目次
Nissan GT-R Premium edition T-spec
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Porsche 911 Carrera 4 GTS
流れゆく15年まりの月日の中で
この2024年モデルが出るまで、日産GT-Rに販売終了説がささやかれていたのは、数年前に開発担当者自ら「新しい車外騒音規制のクリアは難しい」と複数のメディア関係者の前で漏らしたからだ。実際、欧州市場では、騒音規制を理由に22年に販売終了となった。
しかし、その販売終了説の後押しもあってか、最近のGT-Rは常に完売。それが開発陣を勇気づけて、新構造マフラーなどによる規制対応を実現した。ここからは想像だが、これで少なくとも25年末の衝突軽減ブレーキ義務化までは国内販売を継続できる根拠を得たと思われる。逆にいうと、そこまでに開発コストが回収できる目算が立ったからこそ、24年モデルも実現したのだろう。
GT-R初代開発責任者の水野和敏氏は、競合車としてポルシェ以外は眼中にないと公言してはばからなかった。実際、07年末の発売当初は「911ターボの性能をカレラの価格で提供する」という意図も明白だった。あれから15年以上の月日が流れて、当のGT-Rはどの世代の911よりも長寿となり、価格も当時の2倍近くに跳ね上がっている。
もっとも、価格上昇はこの間に2度フルチェンジした911も同様。どころか、基準となるカレラを見るに、その高騰ぶりはGT-R以上。さらにカレラ系のエンジンもターボ化されたことで、3.8リッターV6ツインターボを使い続けるGT-Rとの動力性能差も着実に縮小している。
GT-Rの静粛性向上の理由はギヤボックス
今回のGT-Rが標準系(非NISMO系)で最上級の「プレミアムエディションTスペック」だったこともあり、同時に連れ出す911もカレラ系トップグレードとなる「カレラ4GTS」を選んだ。取材車のカレラ4GTSはオプションテンコ盛りで合計価格2600万円超だが、本体価格は2165万円。対するGT-RのTスペックも本体価格は約1900万円。911への強い対抗意識は今なお明々白々だ。
最新GT-Rは、なるほど、体感的にも明らかに静かになった。早朝の住宅街でも気づかいせずに済むのは素直にメリットだし、トンネルで窓を全開にしても耳をつんざくサウンドは届かない。しかし、スピーカー音を加勢されるキャビン内でも、パワートレインが明らかに静かに上品になったのはなにゆえ……と思ったら、その最大の理由がギヤボックスであることに気がついた。
GT-Rの6速DCTといえば、良くも悪くも盛大なノイズとショックを伝えたものだ。しかし、今やノーマルモードではショックレスとも形容したくなる上品さで、最速Rモードでもまるでガキゴキすることなく、スパンスパンと素早い変速を決める。今回のGT-R(標準系モデル)は騒音対策以外にも、空力や可変ダンパーの制御に手が入ったというが、日産の公開情報ではギヤボックス関連の改良は明かされていない。
いずれにしても、本題の車外騒音も含めて、パワートレインはまるで別物のように洗練された。もちろん、従来の猛々しさを懐かしむ向きもあろう。しかし、911のいかにも実の詰まった滑らかさと比較すれば、少なくともTスペックでは、これは好ましい進化と捉えるべきだ。
本物のチューンドエンジンらしいヒステリックな咆哮
車外騒音規制をクリアしつつも、エンジン性能をビタ一文落とさなかったのもGT-Rの自慢である。その最高出力570PS、最大トルク637Nmは、なるほど最新の911ターボ(580PS/750Nm)に肉薄する。しかし、ほぼ全機種で直噴ターボ化された最新フラットシックスの性能は大きく底上げされており、その頂点に君臨するターボSはGT-Rに大きく水を開ける650PS/800Nmに達している。
さらにカレラ系の3.0リッター直噴ターボも、かつての自然吸気時代からの性能底上げは著しく、カレラ系最強となる今回のGTSは480PS/570Nm。出力は意図的に(?)抑制されるが、トルクは最新過給エンジンらしく強力だ。とはいえ、さすがに額面上はGT-Rに一歩ゆずるが、忘れてならないのが車重だ。今回の取材車は車検証重量で、GT-Rが1760kgで、カレラ4GTSが1620kg。911のほうが圧倒的に軽い。車重1tあたりのパワー&トルクウエイトレシオで換算すると、323PS/t&361Nm/tのGT-Rに対して、カレラ4GTSは296PS/t&351Nm/t。ほぼ選ぶところのないレベルにまで縮まるのだ。
