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中国とテインの結びつき
「ATTO3」や、つい先日発売された「ドルフィン」などの名は、EVに興味がない人でも耳にしたことがあるはずだ。BYD(比亜迪)はこの日本でもニュースにならない日がないぐらい注目されている中国の自動車メーカーである。さらに年内には同じく前記2台と同じくEVのセダン「シール(SEAL)」も導入予定という。そのシールをはじめ、ジーリー(吉利)のEVブランド「ジーカー(ZEEKr)」の001、さらにテスラ・モデル3とモデルYというまことにタイムリーなEVラインナップに中国で試乗する機会をテインが用意してくれた。
モータースポーツに詳しい人はもちろん、スポーツカードライバーならグリーンのコーポレートカラーに塗られたダンパーを知らない人はいないだろう。サスペンションメーカー「テイン」のスポーツ車高調ダンパーの国内シェアは5割というから圧倒的だ。それに加えて今年発売された「EDFC5」(電子制御減衰力可変システムの第5世代)は、室内のコントローラーでダンパー減衰力を容易にコントロールできる便利なシステムであり、快適性と洗練度を重視するユーザー向けにも市場を拡大している。
世界の新車販売の3割を占める
だが、高品質・高性能なダンパーで知られるテインと中国がどう結びつくのか?と首をかしげる人も多いはず。ホイールベースを伸ばして立派に見えるセダンや押し出しの強いSUVが人気で、最近はNEV(新エネルギー車=新能源車/BEV、PHEV、FCVの総称)が急速に拡大している中国では、テイン得意のスポーツサスペンションの出番はなさそうに思えるが、実はEV用の純正形状ダンパーの売れ行きが急伸しているのだという。
そのためにも改めて中国および中国自動車界の現状をおさらいしておこう。中華人民共和国の国土面積は約960万㎢で日本のおよそ26倍、人口はおよそ14億人。昨年2022年の自動車販売台数は2686万台と文句なしに世界一の巨大市場である。2000年はわずか200万台だったが、2010年には1800万台、そして2017年のピーク時には2888万台と驚異的な成長を見せてきた。
グローバルでの年間新車販売台数はざっと8000万台と言われるから、一国でそのうちの3割以上を占めていることになる。米国でさえ昨年は1432万台、日本は438万台(うち170万台が軽自動車。コロナ禍前の2019年は計503万台。ピークの1990年は777万台)である。日本の貿易相手国としても中国がダントツ1位である。
驚異的な成長の裏側に
その巨大なマーケットで猛烈に勢力を拡大しているのが今や世界一のEVメーカーと呼ばれるBYD(今やEVと同じぐらいPHEVも売っているが)や、上海に工場を持つ米テスラをはじめとしたBEVである。上記2686万台の昨年の販売台数のうちの2割(今年は3割を超える見通し)、約550万台がBEVという(PHEVとFCVを含めたNEV全体では688万台)。EVだけで軽自動車を含む日本の国内販売台数を軽く上回る。
もちろんその背景には政府の後押しがある。2016年に打ち出されたNEVに対する補助金は昨年末で終了したが(そのためPHEVが急拡大している)、そもそも中国の大都市圏では大気汚染や渋滞対策のため台数制限が以前から導入されており、新規のナンバープレート取得が難しい。たとえば上海では入札制で平均およそ200万円というが、NEVではこれが免除されるのだ。ただし、これは主に沿岸部のメガシティに限られ、地方都市では普通にガソリン車が買える。地域によって事情は大きく異なるのが中国の特徴だ。
また中国では外国人が簡単にクルマを運転することができない。特別な限定免許証を取ることもできるが、非常に手間暇がかかり、要するに観光旅行でレンタカーを個人で借りるようなことは非現実的。さらにメディア規制が厳しい中国では取材で勝手に走り回るようなこともまず無理だ。モーターショー会場や観光地周辺を訪れただけでは、巨象の一部を撫でるだけ、というようなもの。自動車販売台数世界一、自動車輸出台数も今や日本を抜いて世界一、EVの販売台数も世界一でEVのメッカとして世界の注目を集める中国だが、全貌を知るにはあまりにも巨大で、変化が激しいのである。
背景説明でかなり長くなってしまったが、次回は国内シェア5割を誇る日本のサスペンションメーカーが、中国に進出した理由を説明する。