BEVで儲けるには10年かかる。テスラはCO₂クレジットでしのいだ 日本勢は?中国は、欧州は?

小鵬汽車が2020年モデルとして投入したセダン「P7」は非常に出来が良く、注目度も高い。しかし「売れても赤字」の状態は改善されていないようだ。
2022年はBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル=いわゆる電気自動車)の当たり年だった。全世界で売れたBEVは英・LMCオートモーティブ調べで約780万台。全世界需要の10%に近付いた。ドイツでは2022年、BEVが全乗用車生産台数の25%を占めた。欧州全体では軽量車(LV=ライト・ビークル、車両重量3.5トン以下)販売台数の約11%をBEVが占め、中国では大型トラックも含めてBEVとPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)が生産ベースで600万台に達した。では、OEM(自動車メーカー)はBEVで利益を出しているのだろうか。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

フォードは1台で284万円の赤字

フォード・マスタング・マッハE。価格は4.6万〜7万ドルだから、1ドル=130円換算で600〜900万円。バッテリーを増量すると追加で6000ドル(78万円)が必要になる。これでも2023年モデルは値下げされている。

つい先日、米・フォードが自社のBEV部門である「モデルe」の経営状態を明らかにした。2022年は年間21億ドルの損失、つまり赤字だった。今年の損失予測は約30億ドルだ。ICE(内燃機関)乗用車部門「ブルー」の税引き前利益は約70億ドル、商用車部門「プロ」は同約60億ドル。合わせて130億ドルの利益だ。このなかからBEV部門が30億ドルを持ち出すということだ。

この発表のなかでフォードは「現在はまだ、我われのBEV部門はスタートアップ企業であり、投資を続けている段階だ」と説明し、2024年以降は「損益分岐点に近づく」との見通しも語った。しかし、たった9万6000台しか販売していないBEVで21億ドル、2730億円の損失を出していると言うことは、1台当たり284万円の赤字だ。

フォードがテネシー州に建設中の新しいBEV工場。コードネーム「T3」と呼ばれる新しいBEVピックアップトラックをここで2025年から生産する予定。

フォードがBEV部門「モデルe」をICE車事業から分離し独立採算制にすると発表したのは昨年3月だった。さまざまな事情を勘案した筆者の見立てでは、フォードBEV部門の黒字化は2026年か、あるいは規模見直しやVWとの連携も含めた再設計を伴って2027年か、である。決算上の数字を強引に操れば2024年に単年度黒字化できるかもしれない。しかし累積赤字は残る。しかもこの先の開発費負担と先行投資があるから、そう簡単にBEV事業で利益を出せるようになるとは思えない。

VWグループのセアトはVWのBEVプラットフォーム「MEBエントリー」を使い自社のCupra(クプラ)ブランドからコンパクトBEV、アーバンレヴェルを投入する。LIBはVWが設立した電池メーカーであるPowerCoが供給する。同時にセアトはVW、ID.2allの生産も請け負う。

VW(フォルクスワーゲン)は2024年にICE車とBEVの利益率を同じにする目標を掲げている。来年である。ポルシェやランボルギーニ、ベントレーなど傘下ブランドも全部ひっくるめて、他社から買い取ったCO₂クレジットの金額をICE車部門に計上すれば利益が減るから、ひょっとしたらBEV部門とトントンになるかもしれない。

VWはスペイン(子会社SEAT)とチェコ(子会社SKODA)にBEV工場を建設し、低価格BEVを製造するほか、LFP(リン酸鉄)系LIB(リチウムイオン2次電池)搭載グレードを設定し「数を売る」ことでBEVの全体コストを引き下げると言う。現状では、同社経営陣も言っているように「利益面では苦しい」から、欧州域内でも「少しでも人件費の安い地域でBEVを生産する」という手段に出る。

VWのエントリーBEVはスペインのセアトとチェコのスコダが生産を担当する。電池工場はスペインのバレンシアに建設が始まり、2026年から生産が始まる予定。「ID.2all」は際廉価版の車両価格が2.5万ユーロを下回る予定で、現在の「ポロ」の2.1万ユーロの2割増し以下に設定するようだ。

