『AUTOMOBILE COUNCIL 2023(オートモビルカウンシル)』(4月14日~16日、幕張メッセ)で気になるブツを発見した(実際には “仕掛け人”に、「ちょっと見ていって」と袖を引っ張られたのだが……)。
『日下エンジニアリング』(https://kusaka-eng.com)のブースに展示してあったのは、TOYOTA GAZOO Racing TS050ハイブリッドが搭載するハイブリッドパワートレーンの6分の1スケールモデルである。5月発売予定で、価格は15万円(税別/予価)。隣に置いてある「RB26Bエンジンモデル マツダ787Bモデルカー付仕様」の台座の幅が400mmと記せば、スケール感をイメージできるだろうか。なかなかのボリューム感と、見る物を圧倒させずにはおかないリアルな質感である。
TS050ハイブリッドは、トヨタが2018年のル・マン24時間レースで初優勝を飾った車両だ。この車両自体は2016年に当時の最上位カテゴリーであるLMP1に投入された。以後、車両、エンジンともに改良が加えられて2020年シーズンまで用いられた。2017年にはさらなる効率向上を実現するためにプレチャンバー・イグニッション(副室ジェット燃焼)が適用されている。
市販予定の6分の1スケールモデルは、台座のプレートに「2018、2019、2020年のル・マンウイナー」とあることから、プレチャンバー・イグニッションを適用した仕様がモデルになっていると推察できる(もちろん中身の仕様まではわからない)。
TS050ハイブリッドのハイブリッドパワートレーンは、2.4LV6ツインターボエンジンと、インバーター一体のフロントモーター/ジェネレーターユニット(MGU)、コックピット内の運転席右側に搭載するリチウムイオンバッテリー、それにリヤMGUで構成される。フロントMGUはアイシン・エィ・ダブリュ(現アイシン)製、ギヤボックスケースの前端に配置されるリヤMGUはデンソー製だ。バッテリーの上にはリヤMGU用のインバーターが載っている。
エンジンの最高出力は367kW(500ps)、MGUは前後合わせて367kW(500ps)の最高出力を発生すると発表されており、システム最高出力は735kW(1000ps)になる。日下エンジニアリングの6分の1スケールモデルは、1000馬力を発生する4輪ハイパワー回生&力行システムを忠実に再現していることになる。
外観の形状データはトヨタから提供を受けているため、純粋にスケールダウンされた状態。それだけではカーボン部品などの質感を正確に再現できないので、日下エンジニアリング株式会社 代表取締役社長の佐々木禎氏は、開発拠点であるトヨタ東富士研究所まで出向き、実機を確認したという。
「レーシングエンジンはひとつひとつの形に意味があります。設計者の思いやストーリーをモデルに入れたい」と佐々木氏は語る。1991年のル・マン24時間レースを制したマツダ787Bが搭載する4ローター・ロータリーエンジンのR26Bをスケールモデル化する際は、エキゾーストマニフォールドの伸び縮みを許容する留め具の再現に強いこだわりが見られたという。
TS050ハイブリッドのハイブリッドパワートレーンの場合、こだわりのひとつは「ターボハンガー」だという。Vバンク左右に配置するターボチャージャーを吊る構造物で、リジッドに固定するとエキゾーストマニフォールドの熱膨張によって壊れる恐れがあるため、膨張~収縮による変位を許容する吊り構造とした。モデル製作側としては細かくて厄介なしろものだが、設計者の意図を汲み取り、こだわって再現した部位である。
コンプレッサーに空気を導くカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)製のパイプやエキゾーストマニフォールドにテールパイプの焼け具合など、実機の質感が精度高く再現されているのが印象的。非常に豪華な、こだわりの逸品である。
TS050ハイブリッドのハイブリッドパワートレーンに関しては『Motor Fan illustrated特別編集 モータースポーツのテクノロジー 2019-2020』に掲載しているので、ご参考まで。