11代目にあたる新型シビックのターゲットユーザーはGeneration Z(ジェネレーションZ)だそうだ。1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代を指すので、下はようやく免許取得年齢に達した年齢で、上は20代半ばになる。「代を重ねるごとに高齢化していったユーザーの若返りを図ろうとしている?」といぶかしんだが、先代(10代目)も20代に強く支持されていたのだという。しかも、MTの比率は3割に達していたのだという。
走りを能動的に楽しみたい若者が、シビックを選んでいたのだ。クルマを走らせる行為を積極的に楽しみたい若い層の選択肢はGR 86(先代はトヨタ86)/スバルBRZだけではないことに気づかされた。シビックの魅力のひとつは、ユーティリティの高さだ。86/BRZにも後席は備わっているが、お世辞にも大人4名が快適に移動体験を共有できる空間にはなっていない。むしろ、ユーティリティを割り切ったところが、86/BRZの美点だ(交換用のタイヤ4本を積むことはできるが)。
それに、86/BRZはシビックのように「先進デバイスに関する高い感度を持つ」世代が、「いいな」と思えるような装備やデザインになっていない。むしろ、そういう要素を拒絶したところでクルマづくりを行なっているのが86/BRZだ。硬派か軟派で切り分ければ、86/BRZは硬派、シビックは軟派に分類できるかもしれない。
じゃあ、ただ大人4名がしっかり乗れて、荷物をたくさん積むことができて、MTの設定があるだけの軟弱なクルマかというとそんなことはなくて、新型シビックはクルマをストレスなく走らせるためのお手本のような設計になっている。走りに関する静的な作り込みに関して芯が通っているということだ。まず、視界がいい。Aピラーは先代比で50mm後退させ、水平視野角を広くとった(先代比+3度の87度)。ワイパーブレードが視界の邪魔をすることなく、いわゆる視覚的なノイズが極力廃されているのがいい。
運転中に視界の隅にぼんやり入り込むインストルメントパネルが水平基調のシンプルな構成なのも、運転に集中する意味で好感が持てる。これも、走りに関して芯が通った部分だ。シンプルな構成にすると味気なくなりがちだが、パンチングメタルのエアコンアウトレットやアウトレットのノブ、エアコンのダイヤルスイッチがいいアクセントになっている。味気なさや安っぽさとは無縁で、むしろ機能的でカッコイイ空間になっている。そのため、運転席に腰を下ろすと、自然に気分が上がる。
クルマを走らせたときの質感もいい。八ヶ岳(山梨県)周辺の急な上り勾配と下り勾配、それに小から大までさまざまな曲率のカーブが組み合わさった道路を最初に走らせたのは、クラッチペダルを持たないCVT仕様のほうだった。エンジンは6速MTもCVTも共通で、1.5ℓ直4ターボを搭載する。最高出力は182ps(134kW)/6000rpm、最大トルクは240Nm/1700-4500rpmを発生。最大トルクを従来比で20Nm高めただけでなく、応答性や燃費の向上技術を入れ込んでいる。
平坦な市街地を周囲の流れに合わせて淡々と走るというような、日常的な走行を体験できなかったので限定的な印象になるが、エンジンは頼もしく、刺激的だ。「いま加速したい」と、無意識にそう思ってアクセルペダルを踏み増すと、間髪を入れずにグッと背中を押す加速を返してくれる。しょせん182ps(134kW)なので、意識が遠のくような暴力的な加速は期待できないが、反応の良さとリニアリティの高さは絶品で、エンジンとの対話が楽しいし、ストレスを感じない。
CVT仕様にはドライブモードを切り換える機能がついており、デフォルトのNormalからSPORTに切り換えると高めのエンジン回転を保つようになる。ワインディングロードではアクセルペダルをオフにした際のエンジンブレーキの利きが強くなって速度のコントロールがしやすくなるし、急減速した際はNormal時よりも積極的にMTのようなステップ状のシフトダウンを行なって気分を高めてくれる(と同時に、エンジン回転数を高く保ってコーナー立ち上がり加速を支援してくれる)。
脚はしなやかだ。ステアリングは重からず、軽からず、グリップの太さも含めてちょうどいい。試乗会場周辺の一般道は荒れた路面で、なかなかのハイペースで地元の人たちは走っている。その路面を最初に体験したのは、我がMAZDA3 e-SKYACTIV-X搭載車で、6MTかつAWDだったのだが(車両価格はシビックEXと同等)、荒れた路面のいなし具合に関しては、シビックの脚と取り替えて帰りたいと思ったほどだ。
ちなみに、シビックのタイヤサイズは235/40R18で、グッドイヤー・イーグルF1を装着。指定内圧はフロント225kPa、リヤ220kPaで、転がり抵抗を小さくするために内圧を高めに設定するケースが多い状況で、低めの設定といえるだろう。このあたりも乗り味に影響を与えているだろうか。MAZDA3のタイヤサイズは215/45R18でブリヂストン・トランザT005Aを履いている。指定内圧はフロント260kPa、リヤ250kPaだ。
ワインディングロードでステアリングを切り込んだ際、狙いどおりにクルマが向きを変えてくれるのは、ボディ剛性の高さに起因するところ大だろう。いまクリアしたコーナーから次のコーナーへのリズムが作りやすい。素直に向きを変えてコーナーに進入し、しっかり踏ん張り、外に膨らむ素振りを見せずにスムーズに立ち上がってくれる。気持ちのいいエンジン音をともなって。
もう一往復したいなと思ったが時間がない。試乗会場に戻って6MT仕様に乗り換えたが、エンジンを始動し、シフトレバーを1速に入れた瞬間に衝撃を覚えた。シフトフィールが完全にガチである。今までプラスチックのピストルで遊んでいたつもりだったのに、いきなりホンモノを握らされた気分だ。「オイオイ、ここまでしてくれとは頼んでないよ」と言いたいところだが、「じゃ、要らないんですか」と聞かれたら「このままでいいです」と即答するだろう。ちょっと面食らっただけだ。
剛性感の固まりのような操作フィールだが、シフトレバーの入りも、抜きも、渋くなく、引っかかりもなく、しっかり入って、スッと抜ける。セレクト方向(左右)もシフト方向(前後)もストロークは短いのだが、短すぎずに適度で、ひたすらダイレクト感が高い。それに、5→4や3→2のようなシフトダウンがスパッと決まって運転のリズムを崩さない。このシフトフィールが欲しくてシビックを選ぶ、という判断もアリだ。それほどに際立った個性を備えている。ジェネレーションZだけを楽しませるのはもったいないゾ……。
ホンダ・シビックLX(CVT) 全長×全幅×全高:4550mm×1800mm×1415mm ホイールベース:2735mm 車重:1360kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rマルチリンク式 エンジン 形式:直列4気筒DOHCターボ 型式:L15C 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:10.3 最高出力:182ps(134kW)/6000pm 最大トルク:240Nm/1700-4500rpm 燃料供給:DI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:47ℓ 燃費:10モード 12.2km/ℓ トランスミッション:5速MT WLTCモード燃費:16.3km/ℓ 市街地モード 11.7km/ℓ 郊外モード 17.1km/ℓ 高速道路モード 18.9km/ℓ