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自動車用サスペンションメーカーである「TEIN(テイン)」が、2002年から販売している電子制御式のショックアブソーバー用減衰力コントローラー『EDFC(エレクトリック・ダンピング・フォース・コントローラー)』の第5世代モデルとなる「EDFC5」の実力を、クローズドサーキットで試乗する機会を得た。

EDFC5 は芝浦工業大学の渡邉 大教授との産学連携によって開発。「ジャーク制御」を取り入れたことによりシャープなハンドリングとソフトな乗り心地の両立をし、ドライバーが求める挙動を自動で作り出す。さらに、「AI機能」を搭載することで様々な走行シチュエーションでも違和感のない、適切なジャーク感覚を実現している。これまでのモデルでは一部車両で「モーター音が気になる」と言われていたが、モーターの制御方法 を一新することにより作動音を低下。アフターパーツであっても純正のような静かさを手に入れた。
今回の試乗ではミニバンからスポーツカーまで合計5台の『EDFC5』装着車が用意され、その中からまず選んだのは新型プリウス。そのインプレッションは以下の通りだ。『EDFC5』の詳細もそちらに記載しているので合わせてご覧いただきたい。
ピュア・スポーツカーとEDFC5の組み合わせやいかに?
トヨタ プリウスで肩慣らしをした後は、真打ち「GR86」を走らせた。EDFC5の実力を、ピュア・スポーツカーで確かめるのがその狙いだ。

サスペンションシステムの組み合わせは、プリウスと同じフルタップ式の車高調整機構を持つ「RX1」。そのスプリングレートは前2.7kg-mm/後4.0kgーmmとファインチューンのレベルだが、タイヤはストリートラジアルとして最強グリップレベルを誇る「POTENZA RE-71RS」の組み合わせ。普通なら完全に「タイヤ勝ち」となって、ロール量だけが増えてしまいそうな仕様だったが、それだけにEDFCのダンパー制御がどうなるかは興味深かった。

全長調整式ストリートユースフルスペック車高調で、フル乗車、荷物満載でもギャップを通過する際の不快な衝撃を低減する「ハイドロ・バンプ・ストッパー(H.B.S.)」を採用。「キャンバー調整式ロアブラケット」がこれまで不可能だったキャンバー角調整を可能とし、幅広いセッティングを実現。シールド構造により高品質とロープライスも両立している。もちろん、オーバーホールによるリフレッシュや仕様変更も可能で、末長く付き合えるサスペンションだ。
そして実際に筆者は、その安定性にかなり驚かされることとなった。
結論を先に急げばこの組み合わせは、面白くないほどに走りが安定していたのだ。
走らせ方は、プリウスと同じ。まず16段の減衰調整(EDFC表記だと1クリックを三分割するため、最大値が48となる)を真ん中にセットし、EDFCのモードで「M」(マニュアル)/「J」(ジャーク)/GJ(ジャーク+Gモード)を試した。

感心したのは、そのサスペンション剛性がRE-71RSに負けていないことだった。もともとRE-71RSはショルダーをラウンド形状とすることで、キャンバー角が小さなストリートカーでもコーナリング時の対地キャンバーが確保できるようになってはいる。
しかしながらRX1車高調自体も操舵時における腰砕け感や突っ張り感がなく、切ったら切った分だけコーナリングフォースを高めてくれるのだ。また下りながらのS字コーナーで縁石をまたぐような場面でも、車体が底付したり飛んだりしない。
そこには複筒式ダンパーが持つ初期入力の穏やかさに加えて、ハイドロバンプストッパーの効果が現れているのだだろう。また全長調整式として調整部分を増やしながらも、ストラット・ロアブラケットの肉厚を確保して剛性を上げるなどした、まじめな物作りが生きているのだと思う。
「GJ(ジャーク+G)」モードの安定感は抜群
さて肝心な減衰力制御だが、ジャークモードは二度目の試乗でも、変わらず新鮮だった。制御のあらましは前回のレポートを参照して欲しいが、とにもかくG変化に対して車体を安定させることができる。
たとえばヘアピンのようなタイトコーナーの場合は、まずブレーキングによるG変化に対応してダンパーが減衰力を高める。そこから縦Gを緩めて横Gへと変換して行くわけだが、その際の追従性も突っ張り感や減衰抜けが全く感じられず、スムーズにターンすることができる。

ただプリウスのときと同じく、旋回Gが一定になると設定値まで減衰力が戻るから、フワッとGが抜けるようなフィーリングを覚えた。試乗車は不特定多数のドライバーが乗ることを考慮して車高バランスをかなり安定方向へセットしているのだろう、リアが滑り出すようなことはないのだが、サーキットレベルだとちょっと心許ない感じがした。
ということでこれを予定通り「GJ」モードにすると、挙動はばっちり安定した。路面はまだ所々ウェットパッチが残る状況だったが、こうしたG変化にもEDFCの制御が細かく対応できているのだろう、安心してアクセルを踏んで行ける。またそれは同時に、RX1ダンパーの追従性の高さをも示している。

ただその挙動があまりにも安定していて、違和感を持ったのも事実だ。GR86はノーマルで、かなりオーバーステアなキャラクターを持つスポーツカー。これがターンインの良さはそのままに、リアスタビリティだけどっしり引き上げられているのである。
というわけで今度はデフォルトの減衰力設定値を、リアだけ大きく緩めたり、前後とも緩めたり、はたまた前後共に最大値付近まで上げたりしてみた。こういうことがコントローラーで簡単にできてしまうのは、本当に便利だ。
果たしてその結果はというと、リアの減衰力設定を緩めた際がニュートラル方向へ挙動を変更できた。とはいえGJ制御がその挙動変化に対しても補正を与えてしまうから、曲がりやすくオーバーシュートしない特性は大きく変わらなかった。

その効果は大きく、“速さ”を追求するなら絶好のチューニングパーツ
ブレーキのリリースパターンを色々変えても、挙動は安定。クリップからアクセルを早めかつ強めに踏み込んでも、トラクションがしっかり掛かる。このあまりの可愛げのなさに筆者は、最初「ちょっとツマラナイな」と感じた。
だが今ではこれはかなりすごいことだと、その考えを改めている。なぜならEDFC5の制御を使えば、ドライバーは純粋に速さを追求できるからだ。

たとえばウェット路面で、その安定感が強力な武器になるのは明白。事実TEINは全日本ラリーでこれを実践投入しながら開発を続けているし、アジアではその効果が高すぎてEDFC5の使用そのものを禁止にしてしまったレースもあるのだという。

ちなみに今回は旋回効率を重視したプログラミングとなっていたが、開発陣いわくこれを、よりドライバーの感覚に近づけて行くことも当然可能だという。
たとえばブレーキング時には最適なノーズダイブ量を発生させて、タイヤの接地面積を最大化する。ターンではニュートラルから弱オーバーステアを誘発させながら、バランススロットルでトラクションを掛けてターンアウトする。
こうしたセオリー通りの姿勢を、これまで以上に安全に作り出すことも、視野に捉えているのだという。

いわばEDFC5は、我々一般ユーザーが手に入れられる超高性能なアクティブダンパーシステムだ。ミニバンのドライバビリティ向上から、本格的なレースセッティングまでこなせるこのシステムが、わずか10万円程度で手に入るのはもはやバーゲンプライスである。