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走行経験の少ない菅生に挑んだ3台




2023年シーズンの「BMW & MINI Racing」は、6ラウンド12レースを日本各地のサーキットで開催。BMW M2 CS レーシング、MINI JCW、MINI クーパーSという3つの車両クラスが存在し、唯一の東北開催となる第4ラウンド スポーツランドSUGOには、17台のエントリーが集まった。
大阪を拠点とする「TECH-M Racing」は、BMW M2 CS レーシングでBMW & MINI Racingに参戦。岡山国際サーキットで行われた第3ラウンドは、チームを率いる水元寛規(みずもと・ひろのり)が、第6戦でプロドライバーを相手に勝利を飾り、ランキングトップを独走している。
第3ラウンドから約1ヵ月半のインターバルを経て迎えた第4ラウンドには、25号車をドライブするエースの水元を筆頭に、50号車の神頭政志(しんどう・まさし)、70号車の片山剛(かたやま・つよし)と今回も3台体制で挑む。第7戦と第8戦の舞台となるスポーツランドSUGOは、関西をベースにするTECH-M Racingにとって、なかなか走る機会のないサーキット。3名のドライバーは予選前日に行われたプラクティスのみで、8月5日の予選に挑むことになった。
「今回、僕にとっては人生2回目の菅生走行になりました。ほぼ走行経験のないサーキットですし、今回は自走でレーシングカーを運んだため時間もない。前日に1日しか練習ができない状態でしたから、予選前にしっかりアジャストし切れませんでした。予選の最中にようやくサーキットの雰囲気を掴むことができた印象です」と、水元。
今シーズン、予選を最小限のアタックで切り上げ、タイヤを温存した水元だったが、今回は通常の4本に加えて、さらに4本のニュータイヤを使用。レースウイークに使用を許可されている8本すべてを予選で下ろすことになった。前戦の優勝ドライバーとして、「BoP(バランス・オブ・パフォーマンス)」による420PS(通常は450PS)での走行となりながらも、ポールポジションを獲得した山西康司から僅差の2番手タイムを叩き出した。
「最初のアタックを終えて、まだ時間に余裕があったので、もう4本のタイヤも下ろしました。この2回目のアタックで良いタイムが出せました。プロドライバーの山西選手に0秒08差ですから、自分でも満足しています。ただ、決勝の2レースに向けてユーズドタイヤしか残っていない状態です。あらためて、菅生の難しさを感じました。コースが狭く、抜きどころが少ない上に、高低差があって、パワーの低い僕にとってはかなり厳しかったです」と、水元は予選後に振り返った。
一方、水元同様に菅生での走行経験の少ない神頭は6番手、腰痛を抱えた状態でレースウイークを迎えた片山は8番手で予選を終えている。
まさかのギヤボックストラブル