中国は? PHEVで利益を出す

中国の例では、新興OEMは軒並み苦しい。BEVスーパーカーを御神体に、比較的高価格帯のBEVを販売している蔚来汽車(NIO)は、2015年の法人化から7年を経た現在でも累積赤字を抱えている。同じ年にBEV専業で法人化した仲間には理想汽車(Li-AUTO)や小鵬汽車(Xpeng)があるが、そろって赤字を抱えている。

皮肉なことに、2022年はこの3社とも「販売台数が増えると赤字が膨らむ」結果だった。原因は「資源価格の高騰」と、半導体不足により「完全に売り手市場になった半導体業界が値上げばかりしているため」だと言う。もちろん政府のゼロコロナ政策も経営の足を引っ張った。

ICE車の人気モデルだった「奔奔(ベンベン)」をBEVに仕立てて売り出したのが2016年。ICE使用の車体後部にLIBを搭載していた。中途半端ではあったが、上海市中心部への乗り入れ規制に引っかからない小型BEVは売れた。
NIOはBEVスタートアップの中では大成功の会社だ。当時、約80社のBEVスタートアップを中国政府が認可したが、そのほとんどはデザインスケッチと実現性の怪しい設計データしか持っていなかった。投資家にデザインを見せて資金援助を乞う方法で成功したのはほんのわずかであり、NIOはそのうちの1社だった。この写真のようなBEVスーパーカーを受注生産して投資を募り、現在はBEVセダンを量産している。

中国国営の老舗OEMもBEV事業は厳しい。長安汽車は2010年から鉛電池を積んだ自社開発のBEVを販売してきた。売れ筋だった小型車「奔奔(ベンベン)」のBEVにはLIBを搭載し2015年に発売した。2018年にはプレミアムBEV市場に参入する新ブランド「アバター(AVATR)」を立ち上げた。

しかし、昨年は本体の長安新能源とアバターの合計で25億元近くの損失を出した。2022年の円・人民元レート平均は1元=19.6円だから、これで計算すると490億円の赤字だ。

トヨタ、ホンダと提携する広州汽車は、この日系2社の工場が生産するモデルが産む利益の半分(出資比率50%なので)が転がり込むため手持ち資金は潤沢で、これを使って2017年にBEVブランド「埃安(AION)」を立ち上げた。2018年には年間1万台弱だった販売台数は2021年に12万台まで増えたが、この年は13億元の赤字を計上した。2022年も赤字経営は続いた。

中国政府が新能源汽車(新エネルギー車=New Energy Vehicleの頭文字をとってNEVと呼び、BEV/PHEV/FCEVの3カテゴリーがここにカウントされる)の販売を奨励し、OEMごとに販売比率目標を課し、達成できなかったOEMに「販売目標を達成した同業他社からクレジットを分けてもらいなさい」という罰則を適用したのは2018年だった。このころ、中国政府は国内のOEMとバッテリーメーカーには補助金をばらまき、一斉にNEVへと舵を切らせた。しかし、4年を経た現在でもBEVの黒字化は難しい。

そのなかで、中国最大規模の乗用車メーカーに成長した比亜迪汽車(BYDオート)は、正味熱効率43%という自社開発の高効率ICEを搭載したPHEVを売って利益をあげている。LIBはすべて親会社であり電池メーカーであるBYDが内製しているが、BYDオートでさえBEVだけではそれほどの利益は上がっていないだろう。PHEVが売れているから利益が出ている、ということだ。

BYDブランドのPHEVがあまりに売れたので、ライバルの中国民営系OEMが一気にPHEV投入へと動いている。同時にICE開発が活発化してきた。高効率ICEはBYDオート以外にも吉利グループ、長城汽車といった民営系が力を入れており、中国政府も、2035年に向けた自動車政策を「NEVは全体の半分。残りは燃費の良いICE車(つまりHEV)」へと転換した。BEV一辺倒は不可能という判断だ。

それでも、日本の軽自動車に相当する「A00クラス」は、2022年中に全車がBEVに置き換わった。上海通用五菱汽車が製造する格安BEV「宏光MINI」は2021年と2022年の中国ベストセラーBEVだが、関係者によると「利益率は1%あるかないか。赤字にならないだけマシ」という状況だったという。2022年は原材料費とLFP系LIBの値上げを受けて2度も値上げして利益確保を目指したが、「結果はあなたの想像に任せる」と言われた。中国の販売関係者からは「値引きがエグかった」とも聞いた。

