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Lotus Emira V6 First Edition
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Porsche 718 Cayman GTS 4.0
2台のミッドシップ2シーターのスポーツカーを走らせる
1台のスポーツカーの上陸をこれほど待ちわびたことはないかもしれない。ロータス最後のピュアガソリンエンジン車、エミーラである。
エミーラはロータスの王道ともいうべきミッドシップレイアウトのライトウエイトスポーツカーだが、このクルマとの出会いを恋しく思った理由は意外なところにあると思っている。望めばいつもそばにいると感じていたエリーゼやエキシージといった定番モデルの生産が、エミーラの登場を待たずにあっさり終了してしまい、今日まで2年近く空白の時間が存在したからである。
朝の箱根にやってきた青いロータス・エミーラV6ファーストエディション。そのボディはいくぶん厚みがあるが、シャープな造形はエリーゼの兄貴分もしくは延長線上にあることがひと目でわかるものだった。今回エミーラのポテンシャルを推し量るチェイサーとして用意した1台はポルシェ718ケイマンGTS4.0。偶然にもよく似たブルーのカラーリングに包まれた2台のミッドシップ2シーターのスポーツカーが顔を揃えることになったのである。
上質な雰囲気が伺えるエミーラの室内
どちらも僕にとって今回が初ドライブとなるのだが、気になるのはやはりエミーラの方。さっそくコクピットに乗り込んでみる。サイドシルやセンタートンネル、ダッシュパネルなどは黒いアルカンターラ素材で丁寧にトリムされており、上質な雰囲気が伺える。ステアリングは円周の上と下を少し削り取ったような特徴的な形状になっている。
黒いレザーとアルカンターラでトリムされたシートは厚みがあり、座り心地もしっとりとして上質なもの。1573万円という車両価格を考えれば当たり前なのかもしれないが、エミーラの第一印象はライトウエイトスポーツというより小さな高級車然としたものだったのである。スターターボタンはシフトレバーのすぐ後ろにあり、今までのロータスにはない赤いガードに守られている。そう、今回のエミーラV6ファーストエディションのパワートレインはエキシージSやエヴォーラでおなじみトヨタ・ベースの3.5リッター、V6スーパーチャージドであり、ギヤボックスは6速MTとなる。
今となっては古典的なイメージが強い6速MTだが、AMG製の2.0リッターターボ+デュアルクラッチ搭載モデルが後に控えているとなれば、その対極として「手こぎ」の選択肢はありだと思う。それに将来、価値が高まる可能性が高いのはMTモデルの方ではないだろうか。スターターボタンで目覚めたV6エンジンは、ボディの遮音も少し効いているようだが、そもそも音量自体が抑えられている印象だ。箱根ターンパイクの料金所からまっすぐに伸びた急こう配を2速で上りながらエンジンとタイヤに熱を入れ、徐々にペースを上げていく。
ケイマンGTS4.0の方が軽いという興味深い事実
V6スーパーチャージドは相変わらずのキレの良さで、スロットルペダルの動きに機敏に反応して吹け切ろうとする。そんな尖ったエンジンの特性と、ATに比べればどうしてもギクシャクしがちなMTシフトの不整脈を、カチッとした強固なシャシーと、ストローク感のあるしなやかなアシが上手く往なしてくれているのがわかる。
エミーラのコーナリングは上質さよりもロータスらしさを強く感じさせてくれるものだった。軽めのステアリングをコーナーに向けて切り込むと、微かなロールを伴ってズバッと鋭く切れ込んでいく。まるでエリーゼみたいと素直にそう思った。旋回中のステアリングの舵角は一定のまま、スロットルに込めた微妙な力次第でコーナリングフォースがいかようにも変化する。低速ではツンと澄まして高級車然としていたエミーラだが、その正体はやはりロータスそのものだったのである。
予想はしていたが、ポルシェ718ケイマンGTS4.0はエミーラとは面白いくらい対照的なキャラクターの持ち主だった。いつでも前輪にそれなりの荷重が掛かっている感じで、ステアリングのねっとりとした重さもその感覚を助長している。心許ないくらいステアリングが軽いエミーラと腕力が試されるほど重いケイマン。両者は実際のハンドリング特性も極端に違う。いつでも荷重移動をきっかけにして曲がりたがっているエミーラに対し、ケイマンは直進安定性が高く、ステアリングでじっくりと曲げていく必要がある。
