2023年に乗った中で地味だけど見逃せなかった「マセラティ クワトロポルテ トロフェオ」

【2023年注目されなかった名車】フェラーリ製V8エンジンを積む「マセラティ クワトロポルテ トロフェオ」

「マセラティV8モデルの最後」を祝福するイベントには雪上コースで試乗の機会が用意された。
「マセラティV8モデルの最後」を祝福するイベントには雪上コースで試乗の機会が用意された。
仕事柄、多種多様なニューモデルに触れてきたモータージャーナリストが2023年試乗した中であまり日の目を見なかった名車を選ぶ本コーナー。大谷達也がセレクトした1台はフロントにフェラーリ製V8エンジンを搭載するサルーンだ。

Maserati Quattroporte Trofeo

セルジオ・マルキオンネの戦略

大して期待せずにステアリングを握ったクワトロポルテ・トロフェオだが……。
大して期待せずにステアリングを握ったクワトロポルテ・トロフェオだが……。

マセラティの「クワトロポルテ トロフェオ」が恐ろしく素晴らしいラグジュアリーサルーンに生まれ変わっていてビックリしました。私、MC20以降のマセラティはどれも高く評価しています。グランドツアラーというマセラティの本質を生かしながら、美しいスタイリングと質の高いドライビングダイナミクスを実現していて、ひと昔前のマセラティとはまったくの別物に生まれ変わっているからです。

実はこれ、セルジオ・マルキオンネがFCAのCEOを務めていた当時に決められた戦略に基づくものだったとか。彼は、マセラティというブランドが持つ優れた可能性に着目。しっかりコストを掛けて製品を開発すれば、ラグジュアリーブランドとしてさらなる高みに到達できると確信し、それに必要な対策を実施しました。この方針に沿って誕生したのがMC20であり、グレカーレであり、新型グランツーリズモだったのです。どれも、乗ればボディ剛性が格段に向上していて、内外装の建て付けや走りの質、さらにいえばデザインの美しさまでもが長足の進歩を遂げていることに気づくでしょう。

裏を返せば、それ以前に誕生した現行マセラティには、そこまでのクオリティ感が認められなかったともいえます。だから、先日イタリアでクワトロポルテ トロフェオに乗ることになったときも、大して期待せずにステアリングを握ったのでした。

フロントに搭載されたフェラーリ製V8エンジン

ところが、これが予想とは大違い。まずは、あれほどユルユルだったボディが揺るぎのない剛性感を手に入れるとともに、このしっかりとした基盤を得た足まわりは、スムーズでありながら、あいまいさが微塵もないストローク感を実現。結果として、しっとりとしてとろけるような快適性と、マセラティらしい正確なハンドリングを両立させていたのです。

改めて室内を見直してみれば、インテリアに用いられている素材に安っぽさはまるでなく、ひとつひとつが丁寧に作り込まれていることがうかがえます。もちろん、かつてあれほど耳障りだったガタピシ音は皆無。滑らかな肌触りのレザーシートに身を任せれば、まさに極上のひとときが過ごせることでしょう。

そしてフロントに搭載されたフェラーリ製V8エンジンは“跳ね馬”に積まれているものとは別次元のスムーズさと静粛性を保ちながら、ときにジェントルに、ときに力強く、ドライバーが求めるトルクをふんだんに生み出してくれます。人によっては、そのあまりの静けさを物足りなく感じるかもしれませんが、クワトロポルテのキャラクターを考えれば、これこそが理想的なチューニングといえるもの。それでいて0-100㎞/h加速は4.5秒、最高速度は326km/hに到達するのですから、文句の付けどころがありません。

独プレミアム御三家に引けを取らないが……

全長5mオーバーのサルーンといえば独プレミアム御三家の独壇場というイメージがありますが、ADAS系やインフォテインメント系の充実度を別にすれば、クワトロポルテはライバルに負けていないどころか、正確なハンドリングと快適な乗り心地のバランスという面でドイツ勢を凌駕しているともいえます。このイタリアン・ラグジュアリーだけが持つ魅力を理解できる人にとっては、間違いなく買う価値のある1台といえるでしょう。

ところで、なぜ私がイタリアで改めてクワトロポルテ トロフェオに試乗したかというと、彼の地で開催された「マセラティV8モデルの最後」を祝福するイベントに招待されたからでした。なんと、マセラティは2023年限りでV8モデルの生産を終了。今後はV6エンジンがフラッグシップの座を受け継ぐことになったのです。ちなみにマセラティ初のV8モデルは1959年に誕生した5000GT。そこから脈々と続いてきた歴史が、いま、まさに終わろうとしているのです。

それは非常に惜しいことともいえますが、今であれば流通過程にあるモデルがまだギリギリ手に入る可能性が残されているとのこと。ちょっと宣伝っぽい感じがしなくもありませんが、気になった方は是非、最寄りのマセラティディーラーを訪ねてみてください。

<編注>写真に一部誤りがありました。お詫びして修正します。(2024年1月6日)

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…