こうして見ると、最新GT-Rの標準系モデルに正面から対峙する911は、もはやターボではなくカレラ4GTSというほかない。このあたりは、基本設計が15年間そのままのGT-Rの宿命だろう。
実際、公道での体感では、直噴で低回転からパンチがあって、車重も軽くてギヤも2つ多いカレラ4GTSのほうが速いケースが多い。これと比較すると、もはや古典設計の日産VR38DETT型の低回転は、最新エンジンとしては明らかに線が細い。だが、5000rpm付近からの炸裂っぷりは、静かになった24年モデルでも健在で、少なくともキャビン内に本物のチューンドエンジンらしいヒステリックな咆哮が響く。
前記のように空力や可変ダンパー制御も進化・熟成されたGT-Rは乗り心地や操縦性においても、またまた別物のように洗練された。
軽いのに重厚な味わいこそ911の真骨頂
従来のGT-Rも年々熟成されていたとはいえ、絶対的に硬いコイルに対して、ダンパーが相対的に柔らかいコンフォートモードやノーマルモネードでは、どうしても細かい揺り戻しめいた上下動がおさまらなかった。で、結局のところ「突きあげはキツいが余分な動きもないRモードが最も快適」と感じるケースが少なくなかった。しかし、24年モデルのノーマルモードは、まろやかな路面タッチとフラットライドが両立する境地についに到達した。そのまま箱根に持ち込んでも、絶妙な荷重移動と濃厚な接地感を伝えつつ、GT-Rのスピードを見事に御しきる。Rモードでは身のこなしはさらに俊敏になるが、荒れた路面でもまるで跳ねない。真にしなやかなアシだ。
このように、開発陣自ら「集大成」と呼ぶに相応しい走りを見せるGT-Rだが、カレラ4GTSに乗り替えると、ポルシェの凄さを思い知りもする。どちらもボディの剛性は凄まじいが、その剛性感の中に、ある種の「潤い」があるのがポルシェの美点。これと比較するとGT-Rの剛性感はドライというか、まだまだ「余韻」が足りない。どちらもボディ構造は量産性に優れたスチールモノコックがベースだが、「鉄」の使いかたには、まだまだポルシェならではの秘密がありそうだ。
さらに、911のRRベースならではの間髪入れないキック力や、路面にめり込まんばかりのブレーキング姿勢と比較すると、GT-Rは絶対的なトラクションでは引けを取らないものの、身のこなしが良くも悪くも軽い。カレラ4GTSも実重はGT-Rより150kg近く軽いのに、乗っていると重厚なのだ。この軽いのに重厚な味わいこそ、GT-Rが追い求めてもなかなか得られない911の真骨頂である。
とはいえ、シャシーやパワートレインがここまでの域に達すると、少しばかりドライで軽薄な肌ざわりも、あからさまに設計年次を感じさせる内外装デザインも、これはこれで911とは違うGT-Rの個性あるいは味として成就しつつあるという他ない。これを新車で手に入れられるのは、あと1年か2年か、あるいは数年か。いずれにしても、純エンジンのGT-Rはこのまま行き着く所まで行って、911とは別の伝説的存在になっていくのだろう。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年9月号
SPECIFICATIONS
日産GT-RプレミアムエディションTスペック
ボディサイズ:全長4710 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1760kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570PS)/6800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40ZRF20 後285/30ZRF20
車両本体価格:1896万円
ポルシェ911カレラ4 GTS
ボディサイズ:全長4533 全幅1852 全高1301mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1670kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:2981cc
最高出力:353kW(480PS)/6500rpm
最大トルク:570Nm(58.1kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/30ZR21
車両本体価格:2165万円
【問い合わせ】
日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232
https://www.nissan.co.jp
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/