年の時を経て、水冷のポルシェエンジンを搭載する量産市販車、VRSC V-RODが発売。VR1000と同じくシリンダー挟み角を60度として排気量は1131ccにアップした、DOHC水冷V型2気筒4バルブの「レボリューション」エンジンを新開発。ロングストロークタイプの空冷エンジンに比べ、ボア×ストローク100×72mmとショートストロークタイプとし、8500rpmで最大出力を発生する高回転型エンジンとした。また燃料供給をFIとし、垂直に効率よく吸気できるダウンドラフトを採用してスポーツ性を高めているのがいかにもポルシェらしい。その上で耐久性と信頼性も追求しテストを重ねた。

現在にまで受け継がれる血脈

V-RODに搭載された水冷のレボリューションエンジン。ポルシェが設計・開発を担当し、カム直打ち式のDOHC4バルブヘッドにショートストロークのクランクシャフト&ピストン、前後シリンダーの中央に2つのスロットルボディを配置して高効率なダウンドラフト吸気など、それまでのハーレー史上で最もスポーティで高出力なエンジンに仕上げられた。
V-RODに搭載された水冷のレボリューションエンジン。ポルシェが設計・開発を担当し、カム直打ち式のDOHC4バルブヘッドにショートストロークのクランクシャフト&ピストン、前後シリンダーの中央に2つのスロットルボディを配置して高効率なダウンドラフト吸気など、それまでのハーレー史上で最もスポーティで高出力なエンジンに仕上げられた。

こうして完成したエンジンは、ハーレーらしい鼓動感は残しながら、振動は少なくスムーズでパワフルに仕上げられる。フリーウェイをゆったり流すこともできるが、アウトバーンを高速で疾走することも得意。トラクションコントロールが無かった当時、アクセルをラフに扱うと有り余るパワーで後輪がスライドするワイルドな側面もあった。名前が示すとおり、VRSC=VRのストリート・カスタム(Street Custom)のV-ROD=V型2気筒のホットロッド(Hot Rod)なのだ。クールモダンなエクステリアともマッチして、まさに革命的なハーレーである。

このV-ROD、名車と言っても過言ではないモデルではあるが、空冷エンジンの伝統的なフィーリングを愛してやまない日本のハーレーフリークからは熱い支持を受けることはできなかった(空冷偏愛主義のポルシェ911フリークと似ている)。

2008年に排気量が1246ccまで拡大され、2017年モデルでV-RODシリーズは終焉を迎える。V-RODの名はラインナップから消えたが、レボリューションエンジンは「レボリューション・マックス」エンジンへと進化し、2023年現在、スポーツ系のモデルに搭載されている。ポルシェエンジンの血脈はしっかりと受け継がれているのだ。

1990年に発売されたホンダCBR250RR(MC22型)。KEIHIN製VP20の4連キャブレターが装着されたカムギアトレーンの水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンは1万9000回転からレッドゾーン、1万9500回転でレブリミッターが作動するという超高回転型ユニットだった。

【2023年はどうなる?】日本バイクメーカー製の並行輸入キャブ車が買えなくなる?

1885年にドイツのゴットリープ・ダイムラーが、現代のバイクへと繋がるガソリンエンジンの二輪車リートワーゲンを生み出してから138年。その長い歴史の始まりから100年以上、20世紀末に至るまで、バイクの燃料供給装置と言えばキャブレターだった。そのキャブレターが2023年ついに味わえなくなるという。

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元 一彰