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「フリートウィーク」は賑やか!
2022年は海自の番
観艦式とは、いわゆる海軍艦艇が列をなして航行(または定置)し、そのさまをその国の元首や最高指揮官などが観閲する儀式だ。
観閲とは、その組織を実地で見て練度や能力などが基準や規定に合っているか調べあらためる、検閲することをいい、我が国の場合、時の総理大臣が海上自衛隊の艦艇群や航空機などを観閲することを指す。
同様に、陸上自衛隊は中央観閲式、航空自衛隊は航空観閲式という式典を回り持ちで自衛隊記念日に開催している。
今年(2022年)は海自の番で観艦式となった。
海自創設70周年を記念した、外国艦艇を多数招いた国際観艦式は、アメリカやオーストラリアなど12ヵ国の外国海軍から艦艇18隻が参加した(中国とロシア海軍の艦艇は不参加、韓国からは補給艦が1隻参加している)。
国際観艦式の「本番」は2022年11月6日に相模湾で行なわれた。空母化が進むヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が「観閲艦」となって自衛隊の最高指揮官である岸田文雄内閣総理大臣を乗せた。
この「いずも」を先導する護衛艦「しらぬい」と、後続する護衛艦「ひゅうが」「たかなみ」の4隻が「観閲部隊」という艦隊を形成する。
そして総理大臣の観閲を受ける海自艦艇群が「受閲艦艇部隊」を成し、それに外国艦艇群の「祝賀航行部隊」が加わる。諸外国の祝賀航行部隊は「外国艦艇パートナーシップ・フォーメーション」と海自の資料にはある。
これらの艦艇群が各々縦に並んで航行し、「観閲部隊」に対して「受閲艦艇部隊」と「祝賀航行部隊」が海上で相反してすれ違う行為が「観閲」となる。
次に海自の航空機や諸外国の航空機が観閲部隊の至近上空を通過(航過)し、航空部隊の観閲が行なわれた。
続いて「展示訓練」だ。
展示訓練では、海自潜水艦が潜航・浮上を見せ、哨戒機P-1がフレア(赤外線ミサイルから防護するための欺瞞火工装備)を射出、救難機US-2の離着水、そしてブルーインパルスの展示飛行(部隊連携機動飛行)が行なわれた。
つまり観艦式の主要部分は各艦艇群がすれ違う「観閲」行為の前段部分と、これに続く「訓練展示」の後段部分の二段構えで構成されている。
国際観艦式の内容については、すでに皆さん速報系のニュースや海自のライブ映像配信などでご存知の方も多いと思うので割愛して、取材陣を乗せた「いずも」の飛行甲板で体験できたことに絞ってみたい。
米空母「ロナルド・レーガン」の出現!
観閲行為が終了し、訓練展示が始まる前の6日正午過ぎ。観閲艦でありプレス艦でもある「いずも」のすぐ横を多数の艦艇が走り過ぎるさまを、個艦ごとに撮影することに熱中していた筆者だったが、「いずも」の飛行甲板が少しザワつくのを感じて左舷側の海上を見ると巨大な艦影が接近しているのに気づいた。
米空母「ロナルド・レーガン」である。なぜここにいるのか?
米空母「ロナルド・レーガン」は横須賀を母港とするから相模湾や浦賀水道近くにいることは珍しくないが、観艦式の参加リストにはない。
しかもその飛行甲板には艦載機がギッシリと置かれている。さらには「レーガン」の前方には海自艦(「あすか」?)が先導しているように見えた。
そして接近してきた「レーガン」は観閲部隊・受閲部隊の外側を周り始めた。
観艦式のスケジュールは訓練展示が始まっており、「いずも」から見ると訓練を見せている海自艦艇の背後に回り込んだ「レーガン」が必ず入り込む位置関係となっていた。これで、世界各国から取材のため訪れた外国人カメラマンや記者のカメラやビデオ、スマホには必ず写り込むことになった。
予定外の「レーガン」は国際観艦式に事実上参加している状態である。
ちなみに観艦式前後の横須賀港に「レーガン」が入港している姿はなく、つまり国際観艦式の現場海域にどこかから直接現れ、その外周を旋回航行したのち、どこかに向け走り去った。
マリントラフィックなど「AIS(自動船舶識別装置)」の位置情報を閲覧、追跡できていたなら面白かっただろう。
これはどういうことか。「いずも」の飛行甲板で海自方面から聞こえてきたのは『(レーガンは)たまたま近くにいたから寄ったのでは?』といったコメントだ。
これ、笑えるような笑えないような……米空母が航行中に『なんかイベントやってるから寄ってくか』など、考えにくい。
事前の調整はあったと考えるのが常識的、海自の先導艦がいたことがその証ではないか。仮に『寄ってく?』だとして、巨大艦が混雑する海域へ気ままな思いつきで進入するなど、咄嗟のダンドリでは行なえないだろう。海上交通管理当局も許さないと思うし……つまりは『察してネ』ということか。
この事態に速報系の記者たちが書く記事や事後の記事には「米空母サプライズ参加」などのキャッチフレーズの踊るものが散見された。しかし実態はサプライズなどではなく、海自の、そして日米間の周到な準備があったとみるのが妥当だ。
現在では国際親善・国際協調の機会
観艦式はその国の海軍の威容を見せつける場として始まったという。それが近年では国際的な親善の場、平和を求める国際協調の機会としての機能が重視されている。国際的な公の場としては独断専行のような行動はマナー違反で慎むべきこととされているとも聞く。
飛行甲板に艦載機をズラリと並べた状態での米空母の「突然参加」は、中国とロシア、北朝鮮に対する牽制や誇示だと筆者は思う。なにかを企てようとする相手には米空母を送るというマッチョな方法論は健在だ。そしてその用意はあると海自の国際観艦式を通じて発信させたことになる。
仮に、その方法論を観艦式で行なうのがマナー違反なのだとしても、我が国や諸外国はそれを許容したことになる。戦争抑止力の考えだ。
今回の国際観艦式に参加した諸外国を挙げると、アメリカ、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、韓国、パキスタン、シンガポール、タイの12ヵ国。
現在の世界的な安全保障で重視されるインド太平洋地域が網羅されている。これらの国々から18隻が参加した。
欧州からは、たとえばイギリスは人員を参加させ、フランスは人員と航空機を1機参加させている。
これらの国々が協調してウクライナ戦時下に、ロシアや中国、北朝鮮などに野心を放棄させ平和を求める具体的な意志を見せる場として、国際観艦式を演出したのだと感じた1日だった。