8月6日10時50分から行われた第7戦決勝レース、2番グリッドからスタートした水元は、抜群の蹴り出しでトップに立つ。テールトゥノーズの展開が続くなか、4周目の最終コーナーで山西が水元をパス。水元はそのまま2番手でレースを走り切ったが、メカニックの作業時間外の車両へのタッチにより、5秒のペナルティが課され、最終リザルトは4位となった。表彰台を逃したかたちとなった水元だが、実はこの4位こそ、水元が狙っていたポジションだったという。
「上位5台にリバースグリッドが導入されるため、最初から第8戦のことを考えて、4番手でフィニッシュするつもりでした。第7戦は山西選手を必ず優勝させ、プロドライバーの近藤(翼)選手を3位に入れることが、このレースでの僕の使命。スタートでのペナルティは残念でしたが、戦略的に戦った上での4位ですし、この結果には納得しています」
菅生でのレースコンディションに苦しめられた神頭は8位。片山は9位でフィニッシュした。この結果、第8戦のポールポジションは経験豊富な奧村浩一。水元は2番グリッド、神頭は8番グリッド、片山9番グリッドからのスタートとなった。
14時50分、第8戦の火蓋が切って落とされた。完璧なスタートを切った奥村が水元を従えて1コーナーをクリア。抜きどころの少ない菅生、水元はコーナーで奥村との差を詰めるものの、450PSのパワーを持つ奥村を捉えることができない。
8周目、接近戦が続き、思うようにフレッシュエアを取り込めなかった水元のM2 CS レーシングに、ギヤボックスのオーバーヒート症状が発生する。これにより、水元は大きくペースダウン。チームメイトの神頭と片山の後方、最後尾の9番手までポジションを落としてしまった。
「奥村選手は完璧なスタートでした。フィニッシュ後に聞いたら、『あれは、勘やで』って答えてくれましたが……(笑)。ただ、クルマに速さはあったものの、どうしても抜くことができませんでした。テールトゥノーズが続いた結果、マシンに風が当たらず、ミッションがオーバーヒートしてしまったんです。8周目あたりから、まったく変速できなくなって、順位を大きく落としました。ただ、走らせていれば、ミッションが復活すると分かっていたので、頑張って走り続けました」
最終的にスピードは復活したものの、神頭の6位、片山の8位に続く9位でレースを走り切った。それでも、収穫の多い一戦だったと水元は語る。
「菅生と夏のレースの洗礼を受けました。前のレースでプロドライバーにも勝って、それまで負けなしできていたところで、お灸を据えられた感じです。チームにとって、本当に学びの多いレースウイークになりました」
貴重な経験を積んだ神頭と片山




今シーズンから、本格的に公式戦を戦うことになった神頭と片山にとっても、初挑戦の菅生は、得るものが多かったようだ。M2 CS レーシングという高度なレーシングカーを駆り、さらに「BoP」や「リバースグリッド」など、複合的な要素が絡むBMW & MINI Racingは、ジェントルマンレーサーのふたりを鍛え続けている。
今回、6位と8位を得た神頭は、「シミュレーターでの経験以上に、初めての菅生は狭く感じました。こんなサーキットでは絶対に抜けないと思いましたし、恐怖も感じました。エスケープゾーンが少なく、ラインを外してしまうと、コースオフの可能性があります。前日1日のみのプラクティスではコースを攻略するのは難しかったです」と、菅生の難易度の高さを指摘する。
水元は神頭を、テンションで走るタイプのドライバーで、ハマると抜群のスピードを披露すると評価。課題はライン取りにあり、「コースを広く使って、繊細なアクセルワークを習得して欲しい」とアドバイスする。
前述のように腰の不調を抱えた状態でレースに挑んだ片山は、9位と8位という悔しい結果に終わった。それでも水元を従えてフィニッシュした第8戦は、思うところがあったようだ。
「今回、水元選手を自分の実力でいつか倒したいという、目標ができました。前戦の岡山では先頭争いにも絡めましたし、プロドライバーを抑える局面もありました。今回はどちらのレースも、実質的に最後尾でのレースとなったので、ライバルと戦う場面がなかったのが残念です。せっかく走っていても、味気なかったので、やはりしっかり練習した上で挑む必要があると実感しています」と、片山。
唯一3台体制で挑む、TECH-M Racingにとって、水元に続くふたりのドライバーの成長は不可欠。「僕自身、チャンピオンを狙う上で、ふたりのサポートが鍵になりますし、絶対強くなってほしい」と、水元はエールを送る。
次戦第5ラウンド(10月7~8日)は、シーズン2回目の「富士スピードウェイ」。今回、表彰台を逃した水元は、BoPの足枷が取れ、フルパワーの450PS仕様でハイスピードコースに挑むことになる。
「次戦、最大のライバル、プロドライバーのふたりが365PS仕様で走ることになます。選手権を争う石井(一輝)選手は450PSのままですが、第8戦で優勝した奥村選手は420PS。リバースが採用される第10戦では、表彰台をTECH-M Racingの3人で独占することを目標にしたいです」と、水元は意気込みを語った。
「BMW & MINI Racing」は、シリーズ全戦を、公式Youtubeチャンネルでライブ配信中。スポーツランドSUGOで開催された第4ラウンドは、決勝レース2戦のダイジェストが公開されている。ぜひ、白熱の戦いをチェックしてほしい。