テスラは創業初の年間を通しての黒字

中国に車両工場を持ったテスラはどうか。上海の車両工場が完成した2019年12月以降は生産台数が増え、部品調達に「数の効果」が出た。アメリカに比べて人件費が圧倒的に安い中国で生産した結果、コストは激減した。中国製LFP系LIB採用でもコストが下がった。その結果、創業以来初めて年間を通しての黒字になった。

過去、テスラの経営を支えてきたのはBEVの製造・販売という「本業」ではなくCO₂クレジット販売だった。この収益がなかったらテスラは赤字のままだ。同時にテスラのLIBはパナソニックが技術面と供給面を支えた。CO₂クレジットを販売して得た利益でテスラは工場を増やし、イタリア・IDRAからギガプレス生産設備を買った。このビジネスモデルが成功したのだ。

日本勢はどうか?

日本勢はどうか。日産と三菱自動車は、いわゆるxEV(HEV/PHEV/BEV/FCEV)製造で利益を確保している。三菱は過去にBEV、i-MiEVで苦労したが、現在はエクリプスクロス、アウトランダー、というSUVのPHEVが売れているため、ここで利益を出している。日産は初代リーフの販売台数が当初の目論見にはまったく届かなかったが、軽BEV、サクラは三菱eKクロスEVと兄弟車であり、LIBはリーフのモジュールの半分を積むなど、日系OEMらしい工夫と努力で製造原価を削っている。

日産もBYDオートに似ている。シリーズHEVモデルである「e-POWER」系が売れており、ここから利益があがってくる。シリーズHEVがなかったらxEV領域での利益確保は難しかっただろう。リーフ投入から10年を経て、やっとxEV事業の黒字安定化が見えてきたのだと思う。だからアリアでは思い切った投資ができた。

それと、電池メーカーの協力だ。日産が使うLIBはNECと日産の合弁会社・AESCが製造を担当していたが、同社は中国の遠景集団(エンビジョングループ)に事業売却され、旧AESCの技術知見は遠景集団が持って行った。とはいえ、AESCの薄型ラミネートLIBを日産が使い続けたからこそ、現在のLIB調達コストがある。AESC自身もLIBコスト低減では苦労し続けてきた。

いっぽう三菱自動車はGSユアサからLIBを調達してきた。あまり詳しくは書かないが、三菱グループの要望もあってBEVを作ったら三菱グループから「梯子を外された」形になり、i-MiEVは当初予定の生産台数にまったく届かず、LIBのために設備投資を行なったGSユアサもその割りを食った。

GSユアサはホンダとの合弁でブルーエナジーを2009年に立ち上げ、現在はトヨタにも納入している。GSユアサ/三菱商事/独・BOSCHの3社合弁だった2013年設立のLEAPは5年後に事業解消された。I-MiEV生産開始までのGSユアサの直接投資は150億円を超えていた。三菱のBEVが10年で30万台売れれば、この150億円は1台当たり5万円になる。しかし、そこまでは売れなかった。

すべてがうまく噛み合い、大きなラッキーがひとつかふたつあればBEVで利益を出せる。しかし、何だかんだ言って10年かかる。いまのところはそんな印象である。

そして、電池メーカーの献身的な薄利多売努力がBEVには不可欠だ。2010年前後の日本の様子を見てそれ学んだ中国は、国内の有望な電池メーカーに巨額の補助金をばらまき(一説には1社で1000億円以上)、「えげつない値段で売り込み」(これは某OEMの証言)をやらせ、世界の車載LIB部門を牛耳る作戦に出た。

いま、欧州のOEMはせっせと自前の電池工場を建てている。電池メーカーなどにも出資させて自前の電池工場を持たないと利益は出ないと判断したからだ。しかし、そもそも電池技術は持っていない。だから中国と韓国の電池メーカーがそこに食い込んだ。残念ながら、日本にはパナソニックしかない。AESCは中国に売られ、三洋は消滅し、シャープは中国資本になった。東芝はSCiBというオンリーワンの電池技術を持っているが、経営のバタバタもあって思い切った投資への判断ができないでいる。

この続きはまた、べつの機会に。

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著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…