ケイマン/ボクスターは911から派生したため伝統的に燃料タンクがフロントにあるが、ロータスはフォーミュラカーと同様でドライバーの背後にタンクを置く。そんな基本レイアウトの違いが、車検証上の前後重量配分(エミーラは前560kg/後940kg、ケイマンは前630kg/後830kg)にも表れている。だがフワッと軽いドライブフィールを誇るエミーラV6(1458kg)よりポルシェらしい凝縮感で満たされたケイマンGTS4.0(1435kg)の方が車両重量が軽いというのは興味深い事実だった。伝統的なブランドの味は物理の法則すら覆すということなのだろうか。
718ケイマンGTS4.0のステアリングの重さ
ケイマンから再びエミーラに乗り換えてみた。先ほどの初ドライブよりも冷静にドライブしてみる。エリーゼ以降のミッドシップ・ロータスをドライブした経験があれば、エミーラはすぐに仲良くなれる。ペースを上げていくと、ちょっとしたクセのようなものも見えてきた。
コーナー進入時のブレーキングで前荷重の姿勢を作ってターンインを開始し、すぐに右足をスロットルペダルに移動させると、意外とあっさり前荷重が抜けてしまう点が気になった。エンジンブレーキが弱めということもあるし、フロントダンパーの減衰が弱めということも関係していると思う。
一方コーナーからの脱出でパワーを掛けた際のリヤタイヤからのフィードバックがフロントほどには豊かでないことも気になった。V6スーパーチャージドエンジンの重心の高さを、硬めのダンパーや前輪に比べ5サイズも太いリヤタイヤで抑え込んでいることの弊害だろうか? 箱根のワインディングをそれなりのペースで走り回った後、エミーラのタイヤをチェックしてみて驚かされた。ショルダー部分が接地した跡がほとんどなかったのだ。サーキットで大きな荷重を入れないと本領を発揮しない、そんなセッティングになっているのだろうか?
その点ケイマンは、曲がりはじめこそ渋めだが、前後のタイヤ幅は3サイズ差とエミーラより少なめ。その結果としてコーナーからの立ち上がりではリヤタイヤのグリップ変化を比較的容易に感じ取ることができた。ちなみにケイマンのタイヤは4輪ともショルダーまできれいに摩耗しており、ここにもポルシェとロータスのセッティングの違いが感じられたのである。
ロータスにはドライバーの仕事がちゃんと残されている
第一印象ではエミーラに比べて鈍重な感じがしたケイマンGTS4.0。だがその実像はハンドリングとスタビリティをともに妥協しないというポルシェらしさに裏打ちされたものだったのである。
それでも今回の2台で強く印象に残ったのは、初モノであるエミーラの方だった。MTシフトや積極的な荷重移動などドライバーの仕事がちゃんと残されている点が実にロータスらしいのだ。やることが残されているからこそ、パズルの最後の数ピースを埋めていく楽しみもある。
ともあれ今回はブランニューにして最後のガソリンエンジン搭載ロータスの華々しい本邦デビューをお祝いしたい気分なのである。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号
SPECIFICATIONS
ロータス・エミーラV6ファーストエディション
ボディサイズ:全長4413 全幅1895 全高1226mm
ホイールベース:2575mm
車両重量:1458kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHC+スーパーチャージャー
総排気量:3456cc
最高出力:298kW(405PS)/6800rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/2700-6700rpm(MTモデル)
トランスミッション:6速MT / 6速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35R20 後295/30R20
車両本体価格:1573万円
ポルシェ718ケイマンGTS 4.0
ボディサイズ:全長4405 全幅1801 全高1276mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1435kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3995cc
最高出力:294kW(400PS)/7800rpm
最大トルク:430Nm(43.8kgm)/5500rpm(DCTモデル)
トランスミッション:6速MT / 7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/35ZR20 後265/35ZR20
車両本体価格:1224万円
【問い合わせ】
ロータスコール
TEL 0120-371-222
https://www.lotus-cars.jp
